第三話 おじいちゃん、認める
私は若い女性をじっと見ていた。
そこへ、若い男が息を切らせて駆けてきた。
「瑞穂様! エルグラン城の姫君ともあろうお方が、お一人で外へ出られては困ります! 城の者たちが……いえ、私などが申し上げることでは御座いませんが……」
私は首を傾げた。
この若い子、瑞穂というのか。
――それで、姫君というのは、何?
瑞穂は強い口調で言った。
「下らぬことを申すな! 良いか、シャドウ! そなたは間違っておる。天狼の砦にいる戦士たちは頼りない。私には聞こえる。民の嘆き悲しむ声が! そなたは何も分かっておらぬ!」
「その……お言葉ながら、申し上げます。戦士たちも魔物との戦いに明け暮れ、民を守り切れないので御座います。姫君のお言葉はあまりにも冷たい。戦士たちとて、命を懸けて……」
私は二人の会話を聞きながら、頭がくらくらした。
この若い奴……まあ、私の書店に来る高校生三人組よりは、ちょっと、ましに見える。
しかし、何だな。
瑞穂という子も妙な格好だ。
この若い奴、こいつも妙な格好。
どっちも戦国時代の鎧みたいのを、手直しした変なものを着ている。
ハロウィンのお祭りは認める。
若い子も、一日くらい変わったことをしたいだろう。
だが、なんだ?
こいつらは年から年中、仮装をしているわけだ。
若い男が私を見た。
私のことを、じっと見て。
瑞穂に目を向けた。
「このような、老いぼれを助けることに何の意味が御座いましょうか!」
もう許す気はない!!
私は怒りを滲ませた。
「おい、若造! お前はいつまで遊び呆けるつもりだ! いい加減に目を覚ましなさい!」
若い男は一瞬うろたえた。
だが、私はその後も手を緩めなかった。
「いいか、若造! 自分はまだ若い。これから、いくらでも未来が切り開ける。まあ、そんな甘いことを考えているのだろう。だが、その甘えは捨てるべきだ! 若いうちから――」
私は話しながら、何げなく瑞穂へ目を向けた。
瑞穂が突然、顔を上げた。
木々の奥から、再び魔物たちが姿を現した。
魔物たちは瑞穂を囲むように寄り集まっていた。
瑞穂が剣を抜き、魔物たちと対峙した。
魔物たちは一斉に瑞穂へ襲い掛かった。
私は怒った。
――瑞穂やこの若い男は、仮装して遊んでいるだけだ。
しかし、この怪物の恰好をした若者たちは、仮装して楽しんでいるのではない。
私の怒りは限界を超えた。
「おい!! 貴様!!!」
自然と。
怒りが全身を震わせた。
そして。
私は、怪物の恰好をした若者たちに向かって行った。
「うおおおっ!!!」
私は、自分でも信じられないほど大きな唸り声を上げた。
目の前を銀色の光が横切った。
瑞穂の剣だった。
若い男も剣を抜き、魔物たちへ斬りかかっている。
私は何が起きているのか分からなかった。
気づけば、魔物たちは逃げ出していた。
瑞穂も若い男も、私へ顔を向けた。
私は深く頷いた。
「おい、若造!」
若い男は、私に身体を向けた。
「あの、お老体……」
「まあ、その話し方が好きなら、それでいい。……まあ、何だな。色々と説教をしたが、私はお前を認める!」
「えっ……」
若い男は間の抜けたような声を出した。
私は若い男に歩み寄った。
「お前は賢くはない。年から年中、こういう衣裳で女の子と遊んでいる。賢い人間のすることではない。だが、女の子を守ろうとした。それは立派だ」
私は、若い男の肩に手を置いた。
「まあ、何だな。今どきなのか、良く知らないが。コスプレが好きなら、それでもいい。ただ、親に迷惑をかけるな」
私は若い男に小さく微笑んだ。
少し気持ちが和らいだ。
――それはそうと。やっぱり分からない。
ここはどこですか?
おい、美代子! 私は家に帰りたい。
若者たちに説教しにここに来たわけじゃないぞ。
……いや、私は友人の竹本さんに会いに行ったはずだ。




