悲劇
「リクー!! 散歩だぞー!」
そう声をかけると、リクは尻尾を大きく振りながら嬉しそうに駆け寄ってきた。
俺は思わず笑みをこぼし、その頭を優しく撫でる。
今日は土曜日。
学校もバイトもなく、一日中リクと遊ぶ予定だ。
まずは毎朝の日課である散歩から始める。
いつもの散歩コースを歩き出すとリクはもう道を覚えているのか、早く行こうと言わんばかりに俺を引っ張りながら先へ進んでいく。
その後ろ姿を見ているだけで自然と笑顔になった。
──この時間が、ずっと続くと思っていた。
横断歩道を渡っていた、その時だった。
耳をつんざくようなエンジン音が響く。
反射的に顔を上げると、一台の大型トラックが減速することなくこちらへ一直線に突っ込んできていた。
「やばい!!」
考えるより先に体が動く。
俺はリクを抱き上げ、逃げようと足を踏み出した。
だが、間に合わない。
トラックはもう目の前まで迫っていた。
避けられない。
「頼む……!」
俺はリクだけでも助かってほしいという一心で、全身の力を振り絞りトラックの進路から外れるようにリクを投げた。
小柄なリクの体は宙を舞い、トラックの進路から外れていった。
それを見届けた瞬間――
凄まじい衝撃が俺の全身を貫いた。
視界が真っ白に染まり、音も、痛みも、意識も、すべてが遠ざかっていく。
最後に見えたのは、必死にこちらへ駆け寄ろうとするリクの姿だった。
「……よかった。」
リクが無事なら、それでいい。
その言葉を最後に、俺の意識は闇へと沈んだ。




