表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/36

世界が色を持った日

 



 最初は、ただの興味だった。


 雪の夜に、あまりにも無防備に立っていた小さな存在。

 恐怖も警戒もなく、震える手で、俺の外套を掴んできた。


 ——妙だと思った。


 弱くて、何の力もなくて、この世界では消費される側でしかないはずの存在が、なぜか俺を選んだ。


 それだけだった。その時は、まだ。


 十歳。

 あの小さな身体で、眠れずに泣いていた夜のことを覚えている。

 抱き上げれば、すぐに静かになって、俺の服を離さなかった。


 失う、という感覚を、その時、初めてはっきりと想像した。


 ——もし、ここからいなくなったら。


 それが、妙に現実的で、胸の奥に、冷たいものを落とした。


 十二歳。

 少しずつ外を知り、少しずつ笑うようになって。


 俺の手がなくても、歩ける距離が増えいった。


 それが、怖かった。


 この世界は、優しいだけではない。

 弱いものは、容易く壊れる。


 だから、目を離さなかった。

 だから、守った。

 だから、囲った。


 それが正しいと、疑いもしなかった。


 そして、十四歳。


 学校へ行きたいと、あの子は言った。

 知らない世界を見たいと。


 それを止められなかったのは、拒めなかったからだ。


 ——楽しそうに笑う姿を、否定したくなかった。


 だが。


 他の人間の視線に晒されるたび、俺の中で、何かがはっきりと形を持ち始めた。


 触れるな。

 見るな。

 奪うな。


 それは、保護ではなかった。


 独占だ。


 世界は、いつの間にか変わっていた。


 どうでもよかったはずの人間の営みが、あの子に害をなす可能性があるというだけで、排除すべき対象になった。


 元から恐れられる存在だった。

 距離を取られ、忌避され、

 それで構わなかった。


 その世界に、ひとつだけ例外ができた。


 弱くて、無防備で、それでも、自分から俺の手を取った存在。


 ——世界を変えたのは、あの子だ。


 興味だったものは、恐怖になり、保護になり、

 そして今は、明確な欲望になっている。


 俺だけのものにしたい。


 その想いが、歪んでいることを、理解していないわけじゃない。


 けれど。


 手放すという選択肢は、もう、どこにもない。


 夜は、俺が引き受ける。危険も、汚れも、触れてはいけないものも。


 あの子は、朝になれば、また何も知らない顔で笑えばいい。


 それでいい。


 ——世界を変えてしまった責任は、

 全部、俺が背負う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ