マダムだし!
あぁ、だから寒いんですね。あなた、責任注意ですよ!
珊瑚色のカードをまじまじと見つめるさえ子はベッドに広げた毛皮のコートの前に立っていた。
「んじゃ俺様もう行くけど、絶対必ず確実に今日中で頼むぜ? ズルして車なんか拾っちゃダメだからな。行き先は誰にも教えない、の約束なんだから」
さえ子は指先でコートをなでた。
「この私が自力で歩かなきゃいけないなんて信じられない。でもおかげでこのコートを着る機会ができたわ。一度も袖を通してなかったのよねー」
クローゼットの中には、このコートと同じように買ったままの状態で保管されている服が、店を開けるほどたくさん詰まっていた。
「それにしてもこれって怪しい宗教の勧誘とかじゃないでしょうね?」
窓枠にしゃがんでいるジャックが笑う。
「そういうんじゃないって。俺様たちは、おばちゃんみたいな人見つけて導いてるだけだよ。ま、そこまで行けば係が親切丁寧に案内してくれるからさ、そんじゃ気ーをつーけてー」
そう言ってそのまま背中から外に落下した。
「やだ! ちょっと二階から……」
さえ子は青ざめ急いで窓に駆け寄って下を見たが、すでにジャックはいなかった。正確には、地面にはいなかった、だが。
ジャックは落下地点から数十メートル離れた電信柱のてっぺんで早速次の獲物を探していたのだ。
風に吹かれながらまたぼやく。
「……ほんとにレイン戻ってこねーし。あと何人いると思ってんだよ……シーナはハズシたらどんどん次行けよなー。俺様泣きたくなってきた。聞いてんのかお前らー?」
ジャックの声はちゃんと届いていたが、それどころではない二人は当たり前のようにジャックを無視することとなった。
レインは百二十年もののワインをラッパ飲みしながら彩内院と人気のない道を歩き、シーナは新しく見つけたおじさまを前に“めめーぞん”のカフェコーナーで口いっぱいにショコラ・オー・キャラメリゼをほおばっていたのだから。
「……二人とも、ひでぇな」
ジャックはこの街に配属されて間もないためか、その前から一緒にいた二人に未だこういう扱いを受けていた。
年の離れた末っ子扱いでかわいがってはもらえる反面、貧乏くじはいつもジャックが背負うのだ。
三人とも体に寒さは感じないし、もちろん凍死するなんてこともないのだが……なぜかジャックは心にブリザードを感じていた。
「はぁ……あー、仕事しよ」
目をフル稼働させて、レイン曰く“偽善オーラ”を見つけ出す。それぞれ見え方は違うがジャックの目にはそれが白っぽい光として映っていた。
(俺様がくるまでは二人っきりでノルマ達成してたのか? そういやー俺様、昔のことって聞いたことないんだな……)そんなことを思いながら目の端に白い輝きを感じ最短距離で現場に向かった。




