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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第33話 遠くの誰かを助けたい

第33話 遠くの誰かを助けたい


 冒険者ギルドの朝は、いつも賑やかだ。


 依頼を探す者、受付に並ぶ者、朝食を取る者。


 そんな中、ユウトは食堂の隅でステータス画面を眺めていた。


「……あれ?」


 《掲示板》に、見慣れない投稿があった。


【東部・リーネ村の現状】


【魔物の襲撃により、村の一部が被害を受けました】


【現在、復旧作業を行っています】


 投稿には《動景記録》が添えられていた。


 ユウトは再生する。


 画面に映ったのは、小さな村だった。


 石造りの家と木造の家が並び、畑が広がっている。


 ただ、その一角がひどく荒れていた。


 家の屋根が崩れ、柵が倒れている。


 畑には大きな足跡が残され、踏み荒らされた作物が泥に埋まっていた。


『こっちの柱、もう少し持ち上げてくれ!』


『分かった!』


 男たちが壊れた家の梁を運んでいる。


 少し離れたところでは、女性たちが瓦礫を片付けていた。


 子どもが二人、小さな木片を拾って籠に入れている。


 記録を撮っている人物が、ゆっくりと村の中を歩いていた。


『魔物は冒険者の方々が討伐してくださいました。ですが、家や畑はこのとおりです』


 画面が、壊れた井戸の屋根を映す。


『幸い、亡くなった者はいません。ただ、しばらくは大変な暮らしになりそうです』


 そこで記録は終わった。


「……大変だな」


 ユウトは小さく呟いた。


 もう一度、投稿の説明を読む。


 村を襲ったのは、群れで移動する大型の猪型魔物だった。


 近くの森から十数頭が現れ、村の柵を破って畑や家屋を荒らしたという。


 冒険者たちによって群れは討伐されたものの、村には大きな被害が残っていた。


 ユウトは投稿の下にある書き込みを開いた。


【村の皆さん、頑張ってください】


【怪我人が少なくてよかった】


【何か送ってあげられないかな】


【うちの店に余っている布がある。届ける方法はないだろうか】


【少しならお金を出せるんだけど】


 ユウトは指を止めた。


「……お金?」


 さらに書き込みが続いている。


【銅貨二枚くらいなら出せる】


【俺も出したい】


【でも、どうやって届ければいいんだ?】


【村まで行くのは遠いしなあ】


 ユウトはしばらく考えていた。


 遠くにいる誰かを助けたい。


 でも、そのためだけに馬車を出すわけにもいかない。


 銅貨を二枚届けるために、それ以上の運賃がかかってしまう。


「……そうか」


 ユウトは自分のステータス画面を見た。


 《メール》。


 《知り合い》。


 《掲示板》。


 《金庫》。


 すでに、離れた場所にいる人と連絡を取ることはできる。


 《金庫》を使えば、自分が預けたお金の残高も確認できる。


 それなら――。


「ユウトさん?」


 顔を上げると、ミリアが立っていた。


「どうしたんですか? 難しい顔をして」


「あ、ミリアさん。これ、見てもらえますか?」


 ユウトは動景記録を再生した。


 ミリアは黙って画面を見ていた。


 崩れた屋根。


 踏み荒らされた畑。


 瓦礫を片付ける村人たち。


「……リーネ村ですか」


「知ってるんですか?」


「はい。東部の小さな村ですね。数日前に討伐依頼が出ていました」


「もう魔物は倒されたみたいです」


「そうですね。討伐完了の報告も届いています」


 ミリアは画面の中の壊れた家を見た。


「でも、被害が大きかったんですね……」


「はい」


 ユウトは書き込みを見せた。


「これ、見てください」


「……支援したいという方が、こんなに」


「そうなんです」


 ミリアは一つずつ書き込みを読んでいった。


「銅貨二枚でも、百人集まれば銀貨二枚分になりますね」


「えっ?」


「銅貨百枚で銀貨一枚ですから」


「あ、そうか。二百枚なら銀貨二枚ですね」


 ユウトは画面を見た。


「一人だと少ししか出せなくても、たくさんの人が出せば結構な金額になりますよね」


「そうですね」


「それで、ちょっと考えたんですけど……」


「はい?」


「ステータス画面から、お金を送れるようにできないかなって」


 ミリアが目を丸くした。


「お金を、ですか?」


「はい。投稿を見た人が、その投稿者に銅貨を送れるようにするんです」


「そんなことができるんですか?」


「仕組みとしては、できるかもしれません」


 ユウトは《金庫》を開いた。


「でも、僕が勝手に作っていい機能じゃないと思うんですよね」


「……そうですね」


 ミリアもうなずいた。


「お金のことですから」


「はい」


 ユウトは画面を閉じた。


「ちょっと、相談してみます」


     ◇


 その日の昼。


 ユウトはギルドの空いている会議室を借りていた。


 机の上には紙とペン。


 そして、開いたステータス画面。


 《メール》の宛先には、エルシア・アルヴェインの名前が表示されている。


 獣人連盟で金融業務を取り仕切るエルフ。


 以前、《金庫》の仕組みを作るときにも協力してくれた人物だった。


 ユウトは文章を打ち込んだ。


【エルシアさん、お久しぶりです。ユウトです】


【《金庫》について、少し相談したいことがあります】


 送信。


 しばらく待つ。


 その間に、ユウトは紙へ思いついたことを書き始めた。


 投稿からお金を送る。


 送る側の《金庫》から減る。


 受け取る側の《金庫》へ増える。


 ただし、勝手には送れない。


 必ず本人が確認する。


「……こんな感じかな」


 そのとき、画面に通知が現れた。


【エルシア・アルヴェインからメールが届きました】


「おっ!」


 ユウトはすぐに開いた。


【お久しぶりです、ユウトさん】


【《金庫》の件でしたら、もちろん構いません】


【どのようなご相談でしょうか?】


 ユウトはリーネ村の投稿について説明した。


 魔物の被害。


 復旧作業。


 支援したい人々の書き込み。


 そして、投稿を通じて少額のお金を送れないかと考えていること。


 送信して数分後。


 返信が届いた。


【なるほど。少額の送金機能ですね】


【興味深い提案です】


【ただし、いくつか確認させてください】


 ユウトは背筋を伸ばした。


【まず、送金するお金は、どこから出るのでしょうか?】


「……そこからか」


 ユウトは少し笑った。


 当然の質問だった。


【送る人が《金庫》に預けているお金から引きます】


【送金によってお金が新しく作られることはありません】


 すぐに返信が来た。


【それなら基本的な考え方は問題ありません】


【次に、受取人はどのように確認しますか?】


「……受取人?」


 ユウトは考えた。


 投稿した人へ送る。


 それだけでは駄目なのだろうか。


【投稿した人の《金庫》へ送るつもりです】


 返信が届く。


【では、他人の名前を使って投稿した場合はどうなりますか?】


「……あっ」


 ユウトは思わず声を上げた。


 確かに。


 誰かがリーネ村の住人を名乗り、偽物の投稿をしたら?


 支援したい人が、その偽物にお金を送ってしまうかもしれない。


【それは困りますね……】


【どうすればいいでしょうか?】


 エルシアからの返事は、少し長かった。


【まず、送金先は投稿者の表示名ではなく、《金庫》に登録された本人の口座に紐づける必要があります】


【ただし、それだけでは、その人物が本当に支援を必要としているかまでは保証できません】


【村や団体への支援であれば、代表者の確認も必要でしょう】


 ユウトは一つずつ読んだ。


「なるほど……」


 ステータス画面には《知り合い》の登録機能がある。


 しかし、知り合いとして登録されていることと、お金を受け取る資格があることは別の話だ。


 ユウトは返信した。


【例えば、今回の村なら、村長さんが受取人になるのはどうでしょう?】


【ギルドに被害報告も来ているので、確認してもらえると思います】


【それなら良い方法だと思います】


【ギルドが確認した支援先であることを表示できれば、送る人も判断しやすくなります】


 ユウトは紙に書き加えた。


『村への支援は、確認済みの代表者へ』


 続けて質問が届いた。


【もう一つ。送金できる金額はいくらまでを想定していますか?】


 ユウトは少し考えた。


【最初は少額だけにしようと思っています】


【銅貨だけで、最大五枚くらいでしょうか】


【銀貨や金貨は送れないようにします】


 エルシアからの返信は早かった。


【賛成です】


【最初から大きな金額を扱う必要はありません】


【少額であっても、送金件数が増えれば十分な支援になります】


 ユウトはうなずいた。


 銅貨五枚。


 食事や日用品に使うこともある、身近なお金だ。


 もちろん、人によっては五枚でも大切な金額だろう。


 だから、送る前の確認は必要になる。


【送金するときは、必ず確認画面を出します】


【送る相手と金額を表示して、本人が承認しない限り送れないようにします】


【それは必須ですね】


【また、送金の記録も残してください】


【誰が、いつ、誰に、いくら送ったのか。金融業務を管理する側で確認できる必要があります】


「記録か……」


 ユウトは《金庫》の取引履歴を開いた。


 入金と出金の記録は、すでに残るようになっている。


 そこへ送金履歴を追加すればいい。


 ただし、個人情報を誰にでも見せるわけにはいかない。


【取引履歴は本人と、権限のある管理者だけが確認できるようにします】


【一般の人には、誰がいくら送ったかは表示しない方がいいですよね?】


【その方が良いでしょう】


【支援先には受け取った合計金額が分かるようにしてください】


【また、支援を受け取る側にも《金庫》の登録が必要です】


 ユウトは紙に書き込んだ。


『送る側も受け取る側も《金庫》が必要』


 そこまで書いて、手を止めた。


「あれ?」


 新しい疑問が浮かんだ。


【エルシアさん】


【遠くの村で《金庫》を使っていない人は、どうすればいいんでしょう?】


 返信が届くまで、少し時間がかかった。


【それは、今後の課題ですね】


【現状では、登録していない人へ直接送ることはできません】


【ただし、村の代表者が《金庫》を利用していれば、村への支援として受け取ることは可能です】


【その後、必要な物資の購入や修繕費用に使ってもらう形になるでしょう】


 ユウトは画面を見つめた。


 確かに、全員が《金庫》を使っているわけではない。


 それに、預けたお金を実際の銅貨として引き出すには、取り扱い窓口が必要になる。


 画面の数字だけ増えても、村で木材や食料を買えなければ意味がない。


【それなら、近くの街に《金庫》の窓口があるか確認した方がいいですね】


【はい。リーネ村の場合は、近隣の街に提携窓口があります】


【必要であれば、私の方でも手配を確認しておきましょう】


【ありがとうございます!】


 ユウトは椅子にもたれた。


「……結構、考えることが多いなあ」


 ただお金を送れるようにするだけなら、簡単かもしれない。


 けれど、安心して使える仕組みにするには、いろいろな準備が必要だった。


     ◇


 しばらくして、エルシアから新しいメールが届いた。


【ところで、ユウトさん】


【この機能には名前を付ける予定ですか?】


「名前……」


 ユウトは考えた。


 送金。


 寄付。


 支援。


 どれも間違ってはいない。


 でも、もっと気軽な名前がいい気がした。


 銅貨一枚でもいい。


 二枚でもいい。


 遠くの誰かに、頑張ってほしいという気持ちを届ける。


「……応援」


 ユウトは呟いた。


 画面に文字を打ち込む。


【《応援》という名前はどうでしょう?】


 少しして返信が届いた。


【良い名前ですね】


【何のための機能なのか、分かりやすいと思います】


「よし!」


 ユウトは紙の一番上に、大きく書いた。


『新機能案 《応援》』


 その下に、これまで決めた内容を並べる。


 銅貨のみ。


 一回につき最大五枚。


 送金先は《金庫》に登録された本人。


 村や団体への支援は、確認済みの代表者を指定する。


 送金前に必ず確認。


 取引履歴を残す。


 送る側も受け取る側も《金庫》が必要。


 書き終えたところで、また通知が鳴った。


【最後に、一つだけお願いがあります】


 エルシアからだった。


【実装する前に、私たちの管理側でも送金の仕組みを確認させてください】


【特に、残高が不足している場合や、同じ送金操作が重複した場合の処理を確かめたいのです】


 ユウトは首を傾げた。


「同じ操作が重複……?」


 例えば、銅貨五枚を送る。


 確認した直後に画面が反応しなかったので、もう一度押す。


 すると、二回分の銅貨が送られてしまう。


「……それは困る!」


 ユウトは慌てて返信した。


【分かりました!】


【試験用の環境で確認してから、使えるようにします】


【よろしくお願いします】


【こちらでも準備しておきますね】


 最後に、エルシアからもう一通届いた。


【それにしても、面白いことを考えましたね】


【離れた場所の誰かを助けるために、お金を送る仕組みですか】


【《金庫》を作ったときには、そこまで考えていませんでした】


 ユウトは少し笑った。


【僕もです】


【村の記録を見て、思いついただけなので】


【そういうものなのかもしれませんね】


【必要とする人がいて、初めて分かることもありますから】


 ユウトは返信を送り、メールを閉じた。


     ◇


 夕方。


 ユウトは受付へ戻ってきた。


「ミリアさん!」


「あっ、ユウトさん。エルシアさんとはお話しできました?」


「はい!」


 ユウトは机の上に紙を広げた。


「《応援》という機能を考えてみました!」


「応援?」


「はい。投稿を見た人が、銅貨を送れる機能です」


 ミリアは紙を読んだ。


「一回につき、最大五枚……」


「そうです。まずは少額から始めようと思って」


「いいですね」


「ただ、誰にでも送れるようにすると問題があるので、村への支援なんかは受取人を確認する必要があるそうです」


「なるほど……」


 ミリアは少し考えた。


「でしたら、今回のリーネ村については、こちらで確認できると思います」


「本当ですか?」


「はい。討伐依頼の記録がありますし、村長さんの名前も分かります。東部のギルド支部へ連絡してみますね」


「ありがとうございます!」


 ミリアは紙を返した。


「それで、もう使えるんですか?」


「いえ、まだです」


「あら」


「エルシアさんたちと、ちゃんと確認してから実装します」


「そうなんですね」


「お金のことですからね」


 ミリアはうなずいた。


「大切なことだと思います」


 そのとき、受付に一人の冒険者がやってきた。


「ミリアさん、ちょっといいか?」


「はい、どうされました?」


「このリーネ村の投稿なんだけどよ」


 男はステータス画面を見せた。


「俺、昔あの村に泊めてもらったことがあるんだ」


「そうなんですか?」


「ああ。大雨で動けなくなったとき、村長さんが納屋を貸してくれてな。飯まで食わせてくれた」


 男は少し照れくさそうに頭を掻いた。


「それで、何か送れないかと思ってさ。ギルドで物資を預かってもらうことはできるか?」


「少々お待ちください。確認しますね」


 ミリアが書類を取り出した。


 ユウトは隣で、そのやり取りを聞いていた。


「……あの」


 男がユウトを見る。


「何だ?」


「もし、銅貨一枚とか二枚だけでも、村に送れるようになったら使いますか?」


「そりゃ使うさ」


 男は即答した。


「本当ですか?」


「ああ。大した額は出せねえけどな」


 男は肩をすくめた。


「でも、何もしないよりはいいだろ?」


「……はい!」


 ユウトは笑った。


 男は不思議そうにユウトを見た。


「何だ? そんな仕組みができるのか?」


「今、考えてるところなんです!」


「へえ! そいつは助かるな!」


 ミリアが笑った。


「もう少しお待ちくださいね」


「おう! 楽しみにしてるぜ!」


 男はそう言って、受付を離れていった。


 ユウトは自分のステータス画面を開いた。


 リーネ村の投稿には、また新しい書き込みが増えていた。


【何かできることはありませんか】


【村の皆さん、応援しています】


【少しでも力になれたらいいのに】


 ユウトはその文字を眺めた。


「……よし」


「ユウトさん?」


「明日から、試してみます!」


「《応援》の機能ですか?」


「はい!」


 ミリアは微笑んだ。


「うまくいくといいですね」


「そうですね!」


 ユウトは画面を閉じた。


 明日はエルシアと連絡を取りながら、送金の試験を始める予定だ。


 その前に、もう一度仕様を整理しておかなければならない。


「……今日はちょっと遅くなるかも」


「無理しないでくださいね」


「はい!」


 ユウトは紙をまとめ、会議室へ戻っていった。


 受付では、ミリアが東部のギルド支部へ送るメールを書き始めていた。

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