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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第31話 不落と黒閃

第31話 不落と黒閃


 ユウトは冒険者ギルドの掲示板を眺めていた。


 朝のギルドは、いつもどおり賑やかだった。


 依頼書を剥がす冒険者。受付で報酬を受け取る者。食堂では、これから出発するらしい一団が朝食を取っている。


 ユウトは掲示板の端から順番に依頼を読んでいた。


「薬草の採取……街道の荷物運び……商人の護衛……」


 どれも悪くない。


 ただ、今日はもう少し冒険らしいことがしたかった。


「ユウトさん?」


 振り向くと、受付のミリアが立っていた。


「依頼をお探しですか?」


「はい。今日は何か受けようかなって」


「ステータス画面からでも受けられますよ?」


「知ってますよ」


「では、どうして?」


「こっちの方が冒険者っぽいじゃないですか」


 ミリアは掲示板を見た。


 それからユウトを見る。


「……なるほど」


「今、ちょっと呆れませんでした?」


「いえ。ユウトさんらしいなと思っただけです」


「本当ですか?」


「本当ですよ」


 ミリアは笑った。


「そういえば、ユウトさんも冒険者でしたね」


「冒険者ですよ!」


「最近は仕様変更のお仕事ばかりでしたから」


「僕だって、たまには依頼を受けるんです」


「たまには、ですか」


「……そこは否定できませんけど」


 ユウトは自分の冒険者証を取り出した。


 そこには、相変わらずFランクと記されている。


 先日、ロイドたちとダンジョンへ行ったばかりだ。


 十階層まで潜って魔力晶も採取した。


 それなのに、まだFランクだった。


 もちろん、昇格に必要な依頼実績が足りないのだから仕方がない。


「今日は何か面白い依頼があるといいんですけど」


「Fランク向けでしたら、こちらの辺りですね」


「分かってますって」


 ユウトは掲示板の下段を指さした。


 そのとき、上の方に貼られた一枚の依頼書が目に入った。


「あれ?」


「どうしました?」


「この討伐依頼、ずっと残ってません?」


 依頼書の紙は、周囲のものより少し古びていた。


 何度か貼り直されたのか、端に小さな穴がいくつも開いている。


 ユウトは背伸びして内容を読んだ。


【王都北西部・旧石切場周辺】


【大型魔物討伐依頼】


【対象:鎧角獣 一体】


【推奨:Aランク以上】


「Aランク……」


「はい。少し厄介な依頼なんです」


「鎧角獣って、どんな魔物ですか?」


「四本足の大型魔物です。全身が硬い外殻で覆われていて、頭部に大きな角があります」


「強そうですね」


「強いですよ。石壁を壊すほどの突進力があるそうです」


 ミリアが依頼書を見上げた。


「旧石切場に住み着いてしまって、近くの採石作業が止まっているんです」


「じゃあ、早く倒さないと」


「そうなんですが……」


 ミリアは少し困った顔をした。


「Aランク以上の冒険者が、今はあまり王都にいなくて」


「そうなんですか?」


「はい。遠征に出ている方もいますし、ほかの討伐依頼を受けている方もいます。Bランクのパーティも何組か調査に向かいましたが、討伐は難しいと判断したそうです」


「なるほど……」


 ユウトはもう一度、依頼書を見た。


 旧石切場。


 大型魔物。


 硬い外殻。


 石壁を壊すほどの突進。


 ちょっと見てみたい。


 もちろん、Fランクの自分が受けられる依頼ではない。


「気になるのか?」


 背後から声がした。


 ガルドだった。


 いつものように大きな体を揺らしながら、掲示板の前までやってくる。


「おはようございます、ガルドさん」


「おう。今日は冒険者の仕事か?」


「はい!」


「珍しいな」


「みんな同じこと言う……」


 ガルドは笑いながら、ユウトの見ていた依頼書に目を向けた。


「……まだ残っていたか」


「ご存じなんですか?」


「そりゃあな。あの石切場の件は、俺のところにも報告が来ている」


 ガルドは腕を組んだ。


「採石作業が止まっているのは困るな。王都でも石材が必要だからな」


「ガルドさんが討伐に行ったりはしないんですか?」


「俺が?」


「はい」


「俺はギルドマスターだぞ」


「知ってますよ」


「仕事がある」


「……そうですよね」


 ガルドは依頼書を見たまま、少し考えていた。


「このまま放置するわけにもいかんな」


 そのときだった。


「ガルドはいるか?」


 ギルドの入口から声がした。


 ユウトが振り向く。


 背の高い男が入ってきた。


 整った旅装に、腰には一本の剣。


 落ち着いた足取りで受付へ向かってくる。


「あっ、レイヴァンさん!」


 ユウトが声を上げると、男はこちらを見た。


「ユウトか。久しぶりだな」


「お久しぶりです!」


 冒険者ギルド本部長、レイヴァン。


 以前、獣人連盟へ向かったときにも一緒だった人物だ。


「今日はどうしたんですか?」


「王都支部に確認したい書類があってな。ちょうど近くまで来たので寄った」


「そうだったんですね」


 レイヴァンがガルドを見る。


「お前にも用がある。少し時間を――」


「レイヴァン」


「何だ?」


 ガルドが笑った。


「ちょうどいいところに来たな」


「……嫌な予感がする」


「ちょっと手伝え」


「何をだ」


 ガルドは掲示板を指さした。


「久しぶりに、冒険者をやらんか?」


 レイヴァンは依頼書を読んだ。


 しばらく黙っていた。


「……鎧角獣か」


「知ってるか?」


「昔、一度戦ったことがある」


「どうだった?」


「硬かった」


「そうか」


「それだけか?」


「十分だろ」


 二人が顔を見合わせた。


 ガルドがにやりと笑う。


 レイヴァンはため息をついた。


「お前は昔から急だな」


「今に始まったことじゃないだろ」


「本部の仕事があるんだが」


「今日中に帰ればいい」


「勝手なことを……」


 そう言いながら、レイヴァンはもう一度依頼書を見た。


「……石切場が止まっているのか」


「ああ」


「分かった。付き合おう」


「よし!」


 ユウトは二人を交互に見た。


「あの……」


「何だ、ユウト?」


「お二人で行くんですか?」


「そうだが?」


「……僕も一緒に行っていいですか?」


 ミリアがすぐに振り向いた。


「ユウトさん!?」


「いや、討伐に参加したいわけじゃないんです!」


「なら、何をするつもりだ?」


 ガルドが尋ねる。


 ユウトはステータス画面を開いた。


「《動景記録》です!」


「……ほう」


「お二人って、元Sランク冒険者なんですよね?」


「元、だな」


 ガルドが答えた。


「だったら、その戦いを記録したら、すごく勉強になると思うんです!」


 ガルドとレイヴァンが顔を見合わせた。


 ミリアも少し考え込む。


「確かに……」


 ユウトは続けた。


「今、ギルドでも動景記録を使って戦闘の研究をしていますよね。お二人の戦いを記録できたら、ほかの冒険者の参考になるんじゃないかと思って」


「なるほどな」


 ガルドは顎をさすった。


「俺たちの戦いを教材にするってわけか」


「はい!」


「お前、俺たちがどんな戦い方をするか知ってるのか?」


「いえ、実際には見たことないです」


「そうか」


 ガルドが笑った。


「じゃあ、ちょうどいいな」


「ガルド」


 レイヴァンが口を挟んだ。


「相手はAランク以上の討伐対象だ。見学者を連れていくなら、安全を確保する必要がある」


「分かってる」


「それに、ユウトはFランクだろう」


「はい……」


「戦闘には参加させん。記録する位置もこちらで決める。それでいいか?」


「もちろんです!」


 レイヴァンはうなずいた。


「なら構わん」


 ミリアが息をついた。


「本当に大丈夫なんでしょうか……」


「心配するな、ミリア」


 ガルドが胸を叩いた。


「俺がいる」


「……それは分かっていますけど」


「俺とレイヴァンだぞ?」


「そういう問題ではなくてですね」


 ミリアは二人を見た。


「お二人とも、もう現役を退いているんですから。無茶だけはしないでくださいね」


「ははは!」


「笑い事じゃありません!」


 レイヴァンが静かに答えた。


「分かっている。無理はしない」


「レイヴァンさんは信用しています」


「おい、俺は?」


「ガルドさんは、特に気をつけてください」


「……なんでだ」


 ユウトは笑いをこらえた。


     ◇


 王都の北西にある旧石切場までは、馬車で半日ほどだった。


 周辺には低い岩山が続いている。


 かつて石材を切り出していた場所には、段差のある広い岩場が残されていた。


 人の姿はない。


 作業道の入口には立入禁止の札が立っていた。


「この先か」


 ガルドが周囲を見回す。


「足跡がありますね」


 ユウトが地面を指さした。


 大きな蹄の跡が、乾いた土に深く残っていた。


 人間の頭ほどもある。


「……でかい」


「鎧角獣だからな」


 レイヴァンが足跡の向きを確かめた。


「奥にいるようだ」


 三人は石切場へ入った。


 ユウトは歩きながら、撮影に使う画面を準備する。


 《画面固定》で画面を空中に留めれば、自分が動かなくても記録できる。


 ただし、画面は勝手に魔物を追いかけてくれない。


 撮影する場所が重要だった。


「ここでいいんでしょうか?」


 ユウトが岩棚の上を指さした。


 石切場全体を見渡せる場所だった。


 レイヴァンが周囲を確認する。


「そこなら戦闘に巻き込まれにくいだろう。ただし、絶対に降りてくるな」


「はい!」


「魔物がこちらへ向かってきたら、記録は捨てて逃げろ」


「分かりました」


「本当だな?」


「本当ですって!」


 ガルドが笑った。


「心配性だな、お前は」


「お前が気にしなさすぎるんだ」


「そうか?」


「そうだ」


 二人は岩場へ降りていった。


 ユウトは画面を固定する。


 石切場の中央がよく見える位置。


 左右に少し余裕を持たせる。


「よし……」


 画面の端に、小さく二人の姿が映った。


 ユウトは息を整えた。


「記録開始」


 《動景記録》が始まった。


     ◇


 最初に聞こえたのは、岩が崩れる音だった。


 石切場の奥。


 積み重なった岩の陰から、巨大な魔物が現れた。


「……うわ」


 ユウトは思わず声を漏らした。


 牛に似た四本足の体。


 だが、その大きさは普通の牛とは比べものにならない。


 肩の高さだけで、大人の背丈を大きく超えている。


 灰色の外殻が背中から足までを覆い、頭には太く長い角が一本突き出していた。


 鎧角獣。


 魔物は二人の姿を見つけると、低く唸った。


「でかいな」


 ガルドが言った。


「以前の個体より一回り大きい」


 レイヴァンが剣を抜く。


「正面から来るぞ」


「分かってる」


 ガルドも剣を抜いた。


 ユウトは画面を見た。


 鎧角獣が前足で地面を掻いている。


 次の瞬間。


 魔物が突進した。


 巨体が岩場を駆け抜ける。


 蹄が地面を叩くたびに、小石が跳ねた。


「危ない!」


 ユウトが声を上げた。


 だが、ガルドは動かなかった。


 剣を構え、魔物を正面から見据えている。


 巨大な角が迫る。


 衝突する。


 そう思った瞬間、ガルドが半歩だけ体をずらした。


 剣の腹が角の側面を受ける。


 ガギィン!


 耳をつんざく音が響いた。


 ガルドの足元の砂が大きく散った。


 それでも、彼は倒れなかった。


 角を横へ流し、鎧角獣の頭をわずかに逸らす。


 巨体がそのまま横を通り過ぎた。


「……え?」


 ユウトは目を丸くした。


 あの突進を、受け止めた?


 いや、違う。


 真正面から力比べをしたわけではない。


 ほんの少しだけ角の向きを変え、勢いを逃がしたのだ。


 ガルドは一歩も後退していなかった。


「相変わらずだな」


 レイヴァンが言った。


「お前こそ、まだか?」


「今だ」


 その声が終わるより早く。


 黒い影が走った。


 ユウトには、レイヴァンが踏み込んだところまでは見えた。


 だが、その次の動きが分からなかった。


 剣が閃く。


 鎧角獣の後ろ足から、血が飛んだ。


「……速っ!」


 魔物が悲鳴を上げた。


 レイヴァンはすでに数歩離れた場所に立っていた。


 剣先から血が落ちる。


 鎧角獣が振り返った。


 今度はレイヴァンへ向かって突進する。


「そっちじゃないぞ!」


 ガルドが声を張った。


 魔物が一瞬、そちらを見る。


 その隙にレイヴァンが動いた。


 また、黒い影が走る。


 今度は前足。


 外殻の継ぎ目を、剣が正確に捉えた。


 鎧角獣の巨体が傾く。


 ガルドが前に出た。


「よし!」


 振り下ろされた剣が、魔物の角を横から叩いた。


 鈍い音が響く。


 鎧角獣の頭が大きく揺れた。


 そのまま巨体が地面に倒れ込む。


 岩場が震えた。


 土煙が舞い上がる。


 ユウトは思わず岩棚に手をついた。


「すご……」


 鎧角獣はまだ生きていた。


 倒れたまま四肢を動かし、起き上がろうとしている。


「まだ動くぞ」


 ガルドが言った。


「分かっている」


 レイヴァンが剣を構え直した。


 鎧角獣が頭を持ち上げる。


 その瞬間、ガルドが角を押さえた。


 魔物の頭が止まる。


 レイヴァンが踏み込んだ。


 一閃。


 剣が首の外殻の隙間へ吸い込まれる。


 鎧角獣の動きが止まった。


 しばらくして、ガルドが角から手を離した。


「……終わりか」


「ああ」


 レイヴァンは剣を振って血を払い、鞘に納めた。


 ガルドも剣を納める。


 二人は倒れた魔物を見下ろしていた。


「昔より硬くなってないか?」


「お前の剣が鈍ったんじゃないのか」


「言うじゃねえか」


「事実を言っただけだ」


「ははは!」


 ユウトは岩棚の上で、しばらく動けなかった。


 戦闘が終わっている。


 あれほど大きな魔物が、もう倒れていた。


 ガルドもレイヴァンも、息一つ乱していない。


「……記録終了」


 ようやく声が出た。


     ◇


「どうだった?」


 岩棚から降りてきたユウトに、ガルドが尋ねた。


「すごかったです!」


「そうか!」


「いや、本当にすごかったです! あんな大きな魔物なのに!」


「慣れればどうということはない」


「慣れればって……」


 ユウトは倒れた鎧角獣を見た。


 近くで見ると、さらに大きい。


 外殻にはレイヴァンが斬りつけた跡が残っていた。


「ガルドさん、あの突進をどうやって止めたんですか?」


「止めてはいないぞ」


「え?」


「角の向きを変えただけだ。真正面から受けたら、さすがに骨が折れる」


「……なるほど」


「相手がどこへ進もうとしているか分かれば、少し力を加えるだけでいい」


 ガルドは地面に足で線を引いた。


 魔物の進行方向。


 自分の立ち位置。


 剣を当てた角度。


 ユウトはしゃがんで、その線を眺めた。


「……でも、あんな速さで突進してくる相手に、それをやるんですよね?」


「そうだな」


「難しくないですか?」


「難しいぞ」


「ですよね!」


 ガルドは笑った。


「何十年もやってきたからな」


 レイヴァンが鎧角獣の足を確認していた。


 ユウトはそちらにも駆け寄った。


「レイヴァンさん!」


「何だ?」


「どうしてあんなに速く動けるんですか?」


「速く?」


「はい! 途中から見えなかったです!」


「……そうか」


 レイヴァンは少し考えた。


「余計な動きを減らしているだけだ」


「だけ?」


「足をどこへ置くか。どこを斬るか。動く前に決めている」


「それであの速さに……」


「もちろん、体を鍛えることも必要だがな」


 ユウトは感心してうなずいた。


 レイヴァンは倒れた魔物の脚を指さした。


「鎧角獣は外殻が硬い。だが、脚を動かす以上、関節まで完全に覆うことはできない」


「だから継ぎ目を狙ったんですね」


「ああ。ガルドが頭を逸らしてくれたから、狙いやすかった」


 ガルドが近づいてきた。


「俺がいなきゃ苦労しただろ?」


「別の方法を使っただけだ」


「素直じゃねえな」


「お前こそ、昔から変わらんな」


 二人はまた笑った。


 ユウトはステータス画面を開いた。


「そうだ! 記録を見てみませんか?」


「おう、見せてくれ」


 三人は岩棚の近くに腰を下ろした。


 ユウトが動景記録を再生する。


 画面の中で鎧角獣が現れた。


 そして突進。


 ガルドが角を逸らす。


「おお、ちゃんと映ってるな」


「はい!」


 続いてレイヴァンが動く。


 黒い影。


 剣が閃く。


 魔物の脚から血が飛ぶ。


「……あれ?」


 ユウトが首を傾げた。


「どうした?」


「レイヴァンさん、ほとんど映ってないです」


 画面をもう一度再生する。


 レイヴァンが踏み込む。


 次の瞬間には、もう魔物の横にいる。


「速すぎて、途中が分からない……」


 ガルドが大声で笑った。


「ははは! そりゃそうだ!」


「ええ……せっかく記録したのに」


「まあ、仕方あるまい」


 レイヴァンは自分の動きを見つめていた。


「いや、使い道はある」


「え?」


「どこから動き始め、どこへ移動したかは分かる。斬った場所もな」


 レイヴァンは画面を指さした。


「それに、ガルドの動きはよく映っている」


「俺の方が教材向きってことだな!」


「お前は動きが少ないからな」


「……それ、褒めてるのか?」


「褒めている」


 ユウトは笑った。


 画面の中では、鎧角獣が倒れるところだった。


 ガルドが角を押さえ、レイヴァンがとどめを刺す。


 そこは、はっきり映っていた。


「これ、ギルドの冒険者たちに見せてもいいですか?」


「俺は構わんぞ」


 ガルドが答えた。


 レイヴァンもうなずく。


「戦い方の参考になるなら、使ってくれ」


「ありがとうございます!」


「ただし」


 レイヴァンが続けた。


「これを見て、鎧角獣を簡単に倒せると思われては困る」


「……ああ」


 ユウトは画面を見た。


 確かに、記録の中では二人があまりにも簡単に倒している。


「説明も一緒に付けた方がいいですね」


「そうしてくれ」


 ガルドが立ち上がった。


「さて、討伐の証拠を持って帰るか」


「そうですね」


 ユウトも立ち上がる。


「ところで、ガルドさん」


「何だ?」


「お二人って、現役の頃はいつも一緒に戦ってたんですか?」


「いつもってほどじゃないな」


 ガルドはレイヴァンを見た。


「だが、何度も組んだぞ」


「そうなんですね!」


「こいつは昔から、俺が相手を引きつけると勝手に突っ込んでいくんだ」


「お前が相手を押さえるのが上手かったからだ」


「ほう?」


「褒めている」


「……今日はやけに素直だな」


 レイヴァンは答えなかった。


     ◇


 王都へ戻ったのは、夕方だった。


 ギルドに入ると、ミリアが受付から顔を上げた。


「あっ! お帰りなさい!」


「ただいま戻りました!」


 ユウトが手を振る。


 ガルドが討伐証明となる鎧角獣の角の一部を受付に置いた。


「依頼完了だ」


「はい。確認しますね」


 ミリアは証明品を調べ、依頼書と照合した。


「……確かに、鎧角獣の討伐を確認しました」


「よし」


「お疲れさまでした。皆さん、お怪我はありませんか?」


「ないぞ」


 ガルドが答える。


「ユウトさんも?」


「はい! 僕はずっと安全な場所で記録してましたから」


「それならよかったです」


 ミリアはほっとした様子だった。


「そうだ、ミリアさん!」


「はい?」


「すごい記録が撮れたんですよ!」


 ユウトがステータス画面を開く。


「ガルドさんとレイヴァンさんの戦いです!」


「まあ!」


 近くにいた冒険者が振り向いた。


「ガルドさんの戦い?」


「レイヴァン本部長も?」


「何だって?」


 食堂の方からも何人か集まってきた。


 ガルドは腕を組んで笑っている。


「せっかくだ。見せてやれ!」


「いいんですか?」


「構わん!」


 ユウトは動景記録を開いた。


 画面を見やすい位置に固定する。


 冒険者たちが集まってくる。


「これが鎧角獣か……」


「でかいな」


「おい、ガルドさん、真正面に立ってるぞ」


「危なくないのか?」


 画面の中で魔物が突進した。


 ガルドが角を逸らす。


 周囲から声が上がった。


「うおっ!」


「今、何した!?」


「剣で角を流したのか?」


 続いてレイヴァンが動いた。


 黒い影が走る。


「……え?」


「今の見えたか?」


「いや……」


「もう斬ってるぞ!」


 冒険者たちは画面に顔を近づけた。


 ユウトは得意げに説明した。


「レイヴァンさんは、動く前に斬る場所を決めているそうです!」


「……それでできるなら苦労しねえよ!」


 誰かが叫んだ。


 ガルドが大笑いした。


「ははは! まあ、そうだな!」


 レイヴァンは少し離れた場所で、その様子を見ていた。


 ミリアが隣に立つ。


「本当に、お二人ともお変わりありませんね」


「……そうか?」


「はい。昔の冒険者たちが、また戻ってきたみたいです」


 レイヴァンは画面を見た。


 そこでは、ガルドが鎧角獣の角を押さえている。


「……あいつは、昔からああだった」


「ふふっ」


 画面の前では、冒険者たちがガルドを質問攻めにしていた。


「ガルドさん! あの角度、どうやったんですか!?」


「足の位置は!?」


「剣が折れたりしないんですか!?」


「おうおう、順番に聞け!」


 ユウトもその輪に加わった。


「僕も聞きたいです!」


「お前は現場で聞いただろうが!」


「もう一回お願いします!」


「まったく……」


 ガルドは笑いながら、近くにあった木剣を手に取った。


「よし。じゃあ、ちょっと説明してやるか」


 冒険者たちが場所を空ける。


 レイヴァンも呼ばれて、渋々前に出てきた。


 ユウトは再び画面を固定した。


「……ユウト」


「はい?」


「また記録するのか?」


「もちろんです!」


 レイヴァンはため息をついた。


 ガルドが笑う。


「いいじゃねえか。今度はゆっくり動いてやれ」


「……お前が先にやれ」


「分かった分かった!」


 ガルドが木剣を構えた。


 ユウトは画面に向かって声をかける。


「記録開始!」


 今度は、レイヴァンの動きもちゃんと映るはずだった。

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