Number.35 目と鼻の先
こちらがある程度の配置を完了させても、敵に動きは無かった。
圧倒的な戦力差を誇るはずのブルー・ケントゥリアは、まるで置物のようにそこに鎮座している。
不気味に感じつつも痺れを切らして迎撃命令を出し、前進させることでようやく相手側も動き出した。
「待っていたのか?こちらが動くのを?」
「あの貴族野郎、何を考えていやがる?デセアトの部隊、よりにもよって"ケントゥリア"に、真正面からやり合えってか?」
そんなことを考えている間にも、正面から聞こえてくる整った足音はだんだん大きくなってきている。
逃げたい気持ちを必死に抑えながら歩みを進める。足元がぬかるんでいるように重い。
奴らが銃口をこちらに向けているのを、ついに目視で確認できるほど近づいてしまった。
ブルー・ケントゥリアとの距離を縮めながら、さっきの会話を頭に浮かべる。
「ミナト......」細くか弱い声でフィティが話しかけてきた。
「今回の戦闘、私ミナトについていきます」
「え?......だめだよフィティ、君はみんなを治してあげなきゃ。」
そう言ってやると俯いてしまった。「私戦闘は出来ません......でも、でも......」
「.........分かった。ついてきていいよ。でも、無理して前に出ないようにね......」
「はい!」フィティはパッと明るくなってそう返事をした。
隣にはフィティがいて、一緒に歩いている。相変わらず大きな杖を抱えて。
どうしてあのことを了承したのかは未だによく分からない。あの目を、フィティのあの姿を見ると断れなかった。
しかし、深く考えるのは後にした方が良い。ブルー・ケントゥリアは、もう目と鼻の先ほどまで来ているのだから。
デセアトと人間がちょうど分かれているところで、小さな鉄の塊が飛び交った。
弾が当たった人間はその場に倒れるか、痛そうに当たった部分を抑えた。弾が当たったデセアトは、装甲に本当にわずかな傷だけをつけて、そしてそのまま前進した。
地面が赤く染まっていくと同時に、人間の数は減っていく。
フィティやウィザードたちも精力的にサポートしていたが、明らかに間に合っていない。
さすがのリカバリーでも、死んだ人間をよみがえらせることは出来なかった。
今回もデセアトには軽く傷を付けてやるだけだったが、数が多い。
数十体は見つからないように直接破壊してしまった。
そして前線に連れてきてしまったフィティだが、負傷した味方をその場ですぐ治せるということもあり、右へ左へ忙しなく動き回っていた。
「ミナトー!」
叫び声の聞こえた方を向いてみると、シスクトだった。左腕に傷を負っている。
「おう、どうした、珍しい。」
「ああこれな、ちょっとあってよ......後でフィティちゃんに治してもらおうと思ってたんだが......」
話している間に接近してきたデセアトを一体、容赦なく破壊した。十分な力があれば剣一本でもできる。
「大人気だからな......それより、こっちに来たのは何か理由があるんじゃなくて?まさか雑談だけしに来たのかい?」
「ああ......勿論雑談だけじゃない。奴ら、撤退を始めている。」
そう聞いて周りを見渡してみると、数体破壊されたのもあるだろうが、明らかにデセアトの数が減っていた。
さらに視野を広げてみると、後ろで待機していたデセアトたちは後退を始めているらしかった。
「なぜ......まだあっちが有利だったはずだ......」
「僕が退かせたんだよ。」甲高い声と共に現れたのは、まさに"狐"のような顔つきをした小柄な男だった。頭頂部に二本、尖った耳を持っている。
「あ?なんだお前......うぐっ?!」
男に突っかかったシスクトが、突然首を絞められたように苦しみだした。
男の方に目を向けると、その手の形だけが、首を絞めていた。
「"お前"呼ばわりは気に入らないね。僕はディハームスキック・ディフィック。魔王四天王だよ?」
ディハームスキックが手を広げると、シスクトが地面に膝をついて呼吸を荒くしだした。
「魔王......四天王......何の用だ......直々に......」
「用があるのは僕じゃないんだ。僕はただ、邪魔者を掃けただけ。」
彼が右へ移動すると、元居た地面には暗い紫の"魔法陣"が現れた。
「さあ、魔王様のお出ましだよ......!」
「魔王......!!」
ミナトは険しい顔を、今、魔王が現れんとする魔法陣に向けていた。




