ヲタ優位!中の上!
そんなことばかり言われては困ります。あなた、唾液注意ですよ!
「もう。あと少しだって言ってるのに……」
漫画を読むスピードが倍速になった。この状況でも読むのを止めないあたりはさすがシーナというところだ。ちゃんとあとがきまで流し読みだが目を通し、やっと漫画を手放した。
シーナは、たった今覚えたばかりの仕草を頭の中で復習しながら急いで店を飛び出していく。街に出て目を見開き自分に見える範囲を隅から隅まで見回す。
「えぇーっとー……」
“捜し物”をするシーナの目を見た、通りすがりの子供が火がついたように泣き出した。何を見たのか気付いた親が慌てて子供をシーナから遠ざけている。集中しているシーナは泣き声がうるさいと思いながらもそれが自分のせいだとは思っていなかった。たとえそうだと知っても特に何をするでもなかっただろうが。
「おーっと、見つけたぴょん!」
シーナは覚えたばかりの言葉を早速実戦で使えたことが嬉しかったらしく、うふうふ笑いながら人ごみに見え隠れする男の頭を目指して軽いフットワークで走り出した。
その姿を確認してからほんの数秒で男に追いつき後ろから思いっきりスーツを引っぱる。
「うわっ!」
男はさすがに倒れはしなかったが妙な衝撃にバランスを崩し膝をカクンっと折りまげて何が起こったのかわからないままに歩くのを中断した。
「お待たせしました、ご主人様ー!」
シーナの言葉に周りの人ごみがザザッと男から距離をとる。当然男は慌てふためいてしどろもどろになってしまった。
「んなっ! ちょ、いやいや何言ってるんだ君は! そっ、そんな違います! 違う、知らない、誤解ですよ、この子は全く知らない子で……」
「ご主人様ヒドイでちゅー。今日は、あたちをいじめる日でちたかー? いつもみたいに優しくしてくれなくちゃー……い・や・で・ちゅっ!」
シーナは本気で男をおもちゃにしているようだ。漫画の影響は恐ろしいものである。
男は顔面総赤になり、目を泳がせながらこの寒さの中ダラダラと汗をかいている。せっかく買った本も落としてしまった。
予想以上に男の酷い様子を見ることができたおかげで気が済んだのか、シーナは荷物を拾ってやりそのまま男を引っぱってビルの合間に連れて行った。
「ききききき君は俺に何の恨みがあってあんな、あんなことを!」
人目を避けたのはいいが男の目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「待っててって言ったのに勝手に帰った罰でーす」
「そんな勝手な! 俺は君みたいな子供は知らないし、君の言うことを聞いてやる義務もないんだぞ!」
男の言い分はもっともなのだが、せっかくの『ベルリンず』をじっくり読めなかった上に雪はさらに大粒になっていてシーナも少々へそを曲げていた。宙に浮いたり空を飛んだりできるわけではないので真っ白な靴は最初の予想通り泥だらけになっていた。
「そんなこと言ったって私にもおじさんを引き止める理由があるんだからしょうがないしー。本当はこんなことしてないで早く帰りたいんだからおじさんも協力してちょうだいよ」
同意し難い強引なシーナに男は遠くを見て気をそらそうとした。
「とんでもないガキに捕まっちまったな……」
シーナはむくれ顔だ。
「ちょっと、それは心の中で思うところでしょ。それよりほらほら、質問でーす。『なぜあなたは寄付をしたのですか?』早く答えないと私に、“めめーぞん”のショコラ・オー・キャラメリゼをおーごるっ! はい、5・4・3……」
「はぁっ? めめ……ショコ何?」
シーナはにーっこり笑って人差し指を立てた。
「ゼロー! はい! 時間ぎーれー。ショコラ・オー・キャラメリゼは“めめーぞん”おすすめ、この時期限定ショコラシリーズのひとつでーす! とろけるショコラと中の洋ナシが最高のハーモニー! わーお!」
シーナは漫画と同じくスイーツにも目がなかった。と言っても自分で買いにいくわけにはいかず、黙っていただくのは一番悪い子がすることだとレインからキツく言われているため、こうして買ってもらうという手段を使うのだ。ジャックに帰ったら食べると宣言していたものも前日この手を使って買ってもらった、シュークリーム専門店“跳ね馬”のダブルカスタードと苺のシュークリームだった。




