Number.32 私は諦めませんからね
「身の危険を感じると無意識のうちに魔法が発動するんです。さっきのバリアも然りです。つまり、魔法使いとしての才覚は十分に持ち合わせているということ......フィティさんが魔法を使ったときの事を、よく思い出してください。」
ルイスはそう言いながら、長方形の箱をいじっている。
「良いですか?あの二人は魔法使いではないんです。つまりあなた含めた三人で行動していた時、魔法が発動したとするならあなたが使ったんですよ。」
あの二人とは、間違いなくミナトとシスクト......彼らと初めて会った時、私はデセアトに襲われていた。
ミナトがそれを救ってくれた。確か、突然目の前に現れて......。
「さ、準備できましたよ。」
ルイスの声が想起を中断させた。
見ると、当人は裏側に回っていて、箱のみが目に映っている状況だった。
「ほんとは復元魔法から学ぶのが基本なのですが......フィティさんみたいな方は"意図的に発動させること"を学んだ方がいいですので......」
カチッという気持ちの良い音が鳴った後、箱が両側から開いた。観音開きである。
その箱から出てくる何かに反応することは出来なかった。
しかし身体は反応していたらしく、その何かを止めるようにピンポイントでバリアが展開していた。
「?......これ?」近づいてよく見てみようとしたとき、ちょうどバリアが解除された。
金属が落ちる音が部屋中に響いた。
床に転がった何かを凝視すると、それは鋭く細い"針"だった。
「ほら、まだまだ行きますよー」
相変わらずの優しい笑顔で、箱を軽く叩いた。
それに反応してか、箱からは先程よりもさらに多くの針が飛び出してきた。
その針に反応して、またバリアが展開される。
「あ......あのルイスさんこれは......?」
「だめですよ集中しないと。バリアが展開されるときの感覚を、この針が無くなるまでに覚えてください。これはそういう道具です。」
感覚......感覚......?今、この瞬間にもバリアは展開していて、私自身の身体を守っている。
しかし、感覚など無かった。このバリアもまるで他人が展開しているみたいだった。
ミナトが現れたとき、そう、突然現れたとき......あの時魔法が発動していたのだとしたら......。
あの時の感覚......あの時の感覚なら、今でも覚えている。忘れることなど、出来ない。
それは安心でもなくて、警戒心でもなくて.......。
「最後の一本......私は諦めませんからね......!」
ルイスのその声が、私を現実に引き戻す。
箱の中いっぱいに詰まっていた針も、既に最後の一本。
それがこちらに向かって飛んでくる。信じられないぐらいゆっくりと。
しかし、私の頬を傷つけるのは本当に一瞬だった。
ゆっくりと針が向かってくるのは、勘違いに過ぎなかったのだろう。
視線は動かさなかった。その先にいるルイスを見ていたからだ。
未だ信じられないといった表情の彼女に証明するように、私は自分の周りに緑の膜を、バリアを展開して見せた。
ルイスは全身が震え、瞳からは涙すら流れ出しそうだった。
結局、私の頬をつたう血よりもはるかに早く、涙を溜めるダムは決壊してしまった。
「分かった......理解したのですね......魔法の......!」
箱の天面でうつ伏せになる彼女を見ながら、私の目にも何か熱いものがたまってきた。
ルイスは、彼女は私に言った。身の危険を感じると無意識に魔法が発動してしまうのだと。
でも、私は違うと思う。
私は彼のことを......ミナトのことを感じていた、直接出会う前から。
きっと、きっとその時から、私の気持ちは変わっていない。
その気持ちが、魔法を発動させていたんだろう。
それが分かった今だからこそ、魔法を使えるようになったんだろう。
この気持ちはきっと、たとえ彼がいなくなってしまっても無くすことはない。




