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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第39話 焚き火を囲んで

 旅先で迎える夜は、王都の夜とは少し違う。


 街灯もなければ、宿屋の明かりもない。


 日が沈めば辺りは暗くなり、聞こえてくるのは風の音と、どこかで鳴いている鳥の声くらいだ。


 そんな場所で、僕たちは今夜を過ごすことになった。


「ユウト! そっちの荷物を下ろしてくれ!」


「はーい!」


 ロイドに呼ばれ、僕は馬車の荷台へ手を伸ばした。


 ベルクへ向かう旅の二日目。


 僕たちは予定どおり、森の手前までやってきた。


 明日はこの森を抜けて、商業都市ベルクを目指す。


 その前に、今夜は野営だ。


 僕は少しわくわくしていた。


 焚き火を囲んで夕食を食べ、星空の下で眠る。


 冒険者らしいじゃないか。


「……ユウト」


「ん?」


「何をにやにやしてるんだ?」


 ロイドが不思議そうに僕を見た。


「いや、野営っていいなと思って」


「まだ何も始まってないぞ」


「そうだけど!」


「なら、まず働け」


「はい!」


 僕は慌てて荷物を下ろした。


     ◇


 野営地に選んだのは、街道から少し離れた平らな場所だった。


 背後には木々が並び、少し下ったところを細い小川が流れている。


 地面は昨日の雨の影響が残っているものの、草の少ない場所は乾いていた。


 馬車を停めるには十分な広さがある。


「まずは馬だな」


 ロイドが手綱をバルクに渡した。


「任せろ」


 バルクは馬をゆっくり歩かせ、脚の状態を確かめている。


 僕はその様子を眺めた。


「馬って、野営のときはどうするの?」


「まず水と餌だ。それから脚や蹄を確認する」


 バルクが答える。


「一日中、馬車を引いてくれたからな」


「なるほど」


「人間だけ休めばいいってもんじゃない」


 そう言って、バルクは馬の首を軽く撫でた。


 馬は気持ちよさそうに鼻を鳴らす。


「ユウト、そこの桶を持ってきてくれ」


「うん!」


 僕は荷物から桶を取り出した。


 バルクと一緒に水を汲み、馬に飲ませる。


 それから持参した飼い葉を用意した。


「よし、いい子だ」


 バルクが馬に声をかける。


「バルクって馬の扱いにも慣れてるんだね」


「冒険者を長くやってりゃ、こういう仕事も覚えるさ」


「そっか」


「馬車の護衛をするなら、馬の状態も見られないとな」


 僕はうなずいた。


 剣を振ったり、魔物と戦ったりするだけが冒険者の仕事じゃない。


 旅を続けるためには、覚えなければいけないことが山ほどある。


 そんな当たり前のことを、僕は改めて実感していた。


     ◇


 馬の世話が終わると、今度は野営の準備だ。


「エナとユウトは薪を集めてくれ。あまり遠くへ行くなよ」


 ロイドが言った。


「分かった!」


「バルクは俺と寝床の準備だ」


「おう」


 僕はエナと一緒に木々の方へ歩き始めた。


 森の奥へ入るわけではない。


 野営地が見える範囲で、地面に落ちた枝を拾っていく。


「このくらいの太さでいい?」


「いいわよ。でも、湿ってないものを選んでね」


「昨日、雨が降ったもんね」


「そう。濡れてると火がつきにくいから」


 僕は枝を一本拾った。


 表面は乾いている。


 折ってみると、ぱきっと軽い音がした。


「これは?」


「うん、それなら大丈夫」


「よし!」


 次々と枝を集めていく。


 細い枝。


 少し太い枝。


 火を起こすための小さな枯れ木。


 気がつくと、両腕いっぱいになっていた。


「……結構集めたね」


「そうね。そろそろ戻りましょうか」


 エナが笑う。


 僕たちは野営地へ引き返した。


 ロイドとバルクは、すでに寝床の準備を進めていた。


 地面の状態を確かめ、荷物を置く場所を決め、簡単な雨除けも張っている。


「おお、もうこんなに!」


「お前らが枝を拾ってる間にな」


 ロイドが答えた。


「薪は?」


「いっぱい!」


「よし。じゃあ、火を起こすぞ」


 僕は集めた枝を地面に置いた。


 ロイドが石を並べ、焚き火の場所を作る。


 枯れ草と細い枝を組み、その上に少し太い枝を重ねた。


「火口はあるか?」


「あるよ!」


 僕は昨日、王都で買っておいた道具を取り出した。


「ちゃんと持ってきたな」


「もちろん!」


「じゃあ、やってみろ」


「えっ、僕が?」


「せっかくだ。覚えておけ」


 僕はロイドに教わりながら火を起こした。


 最初はなかなかうまくいかなかった。


 小さな火がついても、すぐに消えてしまう。


「……難しい」


「焦るな。火が育つまでは細い枝を使え」


「うん」


 もう一度。


 今度は小さな炎が枯れ草を舐め、細い枝へと移った。


 ぱちっ。


 乾いた音がした。


「あっ!」


 炎が少しずつ大きくなる。


「ついた!」


「よし、上出来だ」


 ロイドが笑った。


 僕は思わず両手を上げた。


「やった!」


「まだ薪を足す仕事が残ってるぞ」


「分かってるって!」


 エナがくすくす笑っている。


 バルクは鍋を取り出しながら言った。


「今日はユウトが起こした火で夕食だな」


「なんか嬉しいね、それ!」


     ◇


 日が沈み始めるころ、焚き火の上には大きな鍋がかかっていた。


 今日の夕食は、干し肉と野菜の煮込みだ。


 持ってきた芋や根菜を切り、干し肉と一緒に煮込む。


 味つけは塩と乾燥させた香草。


 特別な料理ではない。


 でも、鍋から立ち上る湯気を見ているだけで、お腹が空いてくる。


「いい匂い……」


 僕は鍋を覗き込んだ。


「まだだぞ」


 ロイドが言った。


「分かってるよ」


「さっきから三回目だ」


「そんなに見た?」


「見た」


 エナが笑う。


「ユウト、もう少し待ちなさい」


「はーい」


 僕は焚き火の前に座った。


 ぱちぱちと薪が燃える。


 火の粉がふわりと舞い、夕暮れの空へ消えていった。


 木々の向こうでは、鳥が鳴いている。


 少し冷たくなってきた風が頬を撫でた。


「……いいね」


「何が?」


 エナが尋ねる。


「こういう時間」


 僕は焚き火を見つめた。


「王都だと、夜になっても人がいっぱいいるし、明かりもあるでしょ?」


「そうね」


「でも、ここは火の明かりだけなんだなって」


 ロイドが鍋をかき混ぜながら言った。


「だから野営は油断できないんだぞ」


「分かってるよ」


「森の近くだからな。夜は交代で見張る」


「うん」


「……本当に分かってるか?」


「もう! 分かってるって!」


 三人が笑った。


 僕もつられて笑う。


 こうしていると、なんだか家族みたいだ。


     ◇


「よし、できたぞ」


 ロイドの声に、僕は顔を上げた。


「待ってました!」


「器を出せ」


「はい!」


 木の器に、熱々の煮込みがよそわれていく。


 芋は柔らかくなり、干し肉からは旨味が出ている。


 湯気と一緒に香草の香りが立ち上った。


「いただきます!」


 僕は匙で芋をすくい、息を吹きかけた。


 ふう、ふう。


 口に運ぶ。


「……あっつ!」


「だから冷ませって言っただろ」


 ロイドが呆れた。


「でも、美味しい!」


「そりゃよかった」


 芋はほくほくしていて、干し肉の塩気がよく染みている。


 昼間は保存食のパンだけだったから、温かい食事が体に染みた。


「これ、誰が考えた料理なの?」


「料理ってほどのもんじゃないぞ」


 ロイドが答える。


「旅先じゃよく作る」


「へえ……」


「材料を鍋に入れて煮るだけだからな」


 バルクが大きな匙で煮込みを口に運ぶ。


「腹にたまるし、体も温まる」


「いい料理だね!」


「だろ?」


 僕はもう一口食べた。


 焚き火のそばで食べるからだろうか。


 王都の食堂で食べる料理とは、また違った美味しさがあった。


 そのとき、ふと思いついた。


「あっ、そうだ!」


「今度は何だ?」


 ロイドが僕を見る。


「これ、撮影してもいい?」


「飯をか?」


「うん! 野営の様子を記録したいんだ!」


「別に構わんが……」


 ロイドが首をかしげる。


「お前、さっきから俺たちを撮ってばかりだな」


「だって、記録しておきたいんだもん」


「好きにしろ」


「やった!」


 僕は《動景記録》を開いた。


 まずは焚き火を撮影する。


 ぱちぱちと燃える薪。


 湯気の立つ鍋。


 器を持って食事をする仲間たち。


「ロイド、こっち向いて!」


「ん?」


「エナも!」


「はいはい」


「バルクも!」


「おう」


 三人が画面に向かって笑った。


 僕はその様子を撮影しながら、ふと気づいた。


「……あれ?」


「どうした?」


「僕が映ってない」


 ロイドが呆れた顔をした。


「そりゃお前が撮ってるからだろ」


「そうなんだけど……」


 僕は少し考えた。


 それから、思い出した。


「あっ! そうだ!」


 僕は《画面固定》を使った。


 開いていた《動景記録》の画面を、焚き火から少し離れた空間に固定する。


 画面の向きを調整して、四人が入る位置を確かめた。


「よし!」


 僕は画面から手を離した。


 空中に固定された画面は、そのままの位置に留まっている。


「おお」


 バルクが感心したように声を上げた。


「便利なもんだな」


「これなら僕も映れる!」


 僕は急いで焚き火のそばへ戻った。


 ロイドの隣に座る。


「みんな、ちょっとだけこっち向いて!」


「まだ撮るのか?」


「お願い!」


 エナが笑いながら器を持ち上げた。


「はい、これでいい?」


「うん!」


 バルクも大きな手を上げる。


 ロイドは苦笑しながら匙を持ったまま画面を見た。


 そして僕も、三人の間で笑った。


「ベルクへの旅、二日目!」


 僕は画面に向かって言った。


「今日は初めて野営をしています!」


「初めてなのはユウトだけだろ」


 ロイドがすかさず突っ込む。


「あっ、そうだった!」


 三人が笑った。


 僕も笑う。


 その声まで、ちゃんと記録されていた。


     ◇


 食事が終わるころには、空はすっかり暗くなっていた。


 僕は固定していた画面を戻し、撮影を終えた。


 記録を再生してみる。


 焚き火を囲む四人。


 湯気の立つ鍋。


 ロイドの突っ込み。


 エナの笑い声。


 バルクが黙々と煮込みを食べる姿。


 そして、その真ん中にいる僕。


「……いいなあ」


 思わずつぶやいた。


「何が?」


 エナが隣から覗き込んだ。


「みんなで映ってる」


「そうね」


「いつも僕が撮ってるから、こういうの初めてなんだ」


 エナは画面を見つめ、それから優しく笑った。


「じゃあ、いい記念になったわね」


「うん!」


 僕は何度か映像を見返した。


 特別なことは何も起きていない。


 ただ、四人で夕食を食べているだけ。


 でも、きっと何年か経ってから見たら、今日のことを思い出すんだろう。


 薪を拾ったこと。


 火を起こすのに苦労したこと。


 芋が熱くて舌を火傷しそうになったこと。


 そして、みんなで笑ったこと。


「……投稿しようかな」


 僕はつぶやいた。


「いいんじゃない?」


 エナが言った。


「ただ、場所が分かりすぎるようなことは書かない方がいいわね」


「あっ、そうだね」


 護衛の仕事中だ。


 今夜の野営地を詳しく知らせる必要はない。


 僕は投稿文を考えた。


【ベルクへの旅・初めての野営】


 説明には、旅の途中で仲間と夕食を囲んだことだけを書いた。


 そして、四人が映っている《動景記録》を添える。


 投稿完了。


「よし!」


「終わったか?」


 ロイドが声をかけた。


「うん!」


「なら、そろそろ休め。夜の見張りもあるからな」


「分かった!」


 僕は画面を閉じ、寝床の準備に取りかかった。


 ……このときは、まだ知らなかった。


 この何気ない投稿が、思いがけない反応を呼ぶことを。


     ◇


 しばらくして。


 僕は毛布にくるまりながら、何気なく《掲示板》を開いた。


 すると。


「……ん?」


 通知が増えている。


 しかも、かなりの数だ。


「えっ?」


 僕は投稿を開いた。


 コメント欄には、見慣れない反応が並んでいた。


【えっ!?】


【ちょっと待って!】


【このユウトって、あのユウトさん!?】


【ステータス画面を作った人!?】


「……え?」


 僕は思わず体を起こした。


 さらにコメントが続く。


【初めて顔見た!】


【思ったより若い!】


【ユウトさんって冒険者だったの!?】


【普通に野営してる!】


【えっ、Fランクって本当?】


【こんな人だったんだ!】


「…………」


 僕は画面を見つめた。


 ……あれ?


 なんか、変なことになってない?


「ロ、ロイド!」


「何だ?」


 焚き火のそばにいたロイドが振り返った。


「ちょっと見て!」


「ん?」


 僕は画面を見せた。


 ロイドはコメントを読み、少ししてから笑い始めた。


「はははっ!」


「笑い事じゃないよ!」


「いや、そりゃ驚くだろ」


「何で!?」


「お前、今まで自分の顔をほとんど出してなかったからな」


「……あっ」


 そう言われてみれば、確かにそうだ。


 僕はいつも撮影する側だった。


 景色を撮ったり、魔物を撮ったり。


 自分自身を撮ることなんて、ほとんどなかった。


 だから、ステータス画面を作ったユウトという名前は知られていても、僕の顔を知っている人は意外と少ないのかもしれない。


「……なるほど」


「今さら気づいたのか?」


「うん……」


 ロイドはまた笑った。


 その声を聞いて、エナとバルクもやってきた。


「どうしたの?」


「ユウトが有名人になってる」


「えっ?」


 エナが画面を覗き込む。


 そして、吹き出した。


「あははっ! 本当だ!」


「ちょっと、エナまで!」


 バルクも画面を見て、口元を緩めた。


「まあ、今まで顔を知らなかった者も多いだろうな」


「そうなんだけど……」


 僕はもう一度コメントを見た。


【いつも便利な機能をありがとうございます!】


【うちの村でも使ってます!】


【この人のおかげで遠くの家族と連絡が取れるようになった】


【これからも頑張ってください!】


 ……あ。


 僕は少しだけ、言葉を失った。


 嬉しかった。


 自分が作ったステータス画面が、誰かの役に立っている。


 それは分かっていたつもりだった。


 でも、こうして知らない人から直接言葉をもらうと、また違った気持ちになる。


「……ありがとう」


 僕は小さくつぶやいた。


 それから、返信を書いた。


【ありがとうございます! これからもよろしくお願いします!】


 送信。


 すると、すぐに新しいコメントが届いた。


【それより鍋の中身が気になる】


「……え?」


 続けて、


【あれ何の料理?】


【めちゃくちゃ美味しそう】


【野営のご飯ってあんな感じなんだ】


【干し肉と芋かな?】


【作り方教えてほしい】


 僕は思わず笑ってしまった。


「ロイド!」


「今度は何だ?」


「みんな、料理が気になるって!」


「料理?」


「うん! 鍋の中身!」


 ロイドは一瞬きょとんとして、それから大笑いした。


「はははっ! そっちか!」


 エナも笑っている。


「まあ、美味しそうだったものね」


 バルクがうなずく。


「実際、美味かった」


「だよね!」


 僕はコメント欄に料理の説明を書いた。


【干し肉と芋、根菜を煮込んだものです! 塩と香草で味つけしました!】


 すると、


【今度やってみます!】


【干し肉なら家にある!】


【冒険者のご飯ってもっと質素だと思ってた】


 そんな反応が届いた。


 僕は画面を見ながら笑った。


 なんだか不思議だ。


 さっきまで、僕たち四人だけで食べていた夕食。


 それを今は、遠く離れた人たちが見ている。


 同じ鍋を囲んでいるわけじゃないのに、少しだけ一緒に食事をしたような気分になる。


     ◇


 夜が深まった。


 焚き火の炎は少し小さくなり、森の向こうから虫の声が聞こえてくる。


 僕たちは交代で見張りをすることになっていた。


 最初はロイド。


 次がバルク。


 そのあとエナ。


 僕は最後の時間を担当する。


「ユウト、今のうちに寝ておけよ」


 ロイドが言った。


「分かった」


「明日は森を抜けるからな。ちゃんと休んでおけ」


「うん」


 僕は毛布にくるまった。


 地面は少し硬い。


 王都の宿屋の寝台とは大違いだ。


 でも、不思議と嫌じゃなかった。


 焚き火の音が聞こえる。


 木々が風に揺れる。


 遠くで、何かの鳥が鳴いた。


 僕は目を閉じた。


 今日も、いろんなことがあった。


 巨大な大陸亀。


 小さなスライム。


 初めての野営。


 そして、仲間たちと一緒に映った《動景記録》。


 どれも、王都にいたら経験できなかったことだ。


 ……旅に出てよかったな。


 そんなことを考えながら、僕は眠りについた。


     ◇


「ユウト」


「……ん」


「ユウト、交代だ」


 肩を揺さぶられて目を開けると、エナがしゃがんでいた。


「……もう?」


「もうよ」


 僕は眠い目をこすりながら起き上がった。


 空はまだ暗い。


 焚き火には赤い熾火が残っている。


「何か変わったことあった?」


「特にないわ。静かなものよ」


「そっか」


「じゃあ、お願いね」


「うん。おやすみ」


 エナが毛布にくるまる。


 僕は焚き火のそばに座り、周囲へ目を向けた。


 森は静かだった。


 木々の隙間から、星が見える。


 僕は顔を上げた。


「……わあ」


 思わず声が漏れた。


 空いっぱいに、星が広がっていた。


 王都でも星は見える。


 でも、ここでは数が違う。


 小さな光が、夜空の隅々まで散らばっている。


 まるで、黒い布に無数の宝石を縫いつけたみたいだった。


 僕はしばらく、その景色を眺めていた。


 それから、そっと《景色記録》を開く。


 ……いや。


 今は見張りの時間だ。


 僕は画面を閉じた。


 星空は、あとでも見られる。


 それより、今は仲間たちが安心して眠れるようにしないと。


 僕は焚き火に小さな薪を足し、森へ目を向けた。


 風が吹く。


 葉が揺れる。


 馬が小さく鼻を鳴らす。


 僕はその音に耳を澄ませた。


 しばらくすると、東の空がほんの少し明るくなり始めた。


 夜明けだ。


 明日は、いよいよ森を抜ける。


 その向こうには、まだ見たことのない商業都市ベルクが待っている。


 どんな街なんだろう。


 どんな景色があるんだろう。


 きっと、また撮影したくなるものがたくさんある。


 僕は小さく笑った。


「……楽しみだな」


 焚き火の向こうで、ロイドが寝返りを打った。


「……ユウト」


「えっ、起きてたの?」


「……明日は、寄り道するなよ……」


「寝言!?」


 僕は思わず吹き出した。


 どうやらロイドは、眠っている間まで僕の寄り道を心配しているらしい。


「……分かってるって」


 小さく答えて、僕はもう一度森へ目を向けた。


 空は少しずつ明るくなっていく。


 僕たちの旅の三日目が、もうすぐ始まろうとしていた。


 ――そしてこのときの僕は、まだ知らなかった。


 森の中で、またしても足を止めたくなるような景色に出会うことを。


第39話 完

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