その白い空間!前!
その一歩は勇気がいります。自分で踏み出すのですから。あなた、決断注意ですよ!
ドアが閉まったのを確認した青年はドアだった物が白い壁に溶け込んで消えていく様子をただ静かに眺めていた。
白一色の部屋。見回す限り何も置いていない。照明は一切なく、壁や床といったこの場所を形作っている物が眩しく感じるほどに白く光っていた。
全部が光を放っているせいで錯覚を起こしそうだが、よくよく見ればちゃんと壁の一部に大人が余裕をもって通れるほどのシンプルな通り道があけられていた。
(ここは何なんだ?)青年は、そのまま通り道に近付いていった。隣を見てみると同じように何もなくただ白く光を放つ部屋があるだけだ。
他にどうすればいいのかわからないため取りあえず隣に行こうと思い立ったその時。
「ちょっと待って」
頭の上から澄んだ雪の結晶のような声がした。青年が足を止めて上を見るが誰もいない。スピーカーらしき物もなく壁から床からその部屋すべてがつるつるすべすべになっていた。
「おーい、誰かいるのかい? いるなら僕にどうすればいいのか教えてくれないかな。説明も目印も何にもなくて困ってるんだよ」
美しい声が即座に答える。
「ここにきたということは、あなたが『あなたで人を助ける』ことを望んだという証です。ところで、あなたは自分の名前が言えますか?」
「そんなの当然だよ……」
と言ったっきり言葉を失った青年の顔が固まった。しばらく眉をしかめ頭をひねっていたが急にパッと明るい顔になって胸から財布を取り出す。
しかしそこに入っていた名刺は名前のところだけが空白になっていて青年は無言でそれを元に戻した。
「……そっか、こういうことか。なくすのは名前だけなんだね。ひとまず記憶があって何よりだ。そうでなけりゃいきなりこんな状況になったらパニックを起こしかねないからね」
青年は冷静だった。
「はい。でもそれも今のうちだけです。次の段階ですべて消えてしまいますから。残っている記憶も全部」




