天然
「あっ、そうだ!」
リクが何かを思い出したように声を上げた。
「神様から聞いたことがあります!」
「聞いたこと?」
「はい!」
「周りのみんなには、私はご主人の幼なじみということになっているそうです。」
「幼なじみ?」
「高校が遠くて通えないから、ご主人のお家で預かってもらうことになった……という設定みたいです!」
「……設定?」
俺は思わず苦笑した。
神様、そんなところまで用意してくれてるのか。
「それで来週からご主人と同じ高校へ転校することになっています!」
「えっ!?」
思わず大きな声が出た。
「転校生!?」
「はい!」
リクは嬉しそうに何度も頷く。
「また毎日ご主人と一緒にいられます!」
その無邪気な笑顔を見ると、不思議と俺まで楽しみになってくる。
「学校のみんな、驚くだろうな……。」
「頑張ります!」
「よろしくお願いします、ご主人!」
元気よく頭を下げる姿に思わず吹き出した。
「まずは学校のことより飯だ。」
時計を見ると、もう夕方だった。
「何食べたい?」
「お肉です!」
間髪入れずに返ってきた。
「即答か。」
思わず笑う。
犬だった頃もビーフジャーキーを見せるだけで尻尾をぶんぶん振っていた。
肉好きは相変わらずらしい。
「じゃあ退院祝いも兼ねて、今日はステーキにするか。」
「わーい!」
リクは子どものようにはしゃいだ。
俺がキッチンへ向かうと、リクも当然のようについてくる。
「……リク。」
「はい!」
「そんなに近くにいると危ないぞ。」
「お手伝いします!」
「気持ちは嬉しいけど、包丁使うから。」
「包丁?」
「怪我をする道具だ。」
「だから今日は見てるだけ。」
「わかりました!」
そう返事はしたものの、リクは俺の真後ろから興味津々に料理を覗き込んでいる。
(近い近い……。)
「ご主人。」
「ん?」
「いい匂いです!」
目を輝かせる姿に思わず笑ってしまう。
やっぱりリクだ。
焼き上がったステーキを皿に盛り付け、テーブルへ運ぶ。
「いただきます。」
「いただきます!」
リクは元気よく手を合わせた。
しかし、目の前のナイフとフォークを見て動きが止まる。
「……?」
「ご主人。」
「これ、どうやって使うんですか?」
「そこからか。」
俺は苦笑しながら持ち方を教える。
ぎこちない手つきで肉を切ろうとするが、うまく切れない。
「難しいです……。」
「貸してみ。」
俺が一口サイズに切ってやると、リクは嬉しそうに口へ運んだ。
「……!」
ぱっと目を見開く。
「おいしいです!」
「こんなにおいしいお肉、初めて食べました!」
幸せそうに頬を緩めながら夢中で食べる。
その姿を見ていると犬だった頃、ビーフジャーキーを夢中で食べていたリクが頭に浮かんだ。
(……本当にリクなんだな。)
見た目は変わった。
でも、この幸せそうな笑顔は何も変わらない。
自然と俺の頬も緩んでいた。
食事を終えてソファへ移動する。
するとリクもぴったり隣へ座る。
肩が触れるほど近い。
俺が少し動けば、リクも同じようについてくる。
「……リク。」
「はい?」
「さっきからずっとくっついてるな。」
「えへへ。」
照れくさそうに笑ったあと、小さな声で呟く。
「ご主人と離れるのが怖いんです。」
その一言に胸が締めつけられた。
事故の時のことが頭をよぎる。
目の前で俺が車にはねられた。
あんな光景を見たんだ。
怖くないはずがない。
「……そっか。」
俺は優しく頭を撫でる。
リクは気持ちよさそうに目を細めた。
その仕草まで犬だった頃と同じで、思わず笑ってしまう。
「ありがとうございます。」
そう言って笑うリクを見て、俺は心の中で呟いた。
(これからは安心させてやらないとな。)
そう決めた時だった。
「あっ。」
俺はあることに気付く。
「そういえば……。」
「リク。」
「はい!」
「風呂って入れるか?」
リクはきょとんとした顔で首を傾げた。
「……?」
「わかりません!」
俺は…
嫌な予感がした。




