Number.22 目を離さないようにね
受付をしてくれた魔族の男は、信じられないほど冷たかった。
人類との確執とやらがその原因なのだろうが、受付ならばもっと丁寧に対応してほしいものだ。
それとも、"共食い"は魔族としても印象が悪いのだろうか?
仲間と共に、長く狭い廊下を暑苦しい思いでしばらく歩くと、趣味の悪い扉が立ちふさがった。
三度ほど扉の中腹辺りを叩いてみると、中から「どうぞー」という気の抜けた返事が聞こえてきた。
この扉の向こうに、魔王軍四天王の一人、"ザツィクル・ヴァチェキ"が本当にいるのだろうか......?という疑いが強くなる程度には気が抜けていた。
とりあえず気合いを入れて、「失礼します!」と扉を開けてから声をかけた。
部屋には、大仰な机以外には何もない様子だった。暗い赤色で構成された部屋は、なるほどここは魔族が使うのだと言わんばかりだ。
多少の時間をかけながら仲間全員を部屋に入れると、代表として一歩、二歩ほど前に出た。
「よく来てくれたね。じゃあ招待状を見せてもらいましょうか」
「はい、こちらです」丁寧に机の上に置かれた招待状を、机同様大仰な椅子に座る魔族の女性が確認した。
二本の角を頭に携えた女性は、どうやら"鬼"であるらしかった。パッと見で分からなかったが、それは彼女が"薄かった"からだろう。鬼の肌は燃えるように赤い、もしくは飲み込まれてしまいそうなほど青い。
「うんうん、ハイフィス・フェイビデイ君ね。それとそのお仲間さん、と......」
ひとつ、腑に落ちない点があったことを思い出した。
招待状は、たった一枚。そこに書かれている名前は、ハイフィス・フェイビデイと、ウィンドヘグ・ジャッジだけ......。スドキヨクル含め総勢十数人の仲間はない。あるのは、短く記された"その他"を表す文字。
「それじゃあちょっと......」女性、もといザツィクルは、不意に机を離れてこちらに歩み寄ってきた。
思っていたよりも近くに来られたので、先程まで考えていたことも全てどこかに飛んで行ってしまった。
「私に、目を合わせていただけるかな?」ザツィクルは、足りない背丈をつま先立ちで補完させ、私の両頬に手を置いた。
思った以上に小さい身体、近くで見るとより際立つその美しい顔立ち、その二つの要素だけでも、この若い男を釘付けにしてしまうには十分であった。
「目を離さないようにね」彼女の瞳は、恐怖を感じるほどに美しかった。
二重のひし形模様を中心に置く真っ黒なそれに、少しでも気を抜けば際限なく落下してしまいそうだ。
まあ、それでも良いかなぁなどと夢中になりながら考えていた、のだが。
そんな妄想が叶うことは無かった。
「......?」赤色の悪趣味な部屋に戻されてしまったのは、彼女の美しい瞳が上面を欠いてしまったからだ。
なぜだか理由は分からないが、どうやら眉をひそめているらしかった。
ゆっくりと頬から手を離し、足を元の形に戻す姿を眺めながら、「なにか......ありましたか?」とぎこちなく尋ねてみた。
「いえ......いえ、何でもないわ。」彼女は頭の角をいじりながら再び椅子に腰をおろした後、「......あなた......そう、ハイフィス君ね。あなたは扉の外で待っていて頂戴、お仲間さんたちに用があるから」と、今すぐに出て行けと言わんばかりに手をはらいながら言いつけた。
納得のいかない気持ちで部屋を後にするとき、スドキヨクルがこちらに目を向けているのを見つけた。
鬼
魔族の一種類として数えられる者たち。
特徴は頭部にまっすぐ突き出した二本の角と、赤もしくは青色の肌である。
それらを除けば人類とさほど違いはない。




