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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第6話 ステータス画面の仕様を変更します

翌朝。


「昨日の件ですが」


「はい」


「やはり、このままでは困ります」


「ですよね」


 冒険者ギルド。


 ギルドマスターの部屋。


 俺の冒険者としての一日は、今日もここから始まった。


 目の前にはギルドマスター。


 ミリアさん。


 そして昨日、上部組織からやって来たグレイスさん。


 本当なら今頃。


 剣を腰に下げて。


 北門から街の外へ出て。


 ロイドたちと依頼へ向かっていたはずなのに。


 俺の目の前にあるのは剣ではない。


 書類だ。


「……俺、今日もここなんですね」


「話はすぐ終わります」


 グレイスさんが言った。


「昨日もそんな感じじゃなかったですか?」


「昨日よりは早く終わるでしょう」


 信用できない。


「それで、昨日の問題ですが」


 ミリアさんが話を戻す。


「私が他の人へ《ステータス画面》を付与できることは確認できました」


「はい」


「ですが、付与されるのは基本のステータス画面だけです」


「《メール》は付いてない」


「はい」


 昨日、実際に試した。


 俺がミリアさんへ、


《ステータス画面付与権限》


 を付与。


 ミリアさんが若いギルド職員へ《ステータス画面》を付与。


 そこまでは成功。


 でも、その画面には《メール》がなかった。


 結局。


 俺がその職員へ《メール》を追加した。


「これでは」


 グレイスさんが言う。


「各支部の職員がステータス画面を付与できるようになっても、《メール》を使うためにはユウトさんが必要になる」


「ですよね」


「三支部で六十人程度なら、まだ可能でしょう」


「まあ……」


「しかし十支部なら」


「言わなくていいです」


「百支部なら」


「だから言わなくていいですって!」


 人数を増やさないでくれ。


 怖くなるから。


「何か方法はありませんか?」


 ミリアさんが俺を見る。


「うーん……」


 俺は自分のステータス画面を開いた。


【名前:ユウト】


【冒険者ランク:F】


【スキル:《付与》】


【メール】


 メール。


 これは俺が最初に作った機能だ。


 そして今までは。


 必要な人へ一人ずつ付与してきた。


 ミリアさん。


 ギルドマスター。


 ロイドたち。


 試験に参加した冒険者。


 グレイスさん。


 でも。


「そもそも……」


「何か思いつきましたか?」


「俺が一人ずつ《メール》を付与する必要ってあるのかな」


 三人が俺を見る。


「どういう意味です?」


「今までは、人に《メール》を付与してたんですよ」


 俺は自分の画面を指差す。


 もちろん三人には見えないけど。


「でも、そうじゃなくて」


 ステータス画面。


 そのものに。


「最初から《メール》が入ってればいいんじゃないですか?」


 少し沈黙。


「つまり」


 グレイスさんが言う。


「今後ステータス画面を付与された者は、最初から《メール》を使えるようにする?」


「そうです」


「できますか?」


「……分かりません」


 いつもの答えになってきた。


 でも。


 できる気はする。


 俺のスキルは《付与》。


 今までも、必要なものを付与してきた。


 なら。


「ステータス画面の仕様そのものを変える……」


 俺は呟いた。


 その瞬間。


 ステータス画面が反応した。


 ――ピコン♪


【《ステータス画面》の仕様を変更しますか?】


「出た」


「何がです?」


「仕様を変更するかって」


 やっぱりできる。


「じゃあ……」


 俺は【はい】へ手を伸ばして。


 止めた。


「どうしました?」


「いや……」


 これ。


 何をどう変えるんだ?


 ただ、


『メールを使えるようにする』


 だけでも伝わるかもしれない。


 今までの《付与》なら、それでもできた。


 剣へ切れ味を付与する。


 人へステータス画面を付与する。


 メールを付与する。


 やりたいことを口にすれば。


 ステータス画面が確認してくれた。


 でも今回は。


 これから配られるステータス画面全部に関係する。


「ちゃんと決めた方がいいよな……」


 俺はステータス画面を眺める。


 何か。


 もっと細かく指定できれば――。


「あ」


 俺は《メール》を開いた。


「ユウトさん?」


「ちょっと待ってください」


 メールを書く時。


 俺はいつもステータス画面へ文字を入力している。


 だったら。


 これ。


《付与》でもできないのか?


 俺は《付与》へ戻る。


 じっと見る。


「……入力」


 呟きながら、文字を入れるつもりで画面へ触れた。


 ――ピコン♪


【付与内容を入力してください】


「…………」


「どうしました?」


「出ました」


「何が?」


「文字を入力するところ」


「今までなかったんですか?」


「気づいてませんでした」


「…………」


 ミリアさんが微妙な顔をした。


「なんですか」


「いえ」


「なんですか、その顔」


「ユウトさんらしいなと」


 どういう意味だ。


 でも。


 これなら。


 俺は文章を入力してみる。


『今後、新しく《ステータス画面》を付与された者は、基本機能として《メール》を使用できるようにする』


 入力を終える。


 ――ピコン♪


【付与内容を確認しました】


【《ステータス画面》の基本仕様を変更します】


【今後付与される《ステータス画面》に《メール》を基本機能として追加します】


【承認しますか?】


【はい/いいえ】


「……なるほど」


 口で言った時と同じだ。


 最後に確認が出る。


 違うのは。


 俺が何をしたいのか、文章で細かく指定できること。


「どうなりました?」


「俺が書いた内容を確認してくれてます」


「間違いは?」


 グレイスさんに聞かれる。


 俺はもう一度読む。


 今後。


 新しくステータス画面を付与された人。


 基本機能としてメールを使える。


「大丈夫だと思います」


「では」


「はい」


 俺は【はい】を押した。


 ――ピコン♪


【《ステータス画面》の基本仕様を変更しました】


【基本機能:《メール》】


「…………」


 終わった?


 俺は少し待った。


 何も起きない。


 ギルドマスターを見る。


「何か来ました?」


「いや」


「ミリアさんは?」


「何も」


「グレイスさん」


「ありません」


 全員、すでに《メール》を持っている。


 だから何も変わらない。


「……成功したのかな」


「試せば分かります」


 ギルドマスターが立ち上がる。


 また誰か呼ぶ気だ。


 ◇


「また俺ですか?」


 昨日の若いギルド職員が部屋へやって来た。


「いや、お前はもう持ってるだろ」


「では、なぜ呼ばれたんでしょうか」


「別の奴を呼んでこい」


「それだけですか!?」


 かわいそうに。


 数分後。


 今度は女性職員が連れてこられた。


 受付ではなく、魔物素材の管理を担当している人らしい。


「話は聞いています」


 女性職員が言った。


「ステータス画面というものですよね?」


「はい」


 ミリアさんが前へ出る。


「私から付与します。よろしいですか?」


「お願いします」


 ミリアさんが自分のステータス画面を操作する。


「では」


《ステータス画面付与》


 女性職員の目の前。


 何かが現れたらしい。


「あ……」


「承認するか聞かれていると思います」


「はい」


 女性職員が空中へ触れる。


 ――ピコン♪


「出ました!」


 俺はすぐ聞く。


「《メール》は!?」


「え?」


「画面に《メール》ってありませんか?」


「ちょっと待ってください」


 女性職員が画面を見る。


「名前と……職業と……」


 俺たちは黙って待つ。


「あ」


「ありました?」


「《メール》があります」


「よし!」


 思わず拳を握った。


 成功。


 俺が付与していない。


 ミリアさんが《ステータス画面》を付与しただけ。


 それなのに。


 最初から《メール》が入っている。


「使えるか確認しましょう」


 ミリアさんが説明する。


「私へ何か送ってください」


「分かりました」


 女性職員が慣れない手つきで操作する。


 しばらくして。


 ――ピコン♪


 ミリアさんの画面。


『これで届いていますか?』


「届いています」


「おお……」


 ギルドマスターが頷く。


 グレイスさんも満足そうだ。


「これなら」


 グレイスさんが言う。


「各支部の職員は《ステータス画面》を付与するだけでいい」


「そうなりますね」


「《メール》のためにユウトさんが同行する必要もない」


「はい!」


 そこ大事!


「では三支部での試験を進められます」


「よかった……」


 これで解放される。


「ユウトさん」


 ミリアさんが俺を見る。


「はい?」


「これから新しい機能が増えた場合も、同じことができるんでしょうか?」


「…………」


 俺は固まった。


 新しい機能。


 今は《メール》だけ。


 でも。


 もし次に何か作ったら?


 また基本仕様へ追加できる?


「たぶん……」


 俺は自分のステータス画面を見る。


【基本情報】


【メール】


 その上には。


【付与】


 俺にしかない項目。


「できると思います」


「そうですか」


 ミリアさんは普通に頷いた。


 でも俺は。


 なんとなく、とんでもないことに気づいた気がした。


 ステータス画面を持つ人が百人になっても。


 千人になっても。


 もっと増えても。


 俺が一人ずつ新しい機能を付与する必要はない。


 ステータス画面そのものを変えればいい。


 そして新しく付与される画面には。


 最初からその機能が入る。


「……これ」


「どうしました?」


「いや」


 まだ考えないでおこう。


 今は二十人ちょっとだ。


 世界中とか。


 そんな話じゃない。


 たぶん。


 ◇


 昼前。


 グレイスさんが上部組織へ戻ることになった。


 ギルドの前には一台の馬車が停まっている。


 二頭の馬。


 荷台には旅の荷物。


 護衛らしい冒険者が三人。


 剣士と弓使い。


 それから杖を持った魔法使い。


 こういう光景を見ると。


 やっぱり俺も旅したくなる。


「数日中に連絡します」


 グレイスさんが言った。


「近隣三支部から職員を集めます。まず彼らに《ステータス画面》と《ステータス画面付与権限》を」


「分かりました」


「その後、各支部で小規模な試験を行います」


「はい」


「いきなり百支部には増やしません」


「それ昨日俺が言ったやつですよね?」


「安心していただこうかと」


「逆に不安になりました」


 グレイスさんが少し笑う。


「では、また」


 馬車へ乗り込む。


 御者が手綱を握った。


 車輪が回り始める。


 石畳を進み。


 馬車は大通りへ消えていった。


「…………」


 一段落。


 したよな?


「ミリアさん」


「はい?」


「今から依頼受けてもいいですか?」


 ミリアさんが空を見る。


「まだ昼前ですね」


「ですよね!」


「近場なら大丈夫だと思います」


「よし!」


 やっと!


 俺はギルドへ駆け戻った。


 依頼掲示板へ向かう。


 久しぶりだ。


 薬草採取。


 ホーンラビット。


 街道周辺の魔物調査。


 どれにしよう。


「ユウト!」


 聞き覚えのある声。


 振り返る。


「ロイド!」


 ロイド。


 エナ。


 バルク。


 三人とも今日はまだギルドにいた。


「珍しいな」


 ロイドが笑う。


「何が?」


「お前が依頼掲示板の前にいる」


「俺を何だと思ってるんだよ!」


「ステータス画面の人」


「冒険者だよ!」


「Fランクの?」


「そうだよ!」


 自分で言って悲しくなった。


「ちょうどいい」


 ロイドが一枚の依頼書を見せる。


「午後から近くの森へ行くんだ。来るか?」


「行く!」


 即答。


「内容聞かなくていいのか?」


「行く!」


「ゴブリンの調査だぞ」


「行く!」


「今日のお前、怖いな」


 何でもいい。


 剣を振りたい。


 街の外へ出たい。


 冒険者らしいことがしたい!


「じゃあ準備して――」


 ――ピコン♪


「…………」


 俺は動きを止めた。


「どうした?」


「メール」


「誰から?」


 画面を開く。


 差出人。


 ミリア。


『ユウトさん』


 嫌な予感。


『先ほど仕様変更した件について、一つ確認したいことがあります』


「…………」


 ロイドが俺の顔を見る。


「行けそうか?」


「…………」


「ユウト?」


 俺は返信する。


『どれくらいかかります?』


 ――ピコン♪


『すぐ終わると思います』


「…………」


 昨日も聞いた。


 その言葉。


「ロイド」


「なんだ?」


「ちょっとだけ待ってて」


「おう」


「絶対戻ってくるから」


「分かった」


「置いていくなよ?」


「分かったって」


 俺は受付へ向かった。


 十歩。


 そこで振り返る。


「本当に待っててくれよ!?」


「早く行け!」


 エナが笑っている。


 バルクは黙って親指を立てた。


 俺は走った。


 今日こそ。


 今日こそ俺は。


 冒険者として街の外へ行くんだ。


 ――ピコン♪


 もう一通。


『ギルドマスターも同席するそうです』


「…………」


 走る速度が少し落ちた。


 俺は腰の冒険者カードを確認する。


【冒険者ランク:F】


「……今日こそ上げるからな」


 誰に言うでもなく呟いて。


 俺はまた。


 ギルドマスターの部屋へ向かった

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