Number.30 秘密にしてやる
二人が帰ってきたことを知ったのは、既に夜が明けた後だった。
部屋の外から聞こえてきた会話で、それを知るに至ったのだった。
起こしてくれてもいいのにと少しムッとしたが、揺さぶられても多分起きなかっただろうとも思った。
自分が元々そういう人間だったということを、もうすっかり忘れてしまっていた。
シスクトは救護室にいるということを聞いたので、まさかとは思いながらも意を決してそこに向かうことにした。
通りすがった人におおよその道筋を聞くと、薄暗い通路を足早に進んだ。
通路に連立するボロボロの扉はどれも同じような形をしていたし、どれがどの部屋なのかを示すものも、扉の真ん中に殴り書きされた粗雑な文字だけだったので、道筋を知らなければ一生たどり着けないだろうという感覚すらあった。
コンコンコンとリズムよく扉を叩いてみると、「入って......」という生気の抜けたような返事が聞こえてきた。
扉を押してみると、その返事よりもはるかに大きな音で軋んだ。
「やあ......なんだか、随分と久しぶりな気がするね......」いくつかのベットが並んでいたが、人が寝ているのは一つだけだった。
「昨日ぶりだろう、昨日の夜ぶり。気を失って時間の感覚も分からなくなったか?」
「そう言ってくれると、何だか元気が出てくるよ......」
「変なやつ!というか、いつまでそんな演技を続けるつもりなんだ?」
そう言って軽く肩を叩いてやると、シスクトは元気よくベッドから上半身を起こした。
「いやな?しばらく弱ったふりをしておいた方が良いってさっき来た女の人に言われたんだよ。その方がフィティちゃんの評価も上がるってな。よく分からんが面白そうだから言う通りにしようと思ったわけよ。」
シスクトはそう言いながら豪快に笑って見せた。先程までの彼とはまるで別人だ。
「......あーそんでな、ちょっと話しておきたいことがあるんだ。フィティちゃんにも伝えようとは思っているが、先んじてお前にな。」
「なんだよ......それ?」こちらはハスファド・イルマたちのグループとは違う。シスクトの顔を見ても、雰囲気を見ても、何を考えているかも嘘をついているのかも分からない。
それが改めて分かったとき、なぜだか少し安心したような気がした。
「分かったよ......今のところは秘密にしてやる。ただし、フィティにも絶対に伝えるんだ。」
「当然。じゃあそういうわけで、今日一日ぐらいは演技を続けさせてもらうよ。じゃあな......」
最後にまた生気の抜けたような声を出してきたので、思わず笑ってしまった。
小さく手を振る彼を一瞥した後扉を開いてみたところ、何かが外でぶつかったような感覚があった。
誰かがいたのかと開きかけの扉から顔を出すと、そこにはフィティが杖を抱きかかえたまま倒れていた。
「ああ!?フィ、フィティ!?どうした大丈夫か!」
「うう......い、いえ大丈夫です......ほんとに、何も......」
彼女はそう言って、背中をさすりながらこちらに身体を向けた。
「ここにいるってことはシスクトに用があったり?聞いていたよりは元気そうだったから会いに行ったら?」
少し濁しつつ、さっき自分が出てきた扉に親指を向けて見せた。
「い......いえ、いえ。大丈夫なんです。えっと......」
フィティは黙ってしまった。まるで話題を探すように天井を見つめている。
「そ、そうだ......また、魔法の練習、付き合ってもらえますか?!」
やけに強く言うとも思ったが、当然断る理由もないのでいつも通り了承の言葉をかけようと思ったのだが。
「ちょっと待ってください。」
その矢先、そんな優しい声が後ろから聞こえてきた。




