表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/25

第十七話

「先に行きます。木の上を移動しますから、エヴィンさんは後から付いて来てください」


「おい、クク!先走るなっ!!」


 エヴィンの静止も聞かず、ククは走り出し、さっと木の枝へと移動する。そして、木と木を跳ぶように移動する。元々のすばやさの違いとエヴィンが大楯を持って移動してることもあり、その距離はみるみると離されていく。ただ置いて行かれるわけにはいかないとエヴィンも走るが、どんどんと距離は離れる。それほど時間が立たないうちに、ククが戻ってきて、地上へと降りる。エヴィンの横について確認した状況を報告する。


「最低でも二十半ば、おそらく三十匹以上のダガーウルフの群れです……」


「クソっ!やっぱこうなるのか。身軽なお前の方が早い。先にいってウィズに報告しろ」


「了解です。エヴィンさんも急いでください」


 ククはスピードを上げて走り去る。ダガーウルフの群れの足音が聞こえ始めたが、合流するまでの余裕は十分にあると考えて、息が上がり切らないようそのままペースでエヴィンは走り続ける。体力を残したままウィズ達と合流する頃には、夜の視界の中でも、十分に視認できる距離にダガーウルフの群れが現れていた。


 戦いの拠点となる位置は、野営の時より焚火の場所がややずれており、湖のほとりを直角にするように長く、太く火が焚かれていた。敵を迎え撃つ面を小さくするためだ。万が一湖にも凶悪な魔物がいた場合はお手上げだが、少なくともダガーウルフが湖から襲い掛かってくることはない。火に弱い魔物だから、焚火の向こうからもおそらくないだろう。よって、山側と森側、その二か所からの攻撃を防ぐ算段だ。



「火と湖を盾にする。エヴィンさんは山側正面を受け持ってくれ。敵の数を減らすことより、後ろに抜かれないことを第一優先に。俺とエーレで森側だ。やれるならやるが、こっちも無理はしない。おっさんは数を減らすことが仕事だ。後ろから魔術で確実に仕留めてくれ。まどかは誰かが怪我をした際の回復。ククはまどかが回復を行う際の護衛が最優先。それ以外は弓で前線を援護だ」


「数だけなら問題ないでござるが……。前回同様上位種が出た場合はどうするでござるか?」


「危険だが、まどかが確実に一対一になれる状況を作る。その間は回復ができない。他のみんなはスキルをフルに使って一対一の状況と自分自身を守れ」


「こ、こんな奴に「だまれっ。リーダーは俺だ」


 ウィズがククを強く叱責する。ククは怯み、何も言い返えせない。そんな一幕を挟むも、全員が配置につく。山を正面にして正四角形を形作るような陣形だ。前面をエヴィン。右側の面がウィズ、エーレ。左側は湖、後面が火の壁。中央部ではエヴィンとウィズ達の間が良く見える位置におっさんが陣取り、その後ろにまどかとククが続く。


「敵の数は多いが、このパーティーなら十分に勝算はある。さぁ、行くぜ!最初はおっさん、派手にぶちかませ!」


「承知した。大樹を照らす火の精霊サラマンドラ 汝が力は、全てを焼き尽くす巨大な力 彼方の敵をも焼き尽くす激しき力 解き放つは紅蓮の火球っ ファイアボール!」


 エヴィン、ウィズの間からダガーウルフの群れに向けて大きな火球が放たれる。その直径は八十センチにも及ぶ程だ。放たれた火球は二人の間を越えても落ちる気配はなく、不幸にも火球の線上にいる魔物を次々と焼き尽くす。咄嗟に躱す物いたが、それでも五匹以上の魔物を焼き尽くしながら、数十メートル先で着弾し、爆炎を上げる。


「ふっ、闇の炎に抱かれて消えろっ!!」


「闇の炎ってなんだよ!?この状況でもブレねぇのなっ!!」


 魔術が開戦の合図のように、すぐにダガーウルフの群れが飛び掛かってくる。群れを率いているのは前回の中型サイズが二匹だ。それぞれ、正面と右側から攻撃を仕掛けてくる。


 エヴィンは大楯で中型の攻撃を受け止め、弾き返すことを繰り返す。隙あらば中央に向かおうとする小型には、右手で剣を振るって阻止をする。止めを刺すことこそできないが、堅牢な戦い方だった。


 一方でウィズ、エーレ組みは見事な連携で魔物を撃退する。中型が襲ってくれば一人が抑え込み、もう一人が攻撃することで迎撃をする。小型がくれば一人が攻撃を叩き込むことで隙を作り、もう一方が止めを刺す形で少しずつ敵の戦力を削る。


 おっさんは先程と同様、味方の隙間を縫って魔術を放つ。先程のような詠唱句を付随させるものではなく、あくまで弱点である火属性の基本魔術を打ち込む。避けられることもあるが、敵の戦力を確実に削っていく。


 ククは最初こそ弓を数度放っていたが、効果がないと判断したのか森側と後方を警戒するように動いていた。そして、まどかは何もできずにいた。


 着実に敵の戦力を削っていたが、群れの統率力は想像していた以上に高かった。後方から一際大きな遠吠えが聞こえた。散発的な攻撃では群れの仲間が死んでいくばかりと悟ったのか、体制を立て直すために一度引いたのだ。それは同時に、パーティーにも一呼吸整える時間を与えてくれる。


「全員、大きな怪我はないな?今の所上位種は見当たらないが、今の遠吠えをしたのがボスの可能性がある。そいつが上位種だった場合、戦況がまた変わる。まどか、今の内に回復を頼む」


「う、うん。みんな大きな怪我は負ってないよね?エヴィンさんからエーレとウィズの順で回復するね」


 言葉通り、順番に回復をするまどか。三人とも大きな怪我こそないものの、四肢には軽い傷から、ダガーウルフの爪で抉られたであろう傷が見て取れた。その傷を見て、まどかは痛ましい気持ちと戦いでは何もできない自分を歯がゆく思う気持ちを味わう。


「まどか、ありがとう。あなたが回復してくれるからあたし達は前線に立てるのよ。あなたの一番の役割を忘れないでね」


 まどかの内心を見透かしたかのように礼を言うエーレ。それでも、わかっていても、もどかしいのだ。それが今は自分に与えられた役割で、戦う力が自分にはなかったとして、それでも自分だけ、と思わずにはいられなかった。


お互いに体制が立てなおった所で、にらみ合いが始まる。先程のような散発的な攻撃は収まり、こちらの様子を窺っているようだ。牽制でおっさんが魔術を放つも空振りに終わっている。しばしの硬直状態を挟んだ後、ついに憂慮していた事態が訪れる。上位種と思われる大きさの魔物が現れたのだ。


「お前の言う通りの事態になってきやがったな」


「予想は出来てたんだ。まどかと一対一の状況さえ作れればこっちの勝算はグッと高くなるさ。どうやって持ちこむかが一番難しいんだけど」


 否応なしに緊張感が高まる中、ダガーウルフ達が動きだす。二匹の中型がそれぞれエヴィン、ウィズ・エーレ組みに一体ずつ付いているのは変わりないが、小型も二匹以上が同時に襲い掛かってくるようになった。そして、時折内側へとダガーウルフが内側へと食い込むようになっていった。おっさんは外側への攻撃をすることができず、内側へ入ってきた敵の処理に追われる。それでも対処できなかった敵は既に傷ついているものばかりで、まどかが盾で捌き、ククが止めを刺すことでなんとか対処していた。


 すでに十匹以上は倒しているが、敵の数はまだ二十匹近くいるようだ。上位種が攻撃してこないだけましだが、着実に体力を削られていっているのは間違いない。また、前線の三人には傷が少しずつ増えてきている。その様子を見てまどかが動く。


「エヴィンさんから回復するよっ!ショートカットでヒールを使います!クク、援護お願い!」


 回復魔術は近づかないと使えない。味方の動きは阻害せずとも使えるが、回復の発動場所はまどかの手や杖からになる。そして、発動場所から外傷が遠ければ効果が弱まってしまう。一方、ショーカットの回復は近づかなければならないのは一緒だが、発動してしまえば対象の全身を覆う光が発生し、外傷の場所に関係なく回復することができるし、効果も高い。一人で正面を支えているエヴィンには素早い対処が必要と判断し、ウィズもその判断に否はなかった。まどかはエヴィンに素早く近づくと、左手を振るい、ショートカットを発動する。


「サンキュー、嬢ちゃん。助かったぜ。しばらくここは一匹も通さねぇからよっ!!」


 元々大きな傷は受けていなかったが、回復した体に力が漲ったのか勢いよく敵を押し返す。まどかはそれを確認すると右側へと向かう。移動する最中、敵に正面から体を晒すことになるが躊躇わなかった。自分を見てくれる仲間がいるから。


「さてさて、それがしが露払いと参りましょう。大樹を照らす火の精霊サラマンドラ 汝が力、激しき業火、三つの刃を生み出さん その刃、紅蓮纏いて敵を穿つ槍先たれ ファイアランス!!」


 まどかが迷わず走り出した直後、エヴィンとウィズの間を炎の槍が三つ、駆け抜ける。今にも飛び掛かろうとしていたダガーウルフを二匹貫いていた。まどかが右側に辿り着くと、一呼吸置いて告げる。


「ショートカットはしばらく使えないよ。普通の回復魔術を使うから少し時間かかるけど、耐えて」


 頷くウィズとエーレ。その間にも敵の攻撃は止むことはない。こちらもエヴィンと同様、もはや迎撃が主体になってしまっている。そこにまどかが背後についたため、動きが少しぎこちなくなった。そこを小型の魔物が押し通る。そして、まどかの腕を切り裂いた。その魔物はおっさんが仕留めたが……


「きゃぁぁああ!!」


 小型の攻撃はまどかの腕の肉を数センチの深さで抉っていた。あまりの痛みにウィズへの回復を中断してしまう。覚悟はしていたつもりだった。役に立ちたかった。しかし、気持ちとは裏腹に想像以上の痛みがまどかを恐慌状態にしてしまうのだった。


(痛いっ!痛いよ!!こんなに痛いなんて知らない!こんなのゲームじゃなかった!痛い、痛いよっ!誰か、助けてよ!!」


詠唱句が難しすぎる。何してもダサくなる。そんな設定作るのではなかった…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ