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VS.集団転移


 俺は秘密の地下通路から飛び出した。突然壁をぶち破って現れた怪人がそのまま整備中の鎧の群れに突っ込んでひっくり返るという格好になった。腰を抜かした年配の職人ご夫婦には本当に申し訳ないと思う。


 スイマセンスイマセンと頭を下げながら鎧の山から這い出して工房を飛び出す。

 ここは工房街。目標はもちろん崇だ。主人公容疑者の中で一番の心の友たるあいつを最優先にするのはごく当然のことである。

 この工房街のどこかで集団転移者の崇が邪悪の権化たる俺を待ち構えているはずだ。主人公補正で毒電波を跳ね返してくれていると嬉しいが、この状況下では石橋を叩き過ぎるということも無いだろう。


「天剣技・雷鳴剣!!」


 ナニッ!?


 引き裂かれた大気が哭いた。飛来する雷が大地も空気も網膜をも焼き焦がす。

 咄嗟に身を翻したそこは漆黒のクレータ―と化していた。その中心に俺と同じ、黒髪黒目の男が一人。


 き、貴様は……! 生きてやがったのか!!


「オイオイオイ、鈍っちぃなぁ~~! よぉ~~!

 こんなザコでも殺っちまえば、大金星ときたぜェ~~~!!」


 俺は石畳の一つを取り外してスイッチを押した。

 突如として工房の石壁がカタパルトの如く射出される。


「ギャァアアアアア!!!」


 石壁にブっ飛ばされた元クラスメイトはそのままお空の星となった。しかしまあ、あれだけのスキルとレベルがあれば死ぬことはあるまい。


 あばよ、ダチ公……! オメェーのこたァゼッテー忘れねェ!!


「やれやれ……先走るからそうなるんですよ」

「ダッせぇ~! あんなザコにやられるとかまじアリエナイしぃ~!」

「二人とも油断するなよ。あの魔王様をてこずらせた相手だぞ」


 その時、颯爽と教会の尖塔の上に現れた三人の影!!!


 き、貴様らは……!


 試験は毎回、学年首位!『全属性魔法』の田中!

 学内きっての陽キャでパリピギャル!『古竜騎士』の鈴木!!

 サッカー部エースにして校内一のイケメン!『極光拳』の佐藤!!!


 俺はスイッチを押した。

 雄大な発射音と共に教会の尖塔はロケットと化した。


「「「「ギャァアアアアア!!!」」」


 3人の元クラスメイトを連れたロケットはそのままお空の星になる。


 あばよ、ダチ公……! オメェーらのこたァゼッテー忘れねェ!!


 2秒ほど空へ向けて熱い涙を流していたが、他の噛ませ犬が続々と集まって来そうだったのでスニークモードへ移行した。

 物陰に溶け込みながらあたりを窺うと、見知った顔がチラホラしている。どうも元クラスメイトの殆どが生き残ってこの街に集まったらしい。小王国群の滅亡と共に行方知れずになっていたが、状況から察するに全員魔王軍に取り込まれたな。俺の情報網に引っ掛からなかったわけだぜ。

 しかし、いかに強力なスキルとレベルを持っていようと俺の敵ではない。所詮連中は主人公と敵役をヨイショするための噛ませ犬に過ぎないからだ。

 問題はやはり主人公たる崇である。この展開から考えて悪辣な元クラスメイト達を軽くあしらった邪悪の権化たる俺を、クラスメイト達がバカにしていた正義の主人公たる崇が倒す……これしかない。となると、崇はやはり魔王の現実改変能力にやられている可能性が高い。

 しかし俺に不安は無かった。


 だって……俺と崇は、真実(マジ)親友(ダチ)だから……!!


 親友同士が友情を確かめ合うために河川敷で殴り合うのは鉄板イベントである。一度は敵味方に分かれてしまう悲劇性も好ポイントだ。運命(ぢから)が高いと言えよう。となれば、俺の拳は高確率で崇の目を覚まさせるはず…!!

 ただ、場面を盛り上げるために一方が死ぬ確率も相当に高いが……それはもちろん、主人公じゃない方なんだが……


 ま、まあ無暗に気にしていても始まらん。どのみち主人公が覚醒してくれない限り俺に未来はない。


 二回の爆発音を聞きつけクラスメイト達がどんどん集まってきた。最上位を占める四人がやられた事を察して、おめでた頭の連中にもさすがに緊張が走る。

 その様子を観察しながら戦略を練る。展開的に俺と崇の一騎打ちになるだろう。街中に入れた仕込みはモブどもをブッ飛ばすのには十分だが、崇には通用するかどうか。

 しかし元クラスメイトどもはどいつもこいつも目の前を素通りするばかりで、誰一人俺には気付かない。今の所このスニークモードを見破ったのはレイさんただ一人だが、果たして崇は……


「見つけたよ」


 ! 来たかッ!


 やはり崇は俺のスニークモードを看破した。それと同時にモブどもにも認識が共有される。直ちに連中は屋根の上に立っている俺を発見した。


 フッ… 現れたなァ崇よ!!


 ここぞとばかりにマントを風にたなびかせ、腕組みして不敵にニヤリと笑う。決まったぜ。ケヒャッ!


 崇はいつもの鍛冶師らしい素朴な前掛姿(エプロン)ではなく、いかにも主人公でござい、というような細身の鎧をまとっていた。

 周囲には元クラスメイトの中でも顔面偏差値の高いツンデレ委員長やらメカクレ図書委員やらおてんば運動部やらの美少女たちを侍らせている。


 その中に、崇の奥さんは、いない。


 目の前が真っ赤になった。衝動的に髑髏(ドクロ)マークのスイッチを押さなかった自分を褒めてやりたい。それぐらい、体中が爆発しそうな感情だった。


 おい……崇よォ~…そのアバズレどもは何だよ。

 オメェ…いっちばん大事な女性(ひと)を忘れてんじゃあねえのか?


 俺が漏らした『大事な女性(ひと)』という単語にアバズレどもが色めき立つ。


「はぁ!? ふざけないでよね! 崇は私と付き合ってるんだから!!」

「ちょっとちょっとー、抜け駆けは無しじゃん」

「ふ、二人ともだめですよぉ~ 灘さんが困ってますぅ~」


 崇は黄色い悲鳴をあげながらひしとしがみついてくるアバズレどもを見回し、ポリポリと頭を掻きながらまるで他人事のように呟いた。



「俺、また何かやっちゃいました?」



 聞いた途端、俺はブッチギレた。崇の口からそんなセリフだけは聞きたくなかった。


 許さねえ……ゼッテェー許さねえッ!!

 ソッコー目ェ覚まさせて、奥さんに土下座させてやらァ!!!


 俺の拳は既に、スイッチへ叩きつけられていた。

 崇達の足元から勢いよく白い泡が噴出した。泡は瞬く間に彼らを包み込み、大気と反応して強弾力性の粘性物質へと変化する。

 オークの益荒男も一発で行動不能にする魔術師ギルド暴徒鎮圧兵器開発チームの傑作『トリモチ君バブルタイプ改Ⅱ』である。しかし、この程度で取り押さえられるタマではあるまい。

 案の定、崇一人はべた付くトリモチをものともせずにちぎり捨てた。


「みんな、下がって!」


 崇の鶴の一声にモブどもは散って行く。その際にトリモチで包まれた女どもも回収されていった。残るは俺と崇のみ。


 俺は屋根の上から飛び降り、崇の前に立った。奴の目は鋭い。


 男一匹同士が己の意地をかけて対峙する。俺と崇の間に乾いた風が吹き、丸まった枯草(タンブルウィード)がコロコロと転がる。

 ぶつかり合う視線と視線に、火花が散った。


 出しな……てめ~の…………

 『鍛冶(チート)…………スキル』……を…


 返答を待たずに殴り掛かった。が、崇は上体を逸らして難なく躱す。


「『機神鍛冶(クリエイト)!!』」


 崇が見えないハンマーを宙で振るような素振りをした。何かヤバいと思った俺は反射的に飛びのく。直後、石畳を突き破って、それは現れた。天を衝く巨躯を見上げる俺の心境は驚愕よりも納得が大きかった。

 俺も好きだよ、シンプルで。巨大ロボって男のコだよな。


「行くぞ! 異世界機神ノーベライザー!!」


 ロボの肩に立っていた崇が胸部のコックピットへ飛び移る。白く輝く騎士を思わせる巨体たるや、三階建てのデパートよりでっかい。異世界の煉瓦造りの家々では腰の高さにも及ばない。ガンダムがちょうどこれくらいのサイズだが、デザインは勇者ロボ寄りのスーパー系だ。


 俺はダッシュで路地裏に逃げ込んだ。


「逃がすかぁっ!!」


 崇は背負った大剣を抜き放ち、サンライズパースでビシィッと正眼に構える。そして俺と崇のモグラ叩きが始まった。


◆◇◆


 工房区画の狭い路地裏をちょこまかと逃げ回る俺めがけて崇が剣を突き下ろしてくる。このサイズ差では刺さるどころか潰れて跡も残らんだろう。しかし俺は数々の仕掛けを駆使して崇の裏をかく。秘密の通路、魔術バリア、ダミー人形、トランポリン等々で崇の猛攻をかいくぐり続ける。

 その間、ずっと崇の動きを観察をしていた。


 やはり崇の鍛冶スキルはすげえ。俺の目に狂いは無かったぜ。

 複数のダミーが位置を崇の注意を引いている間、俺は裏通りの壁に背を預けて息を整えていた。


 鍛冶と言えば作れるのは金物だけのように聞こえるかもしれない。しかし実際にはクラフト系スキルは何でも作れてしまう。究極的には巨大ロボだろうが核ミサイルだろうが作れてしまう。

 それはおかしい、という人もいるだろう。例えば銃などの複雑な構造物は設計を把握できていないと作れない、などの縛りをよく見かける。だがそれも所詮は創作上の都合で設けられた制約に過ぎない。


 鉄だって何も考えず焼いて冷やせば硬くなるというものではない。材料組成、加熱温度、鍛造過程、冷却方法、金属の結晶構造を決定するありとあらゆる要素。それらを知り尽くしていなければ硬く、折れず、曲がらぬ刀を作ることはできない。人類が手にして最も長く、広く使われているにも拘らず未だに研究の余地が残されているのが『鉄』という偉大な材料である。

 それらを知らずして、何故いとも容易く鍛冶スキルは良質な武具を生み出し得るのか?


『出来る』と思うからだ。


 空気を吸って吐くことのように!

 HBの鉛筆をベキッ!とへし折ることと同じようにッ

 出来て当然と思うことがスキルの拡大解釈を可能とするのだ!


 大切なのは「認識」することだ。チートスキルを使いこなすのはできて当然という精神力なのだッ!


 複雑な駆動系が分からない?不思議な力でいいじゃあないか!

 動力源が分からない?異世界の魔力でいいじゃあないか!

 制御方法が分からない?愛と勇気でいいじゃあないか!


 巨大ロボなど作れて当然!出来て当然と思う事だ!!


 それを崇はやってのけた。

 すげえ…! やっぱすげえよ崇は……!


 だが感心してばかりもいられない。俺はポケットから懐中時計めいたレーダーを取り出した。地下の中央制御室と連動した生命反応レーダーである。何度か確認していたが工房街区画を示す範囲に光る点は徐々に減っており、今では残り二つ。元クラスメイトのモブ共々、住民の避難は完了したようだ。これでもう遠慮はいらない。

 崇よ、俺が無暗に逃げ回ってるだけだと思ったら大間違いだぜ。仕込みは万全、奥の手も準備した。モグラたたきはおしまいだ。


 俺は路地裏の壁に仕込まれたスイッチの一つに拳を叩きつける。


 ショウタイムだ!!

 行くぜ、ナール・オー!!


◆◇◆



「ッ!!」


 巨大ロボを操る崇の前に、爆音と共に噴煙が舞った。火山口の如くもうもうと吹き上がる煙、その中に蠢く大きな影あり。

 崇は迷わず大剣を振り下ろした。

 しかし影は脚部履帯による急加速(ローラーダッシュ)によって煙の中から猛然と飛び出す。紙一重で剣閃をかわすと同時に懐へ飛び込み、痛烈なショルダータックルをお見舞いした。崇の白き騎士ノーベライザーは僅かによろめくも、一歩引いて体勢を立て直す。


 目の前でファイティングポーズを取るはノーベライザーに勝るとも劣らぬ、もう一機の巨大ロボ!!

 これぞ汎用人型異世界最終決戦兵器、装甲騎兵ナール・オーだッ!!


 白い騎士をモチーフとした崇の機体とは対照的に、無骨な歩兵めいた暗緑色の機体である。主兵装(メインウェポン)は斧。ザクしかりスコープドッグしかり、リアル系の量産型(やられ)メカは暗緑色(ミリタリーカラー)と相場が決まっている。

 俺が魔術師ギルドと工房の職人ギルドをデスマさせて創り上げた秘密兵器だ。なぜ工房街の地下に格納していたのか、と聞かれればロマンだからとしか答えようが無い。

 実は3匹の魔竜が強襲した際にも、住民の避難が進んだ後で起動させる手筈だった。幸い杞憂で済んだが、アホのイクシラあたりが「地下に巨大ゴーレムが隠してあるとくらい言って下さい!」とか何とか抜かしていたら我慢できなかったかもしれない。


 しかしとうとうその出番がやってきたというわけだ。

 行くぜ崇ィッ!!


「来い!!」


 勇者の巨像と雑兵の巨像が唸りを上げて激突する。巨剣と巨斧がぶつかり合うごとに弾ける衝撃波が大気を震わせる。踏みしめる一歩ごとに建物は砂城の如く崩れ去り、大地はひび割れる。互いに間合いを奪い合う加速のごとに魔術回路(サーキット)が火花を散らし、魔素反応炉(リアクター)が臨界に近付く。

 搭乗席内部コックピットはガラクタを詰め込んだ押し入れのように狭く、サウナのように蒸し暑い。無数の計器類は万華鏡の如く目まぐるしく変化し、各方向のモニター上で白く輝くノーベライザーが鳥の様に疾駆している。

 俺はその動きに僅かでも食らいつくため、必死で操縦桿(レバー)を握りしめ、ペダルを踏み込む。


 強ェ……!!

 勝てる気がしねえ…!


 何合も刃の切っ先を交えているが、性能差は歴然だ。ノーベライザーの大剣は幾度と無くナール・オーの装甲を抉り、こちらは既に骨組み寸前であった。対してナール・オーの斧は陶磁器のように美しいノーベライザーの装甲に僅かな引っかき傷を作る程度。しかもそれすら、崇の鍛冶スキルによって瞬く間に修復されていく。

 勝ち筋が、見えない。


 だが、それは初めから分かっていたことだ。そもそもナール・オーは遠隔操縦が可能であり、本来は搭乗する必要すらない。それでも俺は崇の前に立ちたかった。崇と拳を交えたかった。運命(プロット)力の向上だけではない。命を張らねば届かぬ言葉もある。


 しかし無情にも根性論だけで埋まる実力差ではなかった。ノーベライザーの一閃は遂にナール・オーを捉える。

 ナール・オーは胴を真っ二つに両断され、無残に泣き別れした上半身が瓦礫の中に落下した。搭乗席内部コックピットの衝撃も相当なものだった。

 反応炉は完全に停止して身動きが取れなくなる。俺は死にかけた虫のようにコックピットから這い出てナール・オーの上半身にうずくまった。


 だが、ノーベライザーはこちらを警戒し、まだ正眼の構えを解いていない。


 ケヘヘ……流石だぜ崇。なら期待に応えようじゃねえか。

 ハナからお前と一対一(タイマン)で勝てるとは思っちゃいねえ。

 だから言ったよな?『量産型(やられ)』メカだってよォ……!!


 俺はスイッチを押す。直後、爆発音が轟いた。ノーベライザ―の周囲にもうもうと立ち上る煙は、八つ。


 行けェーーーッ!!

 ナール・オー弐+参+肆+伍+陸+漆+捌+玖号機ィーッ!!!


 灰色の煙を突き破り、八つの巨体が飛び出した。


 崇を取り囲むように現れた八機のナール・オー。遠隔操縦された八機は寸分違わぬタイミングでノーベライザーに向かって同時突撃する。

 ノーベライザーは大剣をバットのように悠然と振りかぶり、回転切りの構えを見せた。一網打尽に一刀両断するつもりだ。


 だが、そんなこたァ先刻承知よォーッ!!


 ナール・オー全機の背部ブースターが爆速で噴射される。かつてない神速の加速を見せた八機は巨大な質量弾と化してノーベライザー目掛けて突進した。言い忘れていたが八機とも自爆装置搭載である。


 ぶった切られようが、関係ねェーッ!!


 着弾の瞬間、天を貫く巨大な火柱が上った。

 爆発による衝撃波は瞬時に工房街の窓という窓を粉砕した。追って続く爆風が猛烈な土煙をあげながら、家屋という家屋をなぎ倒し圧し潰していく。

 吹き荒ぶ暴風のさなか、俺はナール・オーの残骸に必死でしがみつきながら決戦兵器たちの勇姿を見届けた。


 や……やったかッ!?


 あの爆発だ! ケヒャッ! 崇だって人間だ! 流石の機体も無事じゃすむまい!

 フッ決まったな……風呂にでも入るか……

 

 立ち上がって勝利の雄たけびを上げようとした、その時だ。

 俺は確かにその声が空に木霊するのを聞いた。



「『世界鍛冶(クリエイト)』」



 天地が裂けるような、世界が軋む恐ろしい音が響いた。


 ぐにゃりと視界が、いや街そのものが捻じ曲がる。そのまま動画の早戻しの如くあらゆる事象がエントロピーを無視して変形してゆく。全てが悪夢のようにおぞましくねじ曲がっていく。

 気付けば八機のナール・オーの残骸は姿を消していた。崩壊しつくされた工房街も、まるでそれが幻だったかの如く元通りになっていた。


 大通りに残ったのはナール・オー初号機の上半身と、雲一つない青空の下で白く輝く無傷のノーベライザー。

 呆然とした俺の前で、胸部ハッチを開いて姿を現した崇が悠然とこちらを見下ろしていた


「やめてよね……

 本気でやったら君程度が俺に勝てるはずないだろ」


 こ……こ……ここまで…とは……!!


 崇の奴、()()()()()()()()()()()()()


 覚悟はしていた。全てのチートスキルは最終的に必ずこの領域に辿り着くと言っても過言ではない。即ち、限定的な現実改変能力……!

 し、しかしまさか……この規模でやってのけるとは……!!

 この域に到達してしまえば、もはや俺の攻撃も仕込みも、一切通じない。物理的な攻撃も魔術的な攻撃も、この世界に由来する全ては崇に鍛冶(クラフト)されて無効化されてしまうだろう。

 あまりの絶望的戦力差に、つい乾いた笑いが漏れる。


 へ、へへ…ケヘヘ……こりゃ無理だ。勝てっこねえ。


「俺もこれ以上手荒な真似はしたくないけど…魔王さんは俺の大事な仲間だ。

 考えを改めないならここで……とどめを刺させてもらう」


 そうだな。お前の勝ちだ。

 お前は強ぇよ。こんなに強かったんだな。


 ……でもな。お前は本当はもっと強かったんだぜ。


「……?」


 崇は青い空の下で、形良い眉をいぶかしげにひそめる。

 俺は不意に変な気分になって苦笑してしまった。


 なあ、崇。

 お前とはよく歴史の話をしたよな。俺は今日もするよ。

 第二次世界大戦末期、日本に落とされた二つの原爆。アレがなぜ二発も落とされたか知ってるか?

 戦争の早期決着? アジア系への差別意識? ソ連へのけん制? どれもノーだ。


 二種類作ったからさ。

 ファットマンとリトルボーイ、二種類作ったから……二種類とも試してみたくなったんだ。


「…何の話?

 君がアメリカみたいなクズだってこと?」


 違う。俺は何もアメリカが外道だなんて話をしたいんじゃない。こいつは人間の宿業(サガ)なんだ。日本だって同じ状況なら同じことをしただろう。

 人間は手にした力を試さずにはいられない。一度「出来る」と思ってしまったなら、やらずにはいられない。それが科学力でも権力でも腕力でも、超能力(チート)であったとしても同じだ。


 敢えてゲスな例えをするなら、デスノートや催眠アプリを手にして使わずにいられる人間がいるかって話さ。


 翼があるなら飛び立ちたい。牙があるなら突き立てたい。

 脚があるなら歩きたい、走りたい。手があるのなら掴みたい、握りしめたい。それは生物として当然のことだ。そして人間はその衝動がどんな生き物よりも強い。


「何が言いたいのか、分からないな」


 それでも、お前は使わなかったってことさ。これほどのことが出来たのに使わなかった。

 それがお前が臆病だからじゃない。自制心が強いからだ。


「……」


 力を振りかざさない勇気。振り回されない勇気。それがお前の本当の強さだ。

 俺はな、崇。お前のそれをこそ、マジで尊敬してるんだぜ……


「……っ」


 水面に落ちた雫が波紋を立てるように、崇の瞳が揺らいだ。高く見下ろされていても、魔王の奴に頭をおかしくされても、俺にはわかった。

 だって親友(ダチ)だからな。

 だからこそ今、真の奥の手を使う。言った筈だぜ。『一対一(タイマン)で勝てるとは思っちゃいねえ』ってよ……!!


 ナール・オーの胸部ハッチが勢いよく開き『複座』が解放された。

 肩を震わせながらも立ち上がった女性の気丈な瞳を見て、崇の目が大きく見開かれる。


 そう。めっちゃ可愛くて。気立てがよくて。飯が上手くて。

 尚且つ、おっぱいがでかい―――ッ!!


 帝国一のテメェの奥さんだァーーッ!!


「タッたッ……たく、タッ君!!

 浮気はっ!

 許さないんだからね~~~ッ!!」


 奥さんは半泣きになりながら絶叫する。愛の叫びは崇に掛けられた呪いに確実なヒビを入れた。

 思わずぽかんと開いた崇の口。


 ~~~ッ! ここだァーーーッッッッ!!!!


 千載一遇のチャンスを逃さずスキルを発動する。何の役にも立たねえ正真正銘(ガチ)の産廃スキルを発動する。

 ただし、そのスキルが生み出すのは異世界で唯一、俺と出自を同じくする現実改変不能の存在だ。


 こいつを……喰らいやがれェーーーーッッッ!!!


 正に乾坤一擲。全力投球されたそれは流れ星の如く熱く美しく燃えていた。

 それは崇の鍛冶スキルによる改変はもちろんノーベライザーの自動迎撃レーザーすら貫通した。


 何故ならそれは、鍛冶と料理を司る(かまど)の女神が揚げ直した異世界最強の唐揚げだからだ。


 真っすぐに飛来した唐揚げは崇の口へ見事なホールインワンを決めた。妻の愛と友の勇気が込められた異世界最強の味に、崇の口は反射的に咀嚼してしまう。


 その瞬間、大きく波打った崇の瞳。その裏に過ったであろう光景の全てを窺い知ることはできない。

 けれども俺にだって想像はできる。

 共に歩いた山道の寒さと飢え。ボロボロになって辿り着いた帝国の賑やかさ。ぞんざいにたらい回しにされた職人ギルドの冷たい視線。紹介された鍛冶屋で一目惚れした最愛の女性(ひと)。慣れない鍛冶仕事を懸命に覚えながら店を盛り立てた貧しくも満ち足りた日々。

 チートスキルなどに頼らず、ポンと与えられた力に振り回されず、真に自らの手で掴んだその全て。


 それらがきっと、崇の心を揺らしたはずだ。

 だって、その時にはもう崇の頬に光るものが伝っていたんだから。


 強い風に崇の前髪が踊った。白い巨人は嘘のように消えていた。


 ぽつんと地面に立つ崇は素朴な前掛姿に戻っていた。そして眉をへの字にして何とも情けない顔で笑っていた。

 何だか俺も照れ臭くなって、久しぶりに再会した旧友にするように大きく手を振った。


 けひひっ……よぉ崇。帝国一の奥さんと親友に感謝するんだな。


 崇は軽くえずきながらも笑っていた。


「……本当に…っ…もう……君は、相変わらずだなあ…」



◆◇◆


 崇はわんわんと大泣きする奥さんを抱きしめながら何度も謝っていた。奥さんは泣きながら最愛の夫の頭をポカポカ叩いている。崇はされるがままだ。

 正に奥の手たる奥さんの手は、出来れば借りずに済ませたかった。そのため最後まで温存したのだが、結局力を借りてしまった。しかし効果は覿面だったな。


「ありがとう……本当にありがとう。

 君がいなかったら俺は……」


 へっ よせやい。

 まだハッピーエンドにゃ早ぇんだ。大仕事が残ってる。


「そっか……やるんだね。

 俺にも唐揚げ一つで立ち向かえるぐらい勇気があればな……」


 何言ってんだ。俺のは勇気じゃなく打算っつーのよ。いつだって勝ちの目が見える博打を仕掛けてるだけだ。

 自分のためには一度だって奥の手(チート)を使わなかったお前の方がよほど勇敢さ。


「そんなことない。

 それに俺の中にも勇気があるなら、それは君がくれたんだ」


 崇は奥さんを抱きしめながら、白い歯を見せて破顔した。


「君が俺に勇気をくれたんだよ。

 あの山で。

 あの唐揚げと一緒に」

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