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制作中  作者: 404夏
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4/5

未来の湊

事実を受け入れた湊は、小説を書こうとした。すると、PC内から謎のファイルが見つかる。ファイル名は「原稿」、中には、たくさんの「DATE」と記されたファイルが入っている。不審に思って削除しようか悩んだが、一度すべて見てみることにした。


【制作ログ 08】

修正内容:結衣と自分の交際

代償:中学1年の夏休みの記憶

残存率:72%

【制作ログ 09】

修正内容:テストの点数UP

代償:クラスメイトの名前

残存率:71.9%

【制作ログ 07】

修正内容:好きなデザートを食べられる

代償:過去1か月の夕食メニュー

残存率:72.1%


大量の制作ログが出てきた。修正内容に書かれた文章は、すべて物語に書いた願いだ。そして、代物として削除された記憶、残存率は、言うまでもない。


そして、「DATA1[朝比奈 湊]」という興味深いファイルを見つけたのでダブルクリックで開くと、PDFだったようで、複数の画像が表示された。そこには、自分の脳内が可視化されたような、意味のわからない文面がずらっと並んでいた。各ページの題名には、自分が過去に書いた願いが書かれていた。

つまり、これは削除された脳内データということだ。これまでに消された記憶は全部で250個以上。


さらに、データ1の中に、制作ログ31があった。それをクリックすると、未来の湊の記録が書かれていた。


「【制作ログ 31】

作成者:朝比奈湊(22)

閲覧権限:朝比奈湊のみ

最終更新:不明


もしこれを読んでいるなら、たぶん俺はまだ制作を終えていない。

あるいは、お前が途中まで同じ道を歩いてしまったか。


まず結論を書く。

能力は呪いじゃない。

あれは修正だ。

世界そのものを修正するための手段。

でも世界は無料じゃ動かない。


何かを変えるなら、

変えた分だけ、お前自身が現実から削られる。

最初に消えるのは記憶。

次に他人との繋がり。

最後に存在。

順番は多少前後するが、終点は同じ。

お前は消える。

もし今のお前が、

「じゃあ書かなければいい」

と思ったなら、

悪いけど、それはもう無理だ。

気づいてるだろ。

お前は誰かを助けるためなら、自分を使う。

昔からそうだった。


……ここから先は事故について書く。

たぶん記憶が戻り始めてる頃だ。

思い出せ。

あの日。

赤信号。

ブレーキ音。

誰が道路にいた?


正解を書く。

道路に飛び出したのは母じゃない。

俺だった。

助けようとしたのは母。

死ぬはずだったのは――

最初から朝比奈湊。

つまり今のお前は、

「助かった未来」じゃない。

誰かが修正した結果、存在してる。

その誰かは……

いや。

もう分かってるな。

俺だ。


22歳の朝比奈湊。

制作を続けた結果、生き残った残骸。

最初は小さい修正だった。


怪我。

失敗。

別れ。

後悔。


全部書き換えた。

でも人間は愚かだから、

一度救えると知ると、

全部救いたくなる。

父さんを。

母さんを。

結衣を。

友達を。

知らない誰かを。

未来を。

そのたび俺は減った。

顔を忘れた。

声を忘れた。

好きだった曲を忘れた。


そして今――

正直に言う。

もう自分が何を守ろうとしたのか、曖昧だ。

ここで読むのをやめろ。

今なら戻れる。


普通の人生を選べ。

名前を呼ばれて、

笑って、

大人になれ。

俺みたいになるな。


……


……


……


……


……


……


……


……


でも、お前は読む。

最後まで読む。

知ってる。

俺だから。

だから最後のことだけ伝える。

制作を続けるなら、

世界を救いたいなら、

ひとつだけ忘れるな。

消えるのは苦しくない。

苦しいのは、自分が消えたあとも、大切な人たちが生きていく未来を想像できることだ。

その未来に、自分だけいないことだ。

もし結衣が笑ってたら、

もし母さんが元気なら、

もし誰かが生きてたら、

多分、俺は」

【データが破損しています】


ここで文章は終わった。

未来の湊は、自分と引き換えてでも救いたい人のために小説を書いた。そう、結衣だ。

結衣は今の湊でも十分大好きだ。なんなら自分と引き換えで両想いとなった。それだけで幸せだった。でも、これから先、自分が消えても結衣は、家族は、友達は、何事もなかったかのように生き続ける。自分なんて忘れて。


翌朝、学校の廊下で結衣が笑った。

「湊ってさ、最近変だよね」

軽い口調。

いつもの声。

でも次の言葉で、呼吸が止まる。

「……なんか、見てると消えそう」

心臓が跳ねた。

「は?」

「いや、ごめん。変な意味じゃなくて。なんだろ。前までいた場所に、今もいるはずなのに……輪郭薄い感じ?」

冗談みたいに笑う。でも笑ってるのは結衣だけだった。湊は知ってる。輪郭が薄いんじゃない。存在そのものが削れてる。


放課後。

家へ帰ると、机の上に見覚えのないノートが置かれていた。

黒い表紙。

タイトルもない。

そのノートを開いて一ページ目。たった数行、書かれていた。


【救済案】

対象:朝比奈湊

現在残存率:18%

推定消失時期:制作終了時


選択可能な修正:

① 作者保存プラン

→ 制作停止

→ 朝比奈湊は存在維持

→ 過去改変を段階的に修復

→ 救済対象:消失


結果:

多数死亡

未来崩壊率:72%


② 世界保存プラン

→ 最終制作実行

→ 朝比奈湊消失

→ 救済対象維持


結果:

世界安定

作者消失率:100%


ページはそこで終わっていた。

数秒、意味を理解できなかった。

してはいけない理解だった。

つまり、簡単に言えば。

書くのをやめれば、自分は生きる。

でも救った人たちは死ぬ。喉が鳴った。息が浅い。


頭の奥で誰かが笑う。

未来の自分だ。

22歳の湊が、全部知ったうえで残した記録。


「……ふざけんなよ」

声が漏れる。

「なんだよ、それ」

机を叩く。

ノートが落ちる。

「選べるわけねぇだろ……!」


自分が生きるか。

誰かが生きるか。

そんなもの選択じゃない。


脅迫だ。


その夜、夢を見た。

雨の日。

赤信号。

ブレーキ音。

誰かが泣いてる。


『助けて』


小さな声。

振り向く。

そこにいたのは――


母さん。


血だらけだった。

湊は飛び起きる。

午前3時12分。

全身が汗で濡れている。

スマホが光った。

通知。

知らない差出人。


「送信者:

朝比奈湊(22)


本文:

お前は今、

「自分なんか消えてもいい」

って考え始めてる。

やめろ。

英雄になるな。

誰かのために消える選択は、綺麗じゃない。

本当に最後まで苦しい。

……俺は知ってる。

だから頼む。

一回だけ、

自分を選べ。」


画面が消える。

返信しようとしても、アドレスは存在しなかった。

朝になって、鏡を見た。自分の顔が、右側だけ少し透けていた。ガラスみたいに。指で触れると、とても冷たくて、次の瞬間、ひびが入った。


パキッ。


ほんの小さな音。


【制作ログ 980】

修正内容:結衣の生存

代償:事故の記憶

残存率:2%


でもその日初めて。

湊は思った。

もし制作を終えなければ。

もし全部やめれば。

もし普通に生きたら。

高校へ行って。

大人になって。

結衣と笑って。

名前を呼ばれて。

忘れられずに済んだら。


それは、間違いなんだろうか。

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