日常
俺――橘伊織の高校生活に青春なんてものはない。
友達はいない。彼女もいない。昼休みはいつも一人で教室の隅か屋上で時間を潰す。
原因は言うまでもない。
金色に染めた髪、鋭い目つき、耳にはいくつものピアス。
その見た目だけで周囲は勝手に俺を「不良」と決めつけた。
「毎日ケンカしてるらしい」「夜は違う女を家に連れ込んでる」「裏でヤバい奴らとつるんでる」
そんな噂まで流れているらしいが、もちろん全部デタラメだ。
否定する気もない。
どうせ人は見たいものしか見ない。
むしろその方が都合がいい。
誰も近寄ってこない。
誰とも深く関わらずに済む。
期待もしないし、期待されることもない。
人を信じなければ裏切られて傷つくこともないのだから。
……そんな生活が寂しくないのか、と聞かれれば
答えはNOだ。
俺には、誰よりも信頼し、大切に思っている相棒がいる。
※
「ただいま」
玄関の扉を開けた瞬間。
「ワンッ!!」
家の奥から金色の弾丸が飛んできた。
「うわっ!」
勢いよく胸に飛びついてきたのは、一匹のゴールデンレトリバー。
名前はリク。
俺の世界で、たった一人……いや、一匹だけの家族だ。
尻尾をちぎれそうなほど振り回しながら、俺の顔をぺろぺろ舐めてくる。
「悪い悪い。そんなに待たせたか?」
頭を撫でると、リクは嬉しそうに目を細めた。
学校では誰も俺を待っていない。
でも、この家にはリクがいる。
それだけで十分だった。
リクと出会ったのは高校一年の秋。
一人暮らしを始めて間もない頃だった。
雨上がりの河川敷。
道端に置かれた段ボール箱の中で、小さなゴールデンレトリバーの子犬が震えていた。
捨て犬だった。
痩せ細った体。
怯えきった瞳。
誰かを信じたいのに、信じられないようなその目が昔の俺と重なって見えた。
____________放っておけなかった。
家へ連れて帰った最初の数日はリクは部屋の隅から動こうとしなかった。
ご飯もほとんど食べない。
水にも口をつけない。
俺が近づけば、小さく体を震わせていた。
それでも毎日話しかけて、一緒に過ごして少しずつ、距離を縮めていった。
気づけばリクは俺の後ろをついて歩くようになり、寝る時には当然のように俺の布団へ潜り込んでくるようになった。
俺も、そんな毎日が当たり前になっていた。
人は信用できなくてもリクだけは違う。
こいつだけは、絶対に俺を裏切らない。
そして俺も、何があってもリクを守る。
そう、この時の俺は本気で思っていた。




