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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第7話 今日はちゃんと冒険者です

「それで、確認したいことって何ですか?」


 俺はギルドマスターの部屋へ入るなり聞いた。


 急いでいる。


 非常に急いでいる。


 今。


 下では。


 ロイドたちが待っている。


 今日こそ俺は冒険へ行くのだ。


「そんなに急いでどうした」


 ギルドマスターが怪訝そうな顔をする。


「依頼です」


「依頼?」


「冒険者の!」


「分かっている」


「ロイドたちと森へ行くんです」


「そうか」


 ギルドマスターが少し驚いた。


 なんで驚くんだよ。


「それで?」


「いや……お前もちゃんと依頼を受けるんだなと」


「俺を何だと思ってるんですか?」


「最近はここでしか見ないからな」


「まだ冒険者になって数日ですよ!」


 ミリアさんが笑いを堪えている。


「ミリアさん!」


「すみません」


「それで確認って?」


「あ、はい」


 ミリアさんが表情を戻した。


「先ほど新しくステータス画面を付与した職員についてです」


「メールも最初からありましたよね?」


「はい。問題なく使えています」


「じゃあ何が?」


「これです」


 ミリアさんが一枚の紙を差し出した。


 そこには簡単な質問が書かれている。


『《メール》は誰に送れるのか』


「……誰に?」


「はい」


「ステータス画面を持ってる人ですよね?」


「それは分かります」


「じゃあ……」


「例えば」


 ミリアさんが言う。


「私が王都の冒険者へメールを送りたい場合、どうすればいいのでしょう?」


「…………」


 あ。


「今は試験参加者同士なので、名前を知っています。ですが、同じ名前の人がいた場合は?」


「…………」


「それから、会ったことのない相手へ送る場合は?」


「…………」


「ユウトさん?」


「なるほど」


 考えてなかった。


 今まで人数が少なかった。


 ミリア。


 ロイド。


 エナ。


 バルク。


 ギルドマスター。


 知っている人ばかり。


 だから名前を選ぶだけで問題なかった。


 でも。


 利用者が増えれば。


「同じ名前……いるよな」


「当然いる」


 ギルドマスターが答える。


「冒険者だけでも珍しくない」


「ですよね」


 俺はステータス画面を開く。


「今直します?」


「いえ」


 ミリアさんが首を振った。


「え?」


「今日は確認だけです」


「…………」


「これから利用者を増やす前に考えておいた方がいいと思いまして」


「それだけ?」


「はい」


「本当に?」


「はい」


「帰ってきてからでいい?」


「もちろんです」


「よし!」


 俺は立ち上がった。


「じゃあ行ってきます!」


「ああ」


「気をつけて」


 扉へ向かう。


「ユウト」


 ギルドマスター。


「なんですか!?」


「ゴブリンの調査だったな」


「そうです!」


「北の森では昨日から痕跡が増えている。無理はするな」


「……はい」


 普通に冒険者への注意だった。


「それから」


「まだあるんですか!?」


「何かあればメールしろ」


「…………」


 俺は少し笑った。


「分かりました」


 ◇


「遅い!」


「ごめん!」


 ギルドの入口。


 ロイド。


 エナ。


 バルク。


 三人とも待っていてくれた。


「もう置いていこうかと思ったぞ」


「本当にごめん!」


「どうせまたステータス画面だろ?」


「そうだよ!」


「お前、本当に何してんだ?」


「俺にも分からん!」


 エナが笑った。


「ほら、早く行こうよ。これ以上遅くなると帰りが夕方になる」


「そうだな」


 ロイドが歩き出す。


 俺も続く。


 ギルドを出る。


 大通り。


 露店から焼いた肉の匂い。


 荷車を引く獣人。


 道端では、魔道具屋の主人が青く光る石を店先へ並べている。


 武器屋の前には、炎のような紋様が刻まれた剣。


 冒険者らしい一団とすれ違う。


 そして。


 北門。


「…………」


 門の向こうには街道が続いている。


 その先には草原。


 さらに遠く。


 深い森。


「やっとだ……」


「何が?」


 エナが聞く。


「街の外」


「この前ホーンラビット狩ったんだろ?」


「それから一度も出てない」


「え?」


「ずっとギルドにいた」


「……かわいそう」


「やめろ!」


 同情される方がつらい。


 門を抜ける。


 風が吹いた。


 街の匂いが遠ざかる。


 草。


 土。


 遠くから鳥の鳴き声。


 腰には短剣。


 隣には冒険者。


「これだよ」


「何が?」


「異世界……じゃなくて、冒険者!」


「今日のお前、変だぞ」


 ロイドが少し離れた。


「いつもだ」


 バルクが言った。


「バルク!?」


 ◇


 北の森へ到着したのは、それからしばらくしてからだった。


 木々が高い。


 街道から少し外れるだけで、一気に薄暗くなる。


「ここから気をつけろ」


 ロイドが剣を抜いた。


 空気が変わる。


 さっきまで冗談を言っていた顔じゃない。


 エナも弓を構える。


 バルクは大盾を前へ。


「昨日この辺りで痕跡が見つかった」


「ゴブリン?」


「ああ」


 俺も短剣を抜く。


 正直。


 少し怖い。


 ホーンラビットとは違う。


 ゴブリン。


 人型の魔物。


「ユウト」


「ん?」


「前に出るなよ」


「分かってる」


「お前Fランクだからな」


「分かってるって!」


 そこ強調しなくてもいいだろ。


 俺たちは森を進む。


 枝を踏む音。


 葉が擦れる音。


 時々、何か小さな生き物が茂みを走る。


 そのたびに俺は反応する。


「……今のは?」


「リス」


「…………」


「ユウト」


「何?」


「力抜け」


「分かってる」


 分かってるけど。


 実戦経験なんて、ほとんどないんだから仕方ない。


 しばらくして。


 先頭のロイドが手を上げた。


「止まれ」


 全員が止まる。


 ロイドがしゃがむ。


 地面。


「これだ」


 俺も覗く。


 土の上に、小さな足跡。


 一つじゃない。


 いくつもある。


「新しい?」


 エナが聞く。


「たぶんな」


 ロイドが周囲を見る。


「昨日より増えてる」


「追う?」


「いや」


 少し考えて。


「まず報告する」


 そう言ってロイドが剣を収めた。


 そして。


 何もない空中へ手を伸ばす。


「…………」


 俺はその姿を見た。


「何だよ?」


「いや」


 ロイドの指が動く。


 本人にしか見えないステータス画面。


 少しして。


「送った」


「誰に?」


「ギルド」


 直後。


 俺の画面も鳴った。


 ――ピコン♪


「ん?」


 ミリアさんから。


『ロイドさんから北の森で新しいゴブリンの痕跡を確認したと報告がありました。無理に追跡しないでください』


「早っ」


「来たか?」


「来た」


「便利だろ?」


 ロイドが笑った。


「……うん」


 なんだろう。


 変な感じだ。


 俺が作った機能なのに。


 ギルドの中で見ていた時とは違う。


 森の中。


 周囲に誰もいない。


 街は遠い。


 それなのに。


 さっきまで受付にいたミリアさんの言葉が届く。


「本当に使ってるんだな」


「何言ってんだ?」


「いや……」


 俺はステータス画面を閉じた。


 こういうために作った。


 分かっていた。


 でも。


 実際に冒険の途中で使われているのを見ると。


 少しだけ。


 嬉しい。


「行くぞ」


「うん」


 俺たちは調査を続けた。


 ◇


「いた」


 エナが小さく言った。


 俺たちは茂みの陰にいる。


 少し先。


 木の根元。


 三体。


 緑色の小さな人型。


 ぼろぼろの布を腰に巻き。


 一体は棍棒。


 一体は錆びた短剣。


 もう一体は何も持っていない。


「ゴブリン……」


 初めて見た。


「三体だけか?」


 ロイドが呟く。


「周囲にはいないと思う」


 エナが答える。


「どうする?」


「倒す」


 ロイドが剣を握る。


「痕跡だけの調査じゃ?」


「見つけた場合、少数なら討伐していい依頼だ」


「なるほど」


「ユウト」


「はい」


「下がってろ」


「え」


「初めてだろ?」


「でも俺も――」


「一体抜けたら頼む」


「…………分かった」


 悔しい。


 でも。


 正しい。


 俺はFランク。


 ロイドたちはDランク。


 経験が違う。


「行くぞ」


 ロイドが飛び出した。


「ギャッ!?」


 ゴブリンが振り向く。


 遅い。


 剣が一閃。


 一体目。


 同時に。


 ――ヒュッ!


 エナの矢。


 二体目の肩へ突き刺さる。


「ギィィッ!」


 残った一体が棍棒を振り上げる。


 バルク。


 大盾。


 ――ガンッ!


 棍棒が弾かれた。


「今だ!」


 ロイドの剣。


 終わった。


「…………」


 早い。


 ホーンラビット一匹に必死だった俺とは全然違う。


「すごいな」


「三体だぞ?」


 ロイドが剣についた血を払う。


「これくらい普通だ」


「それがすごいんだよ」


 俺は本気で言った。


 ロイドが少し照れたような顔をした。


「……そうか?」


「そうだよ」


「ユウト」


 エナが呼ぶ。


「何?」


「一体まだ生きてる」


「え?」


 矢が刺さったゴブリン。


 倒れている。


 でも。


 動いた。


「ギ……」


 起き上がろうとしている。


「ユウト」


 ロイドが俺を見る。


「やるか?」


「…………」


 俺は短剣を握った。


 怖い。


 ホーンラビットの時もそうだった。


 ゲームじゃない。


 生きている。


 でも。


 ゴブリンもこちらを見た。


 短剣へ手を伸ばそうとしている。


「……やる」


 俺は前へ出た。


 短剣。


 俺のスキル。


《付与》


「切れ味強化」


 ――ピコン♪


【短剣に《切れ味強化》を付与しますか?】


【はい/いいえ】


 これくらいなら。


 文字なんて入力しなくてもいい。


【はい】


 刃が淡く光る。


 俺は走った。


「ギィッ!」


 振り下ろされた短剣を避ける。


 怖い。


 でも。


 足は止めない。


「っ!」


 俺の短剣がゴブリンを斬った。


 倒れる。


 動かなくなった。


「…………」


 息を吐く。


「やるじゃねえか」


 ロイドが肩を叩いた。


「怖かった……」


「最初はそんなもんだ」


 エナが笑う。


「ちゃんと冒険者してるじゃん」


「……だろ?」


 その言葉。


 今日一番嬉しい。


 ◇


 その後。


 俺たちはさらに森を調べた。


 大きな群れは発見できなかった。


 ただ。


 足跡は確実に増えている。


 ロイドが場所を覚える。


 エナが周囲の木に目印をつける。


 俺も。


 少しずつ冒険者の仕事を覚える。


 途中。


 小さな沢で休憩した。


 石に腰掛ける。


 持ってきたパンを取り出す。


「やっとこれ食える……」


「なんだそのパン」


「今日、冒険の途中で食べようと思って持ってきた」


「そんなに楽しみだったの?」


 エナが笑う。


「悪いかよ」


「別に」


 バルクは大きな干し肉を食べている。


「……それ美味そう」


「食うか?」


「いいの?」


 干し肉を一切れもらう。


 硬い。


 塩辛い。


 でも。


「うまい」


「だろ」


 木々の間から光が落ちる。


 近くを水が流れている。


 剣と弓と盾が地面に置かれている。


 これだよ。


 俺が異世界へ来て想像してたの。


 ――ピコン♪


「…………」


 ロイドが笑った。


「仕事か?」


「やめてくれ」


 画面を見る。


 ミリアさん。


『調査状況はいかがですか?』


「普通の確認だった」


 返信。


『ゴブリン三体発見。一体倒しました』


 少し考える。


『俺も一体倒しました』


 送信。


「そこ必要?」


 エナが聞く。


「必要だよ!」


 しばらくして。


 ――ピコン♪


『おめでとうございます』


「…………」


「何?」


「なんでもない」


 ちょっと嬉しい。


 ◇


 夕方。


「戻ったぞー」


 ロイドがギルドの扉を開けた。


 中は依頼帰りの冒険者でいっぱいだった。


 魔物の素材。


 薬草。


 酒。


 笑い声。


 受付へ向かう。


「お帰りなさい」


 ミリアさん。


「ただいま」


「無事でしたね」


「はい」


「ゴブリンを倒したそうで」


「一体ですけど」


「立派なものです」


「ですよね!」


「ただ」


 来た。


 この言葉。


「何?」


「ギルドマスターがお呼びです」


「…………」


 ロイドが吹き出した。


「お前、本当に人気者だな」


「嬉しくない!」


「じゃあ俺たちは報告してくる」


「待って」


「何だ?」


「俺も報告する」


「先にギルドマスター行ってこい」


「俺も冒険者なんだから報告くらいさせろよ!」


 結局。


 先に依頼の報告をさせてもらった。


 ゴブリン三体。


 新しい痕跡。


 群れは未確認。


 そして。


 俺も一体討伐。


 受付職員が記録する。


「以上です」


「はい。お疲れさまでした」


「…………」


 俺は少し待つ。


「どうしました?」


「ランクは?」


「Fランクです」


「上がらない?」


「一回の依頼では上がりませんよ」


「ですよね」


 知ってた。


 知ってたけど。


 少しくらい期待してた。


 ◇


「で、今度は何です?」


 ギルドマスターの部屋。


 俺は椅子へ座った。


「まずは依頼、ご苦労だった」


「ありがとうございます」


「ゴブリンを倒したそうだな」


「一体だけですけど」


「そうか」


 ギルドマスターが頷く。


「それで本題だ」


「やっぱりそっちですよね」


 机の上。


 三通の封書が置かれていた。


 封蝋には、見覚えのない紋章。


「グレイスから連絡が来た」


「もう?」


「ああ」


 ギルドマスターが一通を開く。


「近隣三支部から、職員を一人ずつこちらへ送ることが決まった」


「三人?」


「まずはな」


「よかった……」


 二十人とか来るのかと思った。


「三人に《ステータス画面付与権限》を与える」


「はい」


「その三人が各支部へ戻り、それぞれ十名程度の冒険者へステータス画面を付与する」


「十名ずつ」


 三支部。


 三十人。


 今までより少し増える。


 でも。


 俺が三十人に一人ずつ付与するわけじゃない。


 職員三人だけ。


「これなら大丈夫です」


「そうか」


「いつ来るんです?」


「明後日だ」


「明日は?」


「特に予定はない」


「…………」


「どうした?」


「明日は依頼受けていいんですよね?」


「好きにしろ。お前は冒険者だ」


「やった!」


 思わず立ち上がった。


「そんなに嬉しいか?」


「嬉しいですよ!」


 俺は冒険者カードを取り出す。


【冒険者ランク:F】


 今日。


 ゴブリンを一体倒した。


 依頼も一つ終えた。


 まだFランク。


 それでいい。


 少なくとも今日は。


 ちゃんと冒険者だった。


 俺は部屋を出る。


 階段を下りる。


 ロイドたちはまだギルドにいた。


「終わったか?」


「終わった!」


「明日は?」


「空いてる!」


「じゃあ朝から――」


 ――ピコン♪


「…………」


 全員が俺を見る。


「何だよ」


「いや」


 ロイドが笑う。


「メールじゃないのか?」


「違う」


「確認しろよ」


「絶対違う」


 ステータス画面を開く。


 メール。


 ミリアさん。


『明後日、他支部の職員三名が来ます。よろしくお願いします』


「ほら! 明後日だ!」


「よかったな」


「明日は冒険できる!」


 俺は笑った。


 その横で。


 エナが何もない空中を操作している。


「何してるの?」


「明日の集合時間、メールしとこうと思って」


「今ここに全員いるじゃん」


「忘れるかもしれないでしょ」


「口で言えばいいだろ」


「便利なんだから使えばいいじゃん」


「…………」


 ――ピコン♪


 俺の画面。


『明日、北門。朝』


 エナから。


「目の前にいるだろ!」


 ロイドが笑う。


 バルクも画面を操作する。


 ――ピコン♪


『了解』


「お前まで!?」


 また一つ。


 ――ピコン♪


 ロイド。


『了解』


「だから喋れよ!」


 三人が笑った。


 俺も。


 結局笑った。


 たった数日前まで。


 この世界には存在しなかったもの。


 それがもう。


 冒険者たちにとって。


 少しずつ。


 当たり前のものになり始めていた。

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