閑話 残響するもの
※番外編です
暗い。
いや、“暗い”という概念すら曖昧だった。
ただ、そこには“かつて人だったもの”があった。
指が動く。だが、それは自分の意思ではない。
骨の内側に埋め込まれた魔晶石が、ゆっくりと脈動している。
「……あ、あ……」
声が出た。
だが、それは言葉にならない。
記憶がある。
家族。街。朝の光。
それらはすべて、遠く薄い膜の向こう側にある。
今の自分は、それを“思い出している何か”にすぎない。
視界の端に、別の影が揺れる。
同じように歪んだ体。
同じように、魔晶石を埋め込まれた存在。
それは近づいてくる。
敵かどうかも分からない。
ただ、“同じ匂い”がした。
壊れた記憶の匂いだ。
「……かえ、り……」
口から漏れた音は、意味を持たなかった。
だが、どこかで確かに“誰かに届くことを願っている音”だった。
その瞬間、体の奥で何かが弾ける。
魔晶石が強く脈動し、意識が沈んでいく。
最後に残ったのは、ひとつの感覚だった。
――まだ、終わっていない。
それが“人間”だったのか、“何か別のもの”だったのかは、もう分からない。
ただ一つだけ確かなことがある。
この世界には、まだ“残響”がある。
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