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第十八話

 場が乱れていく。上位種への切り札を失いかけている。そう全員が感じる中、最初に動きだしたのは……。


「ねえちゃん!」


 本人以外、誰が叫んだのか分からなかった。それは意外な人物だったから。状況から言えば一番適していただろう。だが、誰もその行動を予測できなかった。が、それでも動いてくれたからにはそれぞれが自分達の役割に徹することができる、ということだ。


「大丈夫、少し痛いけど、回復魔術で十分に治る傷だよ。落ち着いて、落ち着いて」


 ククが、まどかを後ろから抱きしめて囁く。


「クク……。どう、して……?」


「ボクのねぇちゃんに似てるんだ。だから、危険なことはしてほしくなくて、ずっとこのクエストから離れて貰えないかと思って酷いこと言ってたんだ……。結局、ボクはまどかさんに怪我をさせちゃった。ごめんね。だけど、今は少しだけ頑張って。まずはヒールを唱えて」


「うぅっ……。グス、ずずっ。うん、わかった。少し、落ち着いた……。すぅ……ヒール」


 まどかは一度大きく息を吸い、自分の腕にヒールを唱える。だんだんと鋭い痛みが和らいでいく。代わりに血流に合わせて鈍い痛みが走り出した。怪我を治すといっても体の急激な活性化に過ぎない。痛みが完全になくなるわけではないのだな、とまどかは実感した。


 まどかの恐慌状態は落ち着いた。しかし、状況が好転したわけではない。最悪ではなくなっただけのことだ。ウィズはヒールを受けていたため、怪我がある程度回復しているがエーレは傷ついたままだ。傷を塞がないと血が流れていずれ戦えなくなってしまう。無理を承知で、回復を継続してもらう他パーティーには選択肢がない。


「おっさん!クク!わりぃが一旦エーレを下がらせる。ククは俺の斜め後ろで俺の内漏らしを対処。おっさんはこっち側にも魔術を飛ばしてくれ!」


「承知でござるよ!それがしがお二人に指一本触れさせませぬ!!」


「ごめん、クク。ウィズをお願い。三秒後に下がるわ!」


 エーレが下がると同時におっさんの魔術がエーレが居た場所の前へ放たれる。魔術が地面に着弾して、ダガーウルフが体制を立て直す前にククが配置についた。まどかの元に辿りついたエーレはヒールによる回復を受ける。格闘士であるエーレは武器を持たない分、他の二人よりも傷が多かった。しかも、一部は先程のまどか同様数センチ肉を抉られている箇所もある。先程の二人より回復に時間を掛けざるを得ない。


(これが、冒険者としての経験の違い。覚悟の違いなのかな……。やっぱりエーレはすごいな)


 パーティーの体制をようやく立て治したタイミングで、上位種が秘かに動きだしていた。まどか達の誰からも気づかれることなく。


「ありがとう、まどか。血は止まったからもう大丈夫よ。すぐにククと交代しなくっちゃ」


「エーレ、待って。まだ傷がいっぱいあるよ。もう少し、もう少しだけ。迷惑かけてばかりだけど、私、頑張るから」


「もう、そんな顔でそんなこと言われたら断れないじゃない。お願いね、まどか」


 まどかがエーレを回復している間、おっさんがいつの間にか真横に来ていた。先程までの実力もまどかからすれば圧巻の一言だったが、今は二人に敵を近づけさせまいとさらに気迫が増している。先程までの中遠距離にいる敵だけでなく、近距離にも敵が入り乱れる状況で魔術だけでなく、杖を使った棒術を駆使ししてまどかとエーレに近づく敵を全て打ち倒している。


 一方で右側を受け持つウィズとククは苦戦を強いられている。単純にククが実力不足であることと、連携が拙いことが原因だ。ウィズが敵の攻撃をしのぎ、逆に攻撃を当てても体制を崩しても、ククの追撃が行われないのだ。小型ならそれで押し返せているが、中型の攻撃を凌いでいる時は小型を後ろに通してしまう。おっさんがその対処に追われ、後方の敵への対応がおろそかとなり、パーティーは押し込まれる一方になっていた。


「切り札を一枚切る。俺が中型を相手にするから、その間はククとおっさんでエーレ達を守ってくれ」


「それがしは先程、お二人はそれがしが守ると誓いましたっ!思うがまま行動して下され!」


「くそ、おっさんかっこいいじゃんかっ。こりゃ、負けらんないよなぁ!」


 ウィズはあえて陣形を崩して、中型へと切りかかる。不意をついたつもりだったが、中型は想定通りとばかりに腕を振るって迎え撃ってきた。ウィズの振り上げた剣と中型の振りかぶった爪が顔よりやや高い位置で交差する。態勢的にも一番力が乗った所ではないし、つばぜり合いを続ければ膂力の差でいずれウィズが押し切られるだろう。そこで、ウィズは魔術を()()()()


解放(リリース)、フレイムピラァアア!!」


 発動句を唱えることで、詠唱が完了していた魔術を発動する。剣を炎の柱が包み込み、敵の爪を切断し、そのままの勢いで中型の頭蓋骨を叩き割った。


 魔術を発動直前まで留めておく技術は、ありふれてはいないが、まったくないわけではない。魔術を発動するまで集中力を維持する必要があるし、剣に炎を纏わりつかせることは何度もできない。剣に負荷をかけすぎるのだ。その分、敵の弱点属性であれば威力見ての通り。切り札たる所以だ。


「エンチャント系魔術きたぁぁあ!!」


「……」


「ツッコミがない!?」


 敵の攻撃の要の一つだった中型を倒したことで、右側の攻勢はやや緩み、ちょうどエーレの回復も終わる所だ。やや余裕ができたと思った瞬間、後方の炎の壁が不意に吹き飛んだ。上位種が、後方から飛び掛かってきたのだ。その攻撃対象は、まどかだった。


(そっか、ヒーラーって敵の魔物のヘイトを稼いじゃうって言うしな……)


 あまりな不意の出来事に、まどかは益体もないことを思い浮かべてしまう。そこに全身を光らせながらエーレが電光石火の動きを見せる。


「ライトニングブロー!!」


 光はスキル発動した際のものだった。その名の通りの速さで飛び掛かってきた上位種の顎を打ち付ける。しかし、動きを止められたの一瞬だけだった。まどかとの距離は空いていたが、その爪を振るう。相手は上位種であるブレードウルフ。その爪はショートソードにも匹敵する長さだ。落ち着いたとは言え、戦闘の怖さを知ってしまったまどかは盾で防ぐこともできずに体をこわばらせるだけだった。そこに、エーレが爪を弾こうと拳で対抗する。


 そして、エーレの腕が切り飛ばされた。


「あぁあああああああああ!!!!!」


「やめろぉ!ボクを狙えぇぇ!!!」


 響くエーレの絶叫、上位種の動きを見ていたククが跳び出し、上位種の注意を引こうとダガーを投げつけ、動き回る。


 ワンテンポ遅れて自体を呑み込んだまどかがエーレの腕を取り、ショートカットの使うため左手を振るう。


「ミドルヒール!!」


 しかし、切断されたエーレの腕が元にもどることなく、出血を抑えるように傷が回復していくのだ。


「手、手がっ……。ウィズが引っ張ってくれた、あたしの手がっ!!ウィズの横を歩くための手がっ!?痛い、嫌だ!あたしは……、あなたと……。ああぁあああああ」


(なんで!?なんで治ってくれないの!?ゲームじゃHPが減るだけだったじゃん!こんな、こんなの知らない!!わかんない!!どう、したらいいの!?!?)


 ――この世界の者では恐らく我を倒すことは不可能なのだ。大樹の理しか持たぬ者には――


 不意に、デルビアが言っていた言葉が思い浮かんだ。


(何よ、理って!そんなの知らない!私は知らない!!私が知っているのは、回復すれば全部元通りになるのっ!!」


「それがっ!私の!ことわりだぁああああああ!!!」


 まどかの叫び声と共に、まどかとエーレを光の柱が包み込む。光は衝撃を含んで辺り一帯を数秒照らし続けた。そして、光が止む頃にはまどかが気を失って倒れ、傍らには切り裂かれたはずの腕が元通りになっているエーレの姿があったのだった。

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