表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
制作中  作者: 404夏
PR
5/5

「制作完了?」

「湊~!」

昼休み、教室の窓際で、結衣がパンを片手に近づいてくる。

「今日さ、帰り寄り道しない?」

「……なんで」

「なんでって。したいから」


当たり前みたいに言う。

昔からそうだった。

結衣は理由を作らない。

一緒にいたい時、一緒にいる。

それだけ。


帰り道。川沿いで夕焼けを見ながら何でもない会話をした。テスト。先生の変な口癖。クラスの噂。

世界は普通だった。

残酷なくらい。

「ねぇ」

帰り道、結衣が急に立ち止まる。

「湊ってさ」

「……ん?」

「自分のこと、大事にしないよね」


心臓が止まりそうになる。


「は?」

「いや、なんか。自分より他人優先っていうか」

笑いながら続ける。

「そういうの優しいって言う人もいるけど、私は嫌だな」

風が吹く。

結衣の髪が揺れる。

「消えてもいい人みたいで」

その瞬間。

胸の奥で何かが軋んだ。

消えてもいい。何度も考えた。自分が消えて、誰かが助かるなら。


それでいいって。

でも、もし。


もし本当に――

自分にも生きる価値があったら?


夜、湊は初めて原稿を開かなかった。

代わりに白紙を見た。

書かない選択。

未来を変えない選択。

存在を守る選択。


カーソルが点滅する。

何も起きない。

静かだった。

その静けさが怖かった。


翌週、結衣が言った。

「写真撮ろうよ」

「急になんで」

「残したいから」


校舎裏の夕方。二人だけの空間でスマホを構える。

カシャ。

写真を見ると、結衣が笑ってる。自分も少し笑ってる。でも、変な顔だった。普通の中学生だった。

「送っとくね」

結衣が言う。

「あと何年かして見返したら笑えるじゃん」


"何年か後"


その言葉が痛かった。

自分はいない未来。

結衣だけがいる未来。


帰り道。

踏切の前で止まる。

赤い光。遮断機。


「ねぇ湊」

「ん?」

「もしさ」

結衣が前を向いたまま言う。

「ある日みんなが君を忘れても、私は思い出せる気がする」

時間が止まった。

「……変なこと言うなよ」

「うん。変だね」

笑う。いつもの顔だった。でもその瞬間、湊は初めて思った。


——消えたくない。


生きたい。


忘れられたくない。


もっと普通の日を続けたい。


その願いが生まれた時。

スマホが震えた。


【残存率:1.3%】


その日の深夜。

画面だけが光っていた。


残存率:

1%

0.9%


未来の修正が崩れ始める。

ニュース。事故。病院。消えかける命。


世界が元に戻ろうとしていた。

救ったはずの未来が壊れる。


すると、知らない番号から、「最後のメッセージ。」という題名でメッセージが届いた。


「送信者:朝比奈湊(22)


終わりだ。

ここから先、お前はどっちを選んでも後悔する。

だからせめて、

自分で選べ。」


画面が消える。

その瞬間、湊は何かを決断した。

湊は原稿を開いた。


タイトル『制作中』

最後の章。

空白。

指が震える。


母の声を思い出そうとした。思い出せない。

小学校、思い出せない。

好きだった曲、思い出せない。


残ってる。まだ一つだけ。


「結衣の笑った顔」


涙が落ちる。

キーボードに染みる。

そして書き始めた。


夜明け前、世界は静かだった。

文章が増える。一行、また一行。


誰かが助かる未来。

失われない命。

残る笑顔。


書く。

記憶が消える。


書く。

名前が薄れる。


書く。

自分が誰だったか分からなくなる。


最後。

カーソルが止まる。



残存率:0%



湊は画面を見る。

タイトル:『制作中』

作者:


……


空欄。

名前を忘れた。でも最後だけ分かる。

これは、誰かを生かすための物語。

指を動かして、最後の一文を書く。


「朝比奈湊という人間は存在しなかった。」

その代わり、

誰かの日常が続いていくなら、

それでよかった。

制作はここで終わる。

でも、物語はきっと続く。


投稿。送信完了。

朝になる。

学校。

教室。

窓際。

結衣がふと外を見る。理由もなく胸が痛む。失った気がする。でも何を失ったか分からない。

スマホを見る。写真フォルダ。昔撮った一枚。校舎裏。夕焼け。笑う自分。隣。誰かいる。顔だけノイズみたいに欠けている。

結衣は首を傾げる。小さく呟く。


「……誰だっけ」


風が吹く。世界は続く。朝が来る。誰かが笑う。



図書館の片隅。無名の一冊。

タイトルだけが残っている。

『制作中』

最終ページ。

たった一行。


「もし君がこれを読んで、少しだけ寂しいと思ったなら。たぶん僕は、ちゃんと存在できていた。」

404夏の第一作目「「制作中」」を読んでくださり、本当にありがとうございました。今後も不定期で小説を出していく予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ