Number.31 終わらせよう
焼け焦げたような大地が辺り一面に広がっている。
その上を、白い靄が穏やかに流れている。
こちらその身体を動かさずとも、靄は勝手に寄ってくる。
ゆっくり前に進んでみると、靄は大人しく左右にはけてくれた。
胴辺りに群がる靄を鬱陶しく思いながら、真っ黒な大地を突き進む。
歩いているうち、靄に自分の意識を持っていかれるような、そんな気分になった。
自分が足を動かしているということすら曖昧になってきた頃、目線の先に人がいることに気が付いた。
うずくまっていて顔はよく見えなかったものの、衣服の隙間から見える肌は赤かった。
「鬼か......?」
小さく呟いたその言葉を彼女は拾ったらしく、ゆっくりその顔をこちらに向けた。
額に二本の角を携えたその顔立ちは、まさしく美女と呼ぶにふさわしいものであった。
「人間ね?」
「そうだ。お前、なんでこんなところにいる?」
彼女はその質問に答えてくれなかったが、立ち上がってこちらに近づいてきた。
服はところどころに穴が空いていて、いたるところから肌が見え隠れしていた。
「ここは......元々綺麗な花畑だったの。戦いに巻き込まれて、こんな砂漠に変わってしまった」
彼女は既に、その美貌がはっきりと見えるぐらいまでこちらに近づいてきていた。
「うんざりよ......もう......」
そういうと、目の前で再びうずくまってしまった。
彼女が小刻みに震えているのに気が付くと、無意識のうちに身をかがめてその肩をおさえた。
小さな肩の震えはこちらにも伝播しそうなほどであったが、それ以上に気を取られたのは、明確な温かみを持つ彼女自身の熱だった。
「うんざりって......人間と魔族の争いにか?」
小さく頷くその姿を見ると、胸を刺されたような感覚に襲われてしまった。
彼女を胸に抱きよせると二本の鋭い角がこちらを刺激してきたが、そんなことはどうでもよかった。
「こんなことは早く終わらせるべきなのよ......絶対そうなのよ......」
彼女がどんな顔をしているのか、それを見ることは出来なかった。
しかし彼女が涙を流していることを知るのは、容易なことだった。
目を覚ましたのは、それはまた豪勢なベッドの上だった。
勿論赤鬼の少女はいなかった。黒い大地も白い靄もない。
「そうだね......終わらせよう。こんな争いは......」
それでも彼女に向けて、そう宣言して見せた。
ルイス・ベルマールに連れてこられたのは、廃城の地下のさらに地下。寂れたところだった。
足音を響かせながら、そこの真ん中と思わしき地点に連れてこられた。
「フィティさん、ここは昔、魔法使いたちの訓練場として使われていたところです。備品のほとんどは使えなさそうでしたが......」
彼女はそう言いながら、細長い箱のようなものを担いできた。
「これならまだ動きますので......と、その前に......」
重い音をたてながら箱を地面に置くと、印象深いあの優しい笑顔をこちらに向けてきた。
「確認したいことが、あるんです。」
彼女が取り出したのは、片手におさまる程の"武器"だった。
デセアトが使っていた武器を、もっと小さく、もっと扱いやすくしたようなものに見えた。
そしてそれを向けたのは、壁でもなく、あの箱でもなく、私の顔だった。
「え......ルイスさん......?何を?」
怯える私の気持ちが分からないのか、笑顔を浮かべたまま何も言わずに武器を向けている。
「......覚悟を、決めてくださいね?」
その言葉を聞いた私は、瞬く間に顔を青くしてしまった。
ルイスが武器についた引き金に指をかけるのを確認すると、私は手に持っていた杖を強く握りしめた。
その杖に緑の光が浮かび上がっていることに、その時の私が気づくことは無かった。
乾いた音がそこに響く。目を伏せた私にはそれだけが聞こえた。
しかし痛みは無い。血が流れる感覚もない。
違和感を感じて恐る恐る目を開いてみると、目の前に広がったのは緑色の"バリア"だった。
「......バリア......!!こ、これ、私が?」
「そうですよ。それは、フィティさん自身が使った"魔法"です。」
ルイスは笑顔を崩さないまま、銃口から煙が出ている武器をおろした。
「フィティさんは使いこなせていないだけです。使いこなせていないだけで、魔法使いとしての才能は十分に持ち合わせています。あなたが本当の意味での"魔法使い"になること、それを私への恩返しにするというのは......どうでしょうか?」




