困惑少年!
自分のペースって大事です。あなた、速度注意ですよ!
「じゃあ、もっかい聞くぜー?『なぜあなたは寄付をしたのですか?』」
ジャックは絵本の世界に出てきそうな家の中でピンクのソファーにしゃがんでいた。落ち着いて座るには無理のある空間だったのだ。
その向かいにはリボン付きの小型犬レディ・フランソワを膝に乗せ紅茶のカップを口に運ぶ小柄な女性。顔に刻まれたしわは高級エステに通ってもすべて隠しきれるものではないらしい。
「そうねぇ。お金ってたくさん持っててもあの世まで持って行けないし、それを人のために使うのって素敵よね。それに、これが今の私にできる精一杯のことだったから……」
ジャックが苦笑いで頭をかいた。
「それが答え? あー、惜っしいんだけどなー。不合格だよおばちゃん。それって俺様的には完全に合格レベルなんだけど、それじゃちょっち違っちゃうわけー」
ジャックは“さえ子さん”と呼ぶように何度も注意されていたが、人の名前などどうでもいいので結局一度もその名前を口にしていなかった。
ひらっとソファーから飛び降りてマントとスカーフを整える。
「んじゃ、ま、縁がなかったってことで俺様帰るわ。お茶ごちそうさん」
一応口を付けるまねだけしたアールグレイの礼を言う。
「え? ちょっ、ちょっと待って! それじゃどうすれば合格できるの?」
さえ子は、おばちゃんと呼ばれたことも忘れてフリルの膝掛けを落としながら立ち上がった。膝掛けと同じ扱いを受けたレディー・フランソワが驚いて部屋を出て行ったことにも気付いていないようだ。
ジャックは雲行きが怪しくなってきたことを感じ不安になってきた。ほかの二人に比べるとまだ経験が浅いのだ。
「あー、えっとー、そういうんじゃなくて合格しなくても何の問題もないし、もっと軽い気持ちでいてくんないと俺様も困っちゃうっていうかー……あー、ほらレディ・フランスーがどっか行っちゃったよ?」
名前を聞いた時に心の中で吹き出しただけのことはあり、やっぱりちゃんと覚えていなかったようだ。
大事な子供の名前を間違えられたことさえどうでもいいらしく、さえ子は拳を握りしめて身を乗り出している。
「そんなことより、不合格なんて嫌よ! テストだろうと何だろうと不合格なんて許されないのよ! 寄付だってこの私の力で下々のものたちに恩を売りたかったからに決まってるじゃないの!」
ハッと口をつぐんだが時すでに遅し。
ニンマリ笑うジャック。困惑の顔が一瞬で小悪魔に変身した。
「やった! 俺様が欲しかったのはそれだよそれー! 合格だっ! そんじゃ『あなたの望み通り、あなたで人を助けましょう』ってね。そんじゃ俺様次があるから大急ぎで説明すんぜ? いいか? この……」




