寒空徒歩!中!
紳士は絶滅危惧種です。あなた、高揚注意ですよ!
彩内院は酔いが冷めたことで寒さを感じたのかコートの前を合わせて白い息を吐く。歩きながらその様子を見ていたレインは、フッと笑ってから自分のコートをさぁっと脱ぎ彩内院の肩に、そっとかけた。
「え?」
驚きよりも見た目以上に温かいコートの必要性が勝ち、アルコールとは違う意味で赤くなった彩内院は黙って好意を受け入れた。
ただでさえ長いコートは、どうしようもない身長差のおかげで地面を引きずられ、とけかかった雪をなでつつ吸収していった。
「君って質問はひとつずつって法則がないんだね。えー、まずこれがレインさんたちの仕事であってメリットとかじゃーない。強いて言うならレインさんはいいお酒をいただけるのがメリットかな。そして格は上だけど上司ではない。レインさんたちは役割分担の外組だよ。本当のトップは別にいる。レインさんたちはうーんと大きな組織の一駒にすぎないんだ。それで……ってどこまで聞きたいのかな?」
レインのコートにくるまれてぬくぬくしていた彩内院が当然のように答えた。
「全部。僕がどういう状況にあるのか理解するためにも案内をしている君が何者なのか知る必要があるのは火を見るより明らかだ。そもそも出発前にそういうことは話すべきじゃないのかな?」
秘書がいたらなぜ仕事中にそういう当たり前でまともなことを言ってくれないのか、と嘆いたことだろう。
彩内院はすっかり正気に戻っているがそれは今だからこそ言えるセリフだった。
出発前は隠し酒蔵をほぼ空にした結果、思考回路がいつも以上に遠くへ出かけてしまっていたのだから。
レインがにっこり笑った。なんだかんだ言って彩内院と一緒にいるのが嬉しいことに変わりはないのだ。
「じゃあ、説明するとー、この街にはレインさんのほかに二人の外組がいて同じ仕事してるんだけど、そっちはまだまだの二人でピヨピヨちゃんなんだー」
外組には離れていても意思が通じ合えるという便利な力が備えられている。この仕事をやっていく上で必要な能力だった。
シーナは聞こえてきたピヨピヨちゃんの言葉のかわいさに大はしゃぎして目の前にいるターゲットを驚かせ、ジャックは(へいへい、そうでしょーともー……)などと、思いながらこの日最後の一人を追いかけて行った。
レインが言う“格”は、能力や経験によって判断され、行動の品位などでも変化した。だが形が変化したものをまとうだけであって着ている服が勝手に伸び縮みするわけではない。
格は上でもリーダーなどという位置付けではなく、三人の間ではみんな仲間、だが基本的に仕事は自己責任、単独行動。というところだった。
そしてシーナのコートはジャックより短くお尻が隠れる程度。悲しいことにキャリアはあってもその振る舞いからジャックより格下扱いなのだった。




