寒空徒歩!前!
裏道は知っている人が案内を。あなた、足元注意ですよ!
彩内院と並んで街を歩くレインは途中で見つけたゴミ箱にワインの瓶を置いた。
カードの地図がさっぱりわからなかった彩内院のため、本当にレインが案内をする形になったのだ。
性格上、自分の前に誰かがいるなんていうことが許せない彩内院は前に出しゃばりたい気持ちを抑えながら何とか横に並んで歩くことで妥協していた。
「ねぇ、ねぇレインってまさか本名じゃないよね? ニックネームだろ? それともバカでかいから日本人じゃないのかな?」
目的地までは普通に歩くと結構距離がありレインと違って酔っている彩内院の足に合わせるのでよけい時間がかかっていた。そのため道中の暇つぶしも兼ねて彩内院はレインに質問ばかりしているのだ。
レインはふらつく彩内院を横目で見下ろしながらどこまで話すべきなのか考えた。
「うーん……みんなその場で名前をもらえるんだけどレインさんは自分で名前変えちゃったの。雨が好きでいい男すぎて晴れより雨が似合うからレインさんってね」
酔っぱらいは細かいことには気がつかず思いつくまま次々に言葉を発していく。
「じゃあ君さぁ、なんでマフィアみたいな格好してるのかな? そういうのって今どき映画でしか見ないよ……マフィア? うわ! まさかっ君、身代金目当てに僕を誘拐する気なんじゃ……!」
ボディーガードがいないことを思い出し千鳥足で逃げようとした彩内院はレインに首根っこをつかまれジタバタともがいた。
「うちはっ、金ならあるけどっ、誘拐なん、てー冗談じゃ、なーい!」
レインは聞かん坊でも見るような目でやれやれ、と息を吐いてそのまま彩内院を子猫かなにかのように自分の顔の前まで持ち上げた。
「あのねー。レインさん、君のそういう姿見るのは楽しいけど誘拐の趣味はなーいの。オーケー?」
大男に片手で持ち上げられて彩内院も少し酔いが冷めたのか少なくとも暴れなくは、なった。レインがそっと地面に戻す。
「その発想こそ映画の中だけにしといてね。このマフィアマントかコートかは人によって変わるけど、まぁ仲間の印かな。ちなみにこの長さは格が上だよってこと。引きずるの嫌だから少し上げたんだけどね」
レインがコートを少し短く直したのは見た目のバランスとして白の靴を見せるため、という理由もあった。しかし以前仲間だった男から“おしゃれはさり気なく”という教えを受けていたため、わざわざそのことを口には出さなかった。
「誘拐じゃないなら僕を連れて行くことで君に何のメリットがあるんだい? それに格が上、ってことは君は上司か何かってことなのか? 仲間がいるって言ったけどそのお仲間が僕を欲しがっているってことなのか?」
いつの間にか雪は止んでいた。風は相変わらず身を削り取っていきそうな勢いで路地を吹き抜けていく。
立っているだけでも絵になるレインはその風にコートと髪をなびかせて本人も意識せずして映画さながらのワンシーンを演出していた。




