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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第5話 俺以外でも付与できる?

翌朝。


 俺は冒険者ギルドの前で、しばらく立ち尽くしていた。


 右手には冒険者カード。


 腰には短剣。


 革の鞄には水と、昼に食べるつもりだったパン。


 完璧だ。


 今日こそ冒険者らしい。


「…………」


 北門へ行きたい。


 昨日、ロイドから誘われたのだ。


『明日暇か?』


『たぶん暇です』


『じゃあ朝、北門集合な』


 そこまではよかった。


 その直後。


『ギルドマスターから伝言です。明日の朝、上部組織から使者が到着するそうです』


 ミリアさんからそんなメールが届いた。


 結果。


「……入るか」


 俺は冒険者ギルドの扉を開けた。


 朝のギルドは今日も騒がしい。


「南の森の護衛、あと一人だ!」


「回復役いないのか!?」


「昨日のゴブリン調査、報酬上がってるぞ!」


「おい、誰か東門まで行く奴――」


 剣。


 鎧。


 杖。


 弓。


 魔物の素材。


 壁一面の依頼書。


 冒険者たちが今日の仕事を探している。


 俺はそれを横目に受付へ向かった。


「おはようございます、ユウトさん」


「おはようございます」


 ミリアさんはいつものように受付の中にいる。


「使者ってもう来てます?」


「まだです。昼前になるそうです」


「…………」


「どうしました?」


「だったら午前中だけでも依頼に――」


「ダメです」


「最後まで言わせてくださいよ!」


「途中で戻ってこられないでしょう?」


「薬草採取くらいなら」


「ダメです」


「ホーンラビット一匹くらいなら」


「ダメです」


「俺、冒険者ですよね?」


「はい」


「Fランクですよね?」


「はい」


「Fランクから上がるには依頼を――」


 ――ピコン♪


 俺のステータス画面にメールが届いた。


 差出人。


 ロイド。


『来ないのか?』


「…………」


 俺は返信する。


『仕事が入った』


 すぐ返ってきた。


『冒険者の仕事?』


『違う』


『じゃあ何の仕事だよ』


 俺はしばらく考えた。


『分からない』


 送信。


「何してるんですか?」


「なんでもないです」


 ――ピコン♪


『お前、本当に冒険者か?』


 俺はステータス画面を閉じた。


 見なかったことにした。


 ◇


「なるほど……」


 昼前。


 ギルドマスターの部屋には、俺とミリアさん。


 ギルドマスター。


 そして見知らぬ男が一人いた。


 年齢は五十歳くらいだろうか。


 灰色の髪を後ろへ撫でつけ、濃紺の外套を着ている。


 腰には細身の剣。


 でも冒険者には見えない。


 どちらかというと、役人みたいな雰囲気だ。


「これが《ステータス画面》ですか」


 男――グレイスさんが、自分の目の前を見つめている。


 さっき俺が付与した。


 上部組織から派遣されてきた人らしい。


「はい」


「他人には見えない」


「そうみたいです」


「本人だけが操作できる?」


「今のところは」


「消すことも?」


「できます」


 グレイスさんが画面を閉じる。


「……出ろ」


 再び現れたらしい。


「面白い」


 口調は落ち着いているけれど、さっきから何度も出したり消したりしている。


 絶対楽しんでる。


「では次に《メール》を」


 俺は自分のステータス画面を開いた。


 ここ数日で、少しだけ分かってきたことがある。


 俺の《付与》。


 どうやら、ただ頭の中で「こんなの欲しい」と思うだけで、何でも勝手に完成するわけじゃない。


 何をしたいのか。


 どういうものが必要なのか。


 それを俺自身が理解して、言葉にする必要がある。


 ステータス画面の中。


 俺にしか表示されない項目を開く。


【付与】


 その下に文章を入力する場所がある。


 昨日までに作った《メール》は、すでに機能として存在している。


 だから今回は新しく作る必要はない。


 グレイスさんへ、その機能を付与するだけだ。


『グレイスに《メール》を付与する』


 入力。


【付与】


 グレイスさんの前に何かが現れたらしい。


「《付与を承認しますか?》……」


「はい。グレイスさんが承認しない限り、俺から勝手には付与できません」


「なるほど」


 グレイスさんが触れる。


 ――ピコン♪


「追加された」


「では、試してみてください」


 ミリアさんが言う。


「私へ送っていただけますか?」


「どうやって?」


「《メール》を開いて――」


 ミリアさんが説明する。


 しばらくして。


 ――ピコン♪


「あ、来ました」


 ミリアさんが自分の画面を見る。


『届いていますか』


「届いています」


 返信。


 ――ピコン♪


 グレイスさんが初めて笑った。


「……これは確かに便利だ」


「昨日、二十人の冒険者で試しました」


 ギルドマスターが机の上の書類を差し出す。


「街道で壊れた馬車。ゴブリンの痕跡。それから怪我をした旅人。どれもその場から報告が届いた」


 グレイスさんが書類を読む。


「これまでなら帰還後の報告ですね」


「ああ」


「早くても数時間。場所によっては翌日」


「そうだ」


「それが発見した直後に届く……」


 グレイスさんが自分のステータス画面を見る。


 しばらく沈黙したあと。


「他の支部でも試したい」


 やっぱり。


 そうなるよな。


「まず近隣の三支部」


 グレイスさんが続ける。


「それぞれ二十名ほどの冒険者を選び、同じ試験を行う。結果を比較したい」


「六十人……」


 俺は呟いた。


「問題があります」


 ギルドマスターが言った。


「ユウトだ」


「俺?」


「今のところ、ステータス画面を付与できるのはこいつだけです」


「…………」


 グレイスさんが俺を見る。


「一日に何人まで可能です?」


「分かりません」


「魔力切れは?」


「今のところありません」


「なら――」


「でも」


 俺は言った。


「俺が一人ずつ街を回るんですか?」


「…………」


「三支部で六十人ですよね?」


「そうですね」


「その次に十支部になったら?」


「二百人」


「百支部なら?」


「二千人ですね」


「無理ですよね?」


「無理ですね」


 あっさり認められた。


「俺、一応冒険者なんですよ」


「Fランクだそうですね」


「なんで知ってるんですか!?」


「報告書に書いてありました」


 そこ必要!?


 もっと他に書くことあっただろ!


「ですから」


 ミリアさんが話を戻す。


「昨日から、その問題について考えていたんです」


「何か案が?」


 グレイスさんが尋ねる。


 ミリアさんは俺を見る。


「ユウトさん」


「はい」


「《ステータス画面》そのものを他の人が付与できるようにはできませんか?」


「他の人が?」


「はい」


 俺は考える。


 今まで俺がやってきたこと。


 自分のステータス画面に《メール》を付与した。


 ミリアさんたちにステータス画面を付与した。


 さらに《メール》を付与した。


 だったら。


「付与する能力を……付与する?」


 口にしてから、ものすごく変なことを言っている気がした。


「できますか?」


「分かりません」


 でも。


 試してみる価値はある。


 俺はステータス画面を開いた。


【付与】


 文章入力欄。


 ここへ書く。


『俺以外の人でも、他人へステータス画面を付与できるようにする』


 そこで手が止まった。


「……いや」


「どうしました?」


「これじゃ広すぎる」


 ミリアさんを見る。


「もしミリアさんに俺と同じことが全部できるようになったら?」


「全部?」


「《メール》みたいな機能まで作れたり、誰かに別のものを付与したり」


「それは……」


 ミリアさんも少し困った顔になる。


 俺自身ですら、この能力がどこまでできるのか分かっていない。


 それを丸ごと他人へ渡す。


 なんとなく。


 それは違う気がした。


「必要なのは、ステータス画面を配れることだけですよね?」


 俺が言う。


「そうです」


「だったら、それだけにしよう」


 文章を消す。


 改めて書く。


『指定したギルド職員が、本人の承認を得た場合に限り、その人へ基本の《ステータス画面》だけを付与できるようにする。他の機能の追加や変更はできない』


 読み直す。


 これなら。


「……やってみます」


【付与】


 触れる。


 ――ピコン♪


 表示が変わった。


【新しい付与内容を確認しました】


【《ステータス画面付与権限》】


【指定した対象者へ付与できます】


「できた……?」


 俺はミリアさんを見る。


「ミリアさん」


「はい」


「実験してもいいですか?」


「私ですか?」


「ギルド職員ですし」


 ミリアさんは少し緊張した表情になった。


「……お願いします」


 俺は入力する。


『ミリアに《ステータス画面付与権限》を付与する』


【付与】


 ミリアさんの前に何かが現れる。


「出ました」


「何て?」


「《ステータス画面付与権限を受け取りますか?》」


「やっぱり承認が必要なんだ」


「承認します」


 ミリアさんが触れる。


 ――ピコン♪


 少し待つ。


「どうです?」


「追加されています」


「本当に?」


「はい」


 ミリアさんが画面を操作する。


「《ステータス画面付与》……という項目があります」


 ギルドマスターが立ち上がった。


「試そう」


「誰で?」


 全員が黙る。


 俺はもう持っている。


 ミリアさんも持っている。


 ギルドマスターも。


 グレイスさんも。


「誰か呼ぶか」


 ギルドマスターが扉を開ける。


「おい!」


 数秒後。


 一人の若い職員が入ってきた。


「お呼びでしょうか!」


「ステータス画面は?」


「持っておりません」


「ちょうどいい」


「何がでしょうか?」


 かわいそうに。


 何も知らずに呼ばれた。


「嫌なら断っていいからな」


「何をですか!?」


 ミリアさんが苦笑する。


「すみません。少し実験に付き合っていただけますか?」


「ミリアさんが言うなら……」


「では」


 ミリアさんが若い職員へ向く。


 何もない空間を操作する。


「《ステータス画面》を付与します」


「え?」


 数秒。


「うわっ!?」


 若い職員が飛び退いた。


 全員が黙った。


「出た?」


 俺が聞く。


「な、なんですかこれ!?」


「出た!」


 思わず声が出た。


 本当にできた。


 俺じゃない。


 ミリアさんが。


 他人へステータス画面を付与した。


「成功だな」


 ギルドマスターが笑う。


「これならユウトが各地を回る必要はない」


「よかった……!」


 心の底から安心した。


 これで世界中を歩いて一人ずつ付与する仕事から解放された。


 ……まだそんな仕事を頼まれてもいないけど。


「では《メール》もお願いします」


 グレイスさんが言った。


「はい?」


「ミリアさんから、その職員へ《メール》を」


「あ」


 なるほど。


 確かめないとな。


「ミリアさん、できます?」


「やってみます」


 ミリアさんが画面を見る。


「…………」


 少し操作。


「…………?」


「どうしました?」


「ありません」


「何が?」


「《メール》を付与する項目が」


「え?」


 俺は立ち上がる。


「ステータス画面を付与するところしかありません」


「他の機能は?」


「ありません」


 俺は自分の画面を見る。


 そして、さっき入力した文章を思い出す。


『基本の《ステータス画面》だけを付与できるようにする。他の機能の追加や変更はできない』


「……あ」


「どうしました?」


「俺がそうしたんだ」


 ちゃんと指定した通りになっている。


 ミリアさんができるのは。


 基本のステータス画面を、本人の承認を得て付与すること。


 それだけ。


「じゃあ《メール》は?」


 若い職員が聞く。


「俺が付与します」


 俺はその職員へ《メール》を付与する。


 ――ピコン♪


 追加された。


「なるほど」


 グレイスさんが頷いた。


「画面を渡す者と、中身を作る者は別ということですか」


「そんな感じですね」


「それなら都合がいい」


「都合が?」


「各支部の職員が勝手に機能を追加できるとなれば、街ごとに違うものが出来上がるかもしれません」


「ああ……」


 確かに。


 ある街ではこんな機能。


 別の街では違う機能。


 さらに別の街では勝手に変な機能。


 想像しただけで面倒くさい。


「基本の画面を渡すことだけは各地の職員に任せる」


 グレイスさんが言う。


「だが、新しい機能を作るのはユウトさんだけ」


「…………」


「その方が管理しやすい」


「…………そうですね」


 なんだろう。


 すごく嫌な予感がする。


「では」


 グレイスさんが書類を取り出した。


「近隣三支部から職員を集めましょう」


「はい?」


「ユウトさんが、その職員たちへ《ステータス画面付与権限》を与える」


「え?」


「職員たちは各支部へ戻り、冒険者へ基本画面を付与する」


「…………」


「まずは試験です」


「なるほど」


 確かに合理的だ。


 俺が各街を回る必要がない。


「それならいいか」


「そして試験結果が良ければ、さらに支部を増やします」


「はい」


「その後は各地方から職員を集めて――」


「ちょっと待って」


 話が大きくなってない?


「まだ三支部ですよね?」


「まずは、です」


「まずは?」


「まずは」


 グレイスさんが微笑んだ。


 この人。


 絶対その先まで考えてる。


 ◇


 話し合いが終わったのは、昼をかなり過ぎてからだった。


「疲れた……」


 俺はギルドの食堂でパンをかじっていた。


 朝、自分で持ってきたパンだ。


 本当なら森か街道で食べるつもりだった。


 冒険の途中。


 木陰に座って。


 剣を横へ置いて。


 仲間と話しながら。


 そんな感じを想像していた。


 現実。


 冒険者ギルドの食堂。


 目の前には書類。


「…………」


 パンをかじる。


 ――ピコン♪


 メール。


 ロイド。


『ホーンラビット六体狩ったぞ』


「…………」


 写真でも送ってこい。


 いや。


 写真なんてないけど。


『そっちは?』


 俺は返信する。


『ギルドにいる』


 ピコン♪


『まだ?』


『まだ』


 ピコン♪


『何してるんだ?』


 俺は考える。


『他の人がステータス画面を付与できるようにしてた』


 少し間が空いた。


 ピコン♪


『何言ってるか分からん』


「俺もだよ」


 思わず声に出した。


「ユウトさん?」


 向かいで食事をしていたミリアさんが顔を上げる。


「なんでもないです」


「それより、午後からもう一度確認したいことがあります」


「まだあるんですか?」


「付与した職員が、どれくらい離れた場所でもステータス画面を付与できるのか」


「……なるほど」


「それから、一日に何人くらい付与しても問題ないのか」


「なるほど……」


「あと、付与を拒否した人へ再度――」


「ミリアさん」


「はい?」


「俺、今日冒険者の仕事できます?」


「…………」


 ミリアさんは少し考えた。


「明日なら」


「昨日も聞いた!」


 近くの冒険者たちが笑った。


 ◇


 夕方。


 今日の確認作業も終わった。


 ミリアさんが付与したステータス画面に問題はない。


 若い職員は午後から普通に仕事をしていた。


 時々ステータス画面を出して遊んでいたけど。


 そして俺たちは、一つの形を決めた。


 《ステータス画面》そのものは、俺が認めたギルド職員なら他人へ付与できる。


 ただし本人の承認が必要。


 職員ができるのは、それだけ。


 新しい機能を作る。


 機能を変える。


 何かを追加する。


 それは俺の《付与》でしかできない。


「これなら広げられるな」


 ギルドマスターが満足そうに言った。


「まだ三支部ですけどね」


「分かっている」


「いきなり百支部とかやめてくださいよ?」


「分かっている」


「本当に?」


「もちろんだ」


 信用できない。


 グレイスさんは明日の朝、戻るらしい。


 そして近隣支部から職員を集める準備をする。


 数日後。


 小規模な説明会を開く。


 そこで俺が職員たちへ権限を付与する。


 それから三支部で試験。


 順番に。


 少しずつ。


 そういう話になった。


「じゃあ、今日は帰ります」


「ああ」


 ギルドマスターの部屋を出る。


 階段を下りる。


 受付前を通る。


 朝とは違い、依頼を終えた冒険者たちでギルドは賑わっていた。


 大きな猪型の魔物を運び込んでいるパーティ。


 泥だらけで笑っている剣士。


 薬草の束を数えている受付職員。


 魔法使いが仲間に今日の戦いを大げさに語っている。


「炎がこう! ドーン! って!」


「お前の魔法、木に当たっただけだろ」


「結果的にゴブリンが驚いただろ!」


 笑い声。


 俺は少し立ち止まった。


 いいなあ。


 楽しそうだ。


「明日こそ……」


 依頼を受けよう。


 そう決めた。


 ギルドの扉へ向かう。


 その途中。


「あ、ユウトさん」


 受付からミリアさん。


「はい?」


「明日なんですが」


 嫌な予感。


「何です?」


「グレイスさんから、出発前にもう一度お話があるそうです」


「…………何時?」


「朝一番で」


「…………」


 俺は冒険者カードを取り出した。


【名前:ユウト】


【冒険者ランク:F】


【スキル:《付与》】


 異世界へ来た。


 冒険者になった。


 剣も買った。


 魔物も一匹倒した。


 なのに。


「……俺、いつ冒険に行けるんだろう」


 ――ピコン♪


 メール。


 ロイド。


『明日こそ来るか?』


 俺はしばらく画面を見つめた。


 そして返信する。


『たぶん』


 送信。


 数秒後。


 ――ピコン♪


『その言葉、もう信用しない』


「…………」


 俺だって信用してないよ。


 こうして。


 Fランク冒険者ユウトの《付与》は。


 本人より先に、別の街へ冒険しようとしていた。

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