Number.29 返せますとも
「え......?貴族...だったのですか?トリオウス王国の?」
「......?ああ、あなたは物心つくより前に、トリオウス王国を出てしまったのでしたね。お母上と共に......」
少し寂しそうな後姿を見せる彼女に、私はさらに困惑してしまった。
「いえ、いえ......良いのです。お気になさらず......それよりも、大きな傷は塞がりましたよ。」
彼女がはけてくれたことではっきりと見えるようになったシスクトの身体からは、つい先ほどまで空いていたレーザー・ソードの穴が無くなっていた。
身体だけではない。一緒に穴が空いてしまったはずの服も、新品かと見間違うほど綺麗なものに戻っていた。
顔色も比較的ましに見える。
「これが、リカバリー......復元の力......」その凄まじさを再認識しながら、目を覚まさないシスクトを抱えてあの廃城に戻ることにした。
意識がないシスクトを無理やり立たせ、屈強な身体を支えてやると、その重さに思わずよろめいた。
ルイスは手伝おうかと気を遣ってくれたが、丁寧に断ってから深々と頭を下げた。
「......ルイスさん、ありがとうございました。この恩は、いつか必ず......」自分に何ができるのかは分からない。ルイスさんが満足させられるようなことは何もできないかもしれない。それでも、できることはきっとあるかもしれないと、そう思うことにした。
ルイスは、「では」とひと呼吸置いてから「何もしないというわけにもいきませんので、私は少し遠くから見守らせていただきますね......」
という言葉を残してどこかへ消えてしまった。
さて......断ってしまったが、この大きいうえに固いシスクトの身体を廃城まで運ぶのは骨が折れる。
夜明けどころか明日の夜までに帰れるかも分からないな、などと考えながら、その足を一歩一歩ゆっくりと進めることにした。
「いつかね......ええ、返せますとも。必ずね......」
ルイスが口にしたそんな言葉は、当然聞こえるはずもなかった。
帰りの道は、行きと比べてずっとずっと長く感じた。
それはシスクトを抱えて歩いているのもあるかもしれない。しかし同じ道でも、向きさえ違えばその印象も変わるものだ。それが顕著だったのだろう。
目指すべき廃城は、最初に馬車から見たときよりもずっと威圧的だった。
当然、明かりの灯っていない廃城は夜の闇に紛れてほとんど見えなくなってしまう。
それでも、うっすらと見えるその輪郭だけで、見るものに警戒心を与えるのには十分だった。
本当に、ここが"帰る家"になってしまうのかなと、不安になる気持ちを抑えながら着実に廃城との距離を縮めていった。
「ん......んん......」隣でシスクトが小さく唸り声をあげた頃には、既に廃城の間から眩しく輝く太陽が姿を見せていた。
「あ......熱いよ......母...上...」
夢を見ているのだろうか。まだ目覚めないことに対しては少し残念な気持ちになってしまったものの、意識が確実に戻ってきていることには、それ以上に安心することが出来た。




