Number.33 神が成せる所業
魔王四天王たる私にも怖気ず、身を乗り出してハイフィス・フェイビデイ君が突っかかて来た。
「ザツィクル・ヴァチェキ様!私の仲間に何かなされたのではありませんか!?」
「あえ?ん~......何もしてない筈だけどなぁ~」
「嘘です!絶対に嘘です!嘘でなければ、元から私の仲間はあんな感情のないロボットだったというのですか!」
口を大きく開いて問い詰めてくるハイフィス君をうざったく思ったが、同時に何か楽しい気持ちも感じたのだった。
それはそれとして、うるさいので黙らせよう。
「あんまり無駄な詮索はしない方がいいよ~?また盗賊生活に戻りたくはないでしょう?」
ハイフィス君の唇に人差し指を当ててやると、瞬く間に顔を真っ赤にして後ずさりしてしまった。
頭を下げて部屋を出る彼を手を振って見送ると、再び椅子に腰をかけたのだった。
「ザツィクル君......ザツィクル君......?」
ハッとして上を見上げると、相も変わらず魔王様が玉座に腰かけている。
「あっ、すみません......大丈夫です、すみません。」
自分でもよく分かるほど動揺していたが、魔王様がそれについて何かを言うことは無かった。
「......それでね、君の部隊に"ブレイン"をかけていない人間がいるみたいなんだけど。」
肩をビクッと上げてしまった。特別に隠しているというわけでは無かったはずだが、何故か重要な秘密を、結局隠し通せなかったときのような刺激を感じた。
ハイフィス君には"ブレイン"が通用しなかった。何か強力な力が、彼を守っているようだった。
あれはこの世の力ではない。まさしく神が成せる所業だ。
「何か、考えがあってのことなのかな?」
その優しい声音から裏を感じることは無かったが、その時抱いた恐怖と緊張を拭うのには足りなかった。
「あ......あの......」頑張って声をひねり出したが、それは自分でも笑ってしまいそうなほどおかしいものだった。
「彼には......ハイフィス・フェイビデイには利用価値があると考えました。ブレインで操るよりも、意識を残して使った方がいいと......」
その言葉の後に続いた沈黙は、私の心臓を握りつぶしてしまいそうだった。
「......んー、そっか......まあケントゥリア・1は君に任せるっていう話だったからね、自由にすると良い。」
心臓を握る手から開放されたときには、私の顔色はきっと死人のようだっただろう。
自分が生きていることを、ここまで深く実感したのは久々だった。
部屋を出て周りに誰もいないことを確認すると、じっくりと深呼吸した。
体内の空気が入れ替わっていく。魔王室の空気が外に抜け、代わりに廊下の空気が入ってくる。
それは、想像していたよりもずっと気持ちの良いものだった。
何度も何度も深呼吸をして気が済んだ後、自室へ向かうために長い廊下を歩いていた。
その時、尖った耳を携えた小柄な者とすれ違った。
ディハームスキック・デジフィックだろう。"赤髪の少女"探しの真最中と聞いていたが......。
掌に"力"を集中させて、潰れた花にかざしてやる。
緑色の光が掌から放出されると、花はいとも簡単に、そして見事に、美しい花弁を開いて見せた。
自分はついに"魔法使い"になれたのだと、本来は両手をあげて喜ぶのだろうが......その時は、素直に喜ぶことが出来なかった。
「やっぱりここにいたか......フィティ。修行じゃないんでしょ?」
後ろから歩いてきたのは、優しく微笑むミナトだった。彼の表情を見ると、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
「あの......あの......すみません......」
ミナトが首をかしげているのを見たとき、自分は言うべきでないことを口走ってしまったのだと気が付いた。
「私が旅ではなく、ルイスさんとの修行で魔法を使えるようになったのが、なんというか......その......」
言葉を探し始めたところで、ミナトが手を私の頭に乗せてきた。
戸惑う私を気にも留めず、彼は手を離そうとしなかった。
「俺はフィティが魔法を使えるようになったことが嬉しい。」
それ以上は何も言わなかった。ただ、私の頭をなでるだけだった。




