↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/38

第3話 冒険者たちで試してみよう

「――というわけで、まずは試してみたい」


 ギルドマスターはそう言って、机の上で両手を組んだ。


 俺とミリアさんがギルドマスターの部屋へ来てから、もう結構な時間が経っている。


 俺がレベルアップしたら突然現れたステータス画面。


 そこへ《付与》で追加した《メール》。


 そして俺だけじゃなく、他の人にもステータス画面そのものを付与できること。


 ひと通り説明し終わったところで、ギルドマスターが出した結論がそれだった。


「試すって……他の冒険者にもですか?」


「ああ。ただし、いきなり大勢にはやらん」


 それを聞いて、俺は少し安心した。


 正直なところ、俺自身がまだよく分かっていないのだ。


 昨日まで俺は、ただのFランク冒険者だった。


 いや。


 今もFランク冒険者なんだけど。


「まずは三人ほどでいいだろう。近場の依頼へ行ってもらう」


「三人……」


「何かあっても、すぐ戻ってこられる距離だ。それで本当に離れた場所でも、その《メール》とやらが届くのか確かめる」


 なるほど。


 確かに俺とミリアさんで試した時は、俺がギルドの外へ出ただけだった。


 街の外。


 もっと離れた場所。


 森の中。


 そういう場所でも使えるのかは分からない。


「それともう一つ」


 ギルドマスターが俺を見る。


「ユウト。お前は行かんでいい」


「え?」


「お前が近くにいるから使える、という可能性もあるだろう」


「ああ……」


 言われてみればそうだ。


「ですからユウトさんは、ここで私たちと待っていましょう」


 ミリアさんも頷く。


「分かりました」


 俺は答えた。


 ……ちょっとだけ残念だった。


 俺も一応、冒険者なんだけどな。


 ◇


「ステータス画面?」


「はい」


「なんだそれ?」


「私にもまだ上手く説明できないのですが……」


 ミリアさんが困っている。


 その前には、三人の冒険者が立っていた。


 剣士の男、ロイド。


 弓を背負った女性、エナ。


 そして大きな盾を持った男、バルク。


 三人ともDランク冒険者で、普段から同じ組で依頼を受けているらしい。


 今回の試験に協力してくれる人を探したところ、ギルドマスターがこの三人を選んだ。


「とりあえず見せた方が早いと思います」


 俺は自分のステータス画面を開く。


 もちろん三人には見えていない。


「今、俺の前にステータス画面があります」


「…………」


 ロイドが俺の顔を見る。


 エナも見る。


 バルクも見る。


「ないぞ?」


「俺には見えてます」


「大丈夫か?」


「大丈夫です」


「本当に?」


「たぶん」


「たぶんって言ったぞ」


 仕方ないじゃないか。


 俺だって昨日突然出てきたんだから。


「俺が皆さんに付与すると、自分のステータス画面が見えるようになります」


「へえ」


 ロイドはまだ半信半疑らしい。


「ただ、勝手にはできません」


 俺はロイドへ手を向ける。


 昨日ミリアさんに試した時に追加された《付与承認》。


 誰かに特殊なものを付与するときは、相手が承認しなければならない。


「ロイドさんに《ステータス画面》を付与」


 そう告げる。


 すると――。


「うおっ!?」


 ロイドが飛び退いた。


「なんだこれ!」


 どうやら出たらしい。


「目の前に何か出た!」


「それがステータス画面です。たぶん《付与を承認しますか?》って書いてありますよね?」


「あ、ああ……」


「承認してください」


「これか?」


 ロイドが恐る恐る指を動かす。


 何もない空間を触っているようにしか見えない。


「おっ」


 表情が変わった。


「なんだこれ……俺の名前があるぞ」


「年齢も出ますよ」


「……そこはいらなくないか?」


 ミリアさんが小さく頷いた。


 どうやら昨日から気にしていたらしい。


「職業……剣士。レベル……おお、本当に俺の情報だ」


「私も!」


 エナが前へ出てきた。


「私にもやって!」


「分かりました」


 続いてエナ。


 そしてバルク。


 三人全員へステータス画面を付与する。


 最初こそ驚いていたものの、数分もすると三人とも夢中になっていた。


「面白いな、これ」


「ねえ、これどうやって消すの?」


「端に閉じるところがあります」


「これ?」


「そうです」


「あ、消えた!」


「もう一回出すには?」


「出したいと思えば――」


「あ、出た!」


 順応が早い。


 人間ってすごい。


「それじゃ次に《メール》を付与します」


 三人へ《メール》を付与する。


 これもそれぞれが承認。


「これで離れた場所にいても文字を送れる……はずです」


「はず?」


「まだ試してないので」


「なるほど。それを俺たちが試すわけか」


「そういうことです」


 ロイドがニヤッと笑った。


「面白そうじゃねえか」


 ◇


 三人が受けたのは、街の北側にある森での薬草採取だった。


 片道一時間ほど。


 危険な魔物はほとんど出ない。


 試験にはちょうどいいらしい。


 三人が街を出てから、俺たちはギルドで待つことになった。


 俺。


 ミリアさん。


 そしてギルドマスター。


 三人ともステータス画面を開いている。


 ただし俺には二人の画面は見えない。


 つまり傍から見れば、大人三人が何もない空間をじっと見ている。


 ものすごく変な光景だと思う。


「まだか」


 ギルドマスターが言った。


「まだ出発して十分ですよ」


 ミリアさんが答える。


「そうか」


 五分後。


「まだか」


「まだ十五分です」


 さらに十分。


「まだ――」


「ギルドマスター」


「なんだ」


「少し落ち着いてください」


「落ち着いている」


 絶対落ち着いてない。


 どうやら一番楽しみにしているのは、この人らしい。


 そして三人が出発してから三十分ほど経った時だった。


 ――ピコン♪


「来た!」


 ギルドマスターが立ち上がった。


「俺にも来ました!」


 俺は《メール》を開く。


 差出人はロイド。


 内容は短かった。


『街の北門が見えなくなった。届いてるか?』


「届いてます!」


 思わず声に出してしまった。


「私にも届いています」


「俺にもだ」


 三人とも同じ文章を見ている。


 俺はすぐに返信した。


『届いてます』


 ミリアさんも返信。


 ギルドマスターも何か打ち込んでいる。


 しばらくして――。


 ピコン♪


『おお! 三人から返ってきた!』


 さらに、


『すげえなこれ!』


 また来た。


『本当に街の外でも届くぞ!』


 そしてもう一通。


『エナも試したいって言ってるから代わる』


 数秒後。


 ピコン♪


 今度はエナからだった。


『見えてますか?』


 俺たちは返信する。


 すると、


『見えてる!』


 さらに、


『バルクが自分も送りたいってうるさい』


 その直後。


 ピコン♪


『バルクだ』


 ……それだけだった。


「もう少し何か書けんのか、こいつは」


 ギルドマスターが呟いた。


 俺は笑ってしまった。


 ◇


 それから一時間ほど。


 メールは何度か届いた。


『森に入った』


『薬草発見』


『こっちは問題なし』


 そんな簡単な報告ばかりだった。


 やがて俺も慣れてきて、別のことをしていた。


 ギルドの隅に座り、昨日受け取ったばかりの冒険者カードを眺める。


 そこには相変わらず、


【ランク:F】


 と書いてある。


 俺、本当なら今日も依頼を受けてたんだろうな。


 ホーンラビットを倒して。


 薬草を採って。


 少しずつランクを上げて。


 そういう異世界生活になると思っていた。


 なのに今は、他の冒険者からメールが届くのをギルドで待っている。


「……俺、何してるんだろ」


 その時だった。


 ――ピコン♪


 またメール。


 エナだろうか。


 そう思って開く。


 だが。


『予定変更』


 ロイドからだった。


『森の東側でゴブリンの足跡を見つけた』


 ギルドマスターの表情が変わった。


「ゴブリン?」


 ミリアさんも画面を見ている。


 続けてメールが来る。


『数は不明』


『新しい』


『薬草採取を中止して戻る』


 ギルドマスターがすぐに返信する。


『戦うな。そのまま帰還しろ』


 数秒。


『了解』


 部屋の空気が変わった。


 さっきまでの実験ではなくなった。


「北の森にゴブリン……」


 ミリアさんが呟く。


「最近、あの辺りでは報告されていませんね」


「ああ」


 ギルドマスターが立ち上がった。


「ミリア。北の森へ向かう依頼を確認しろ」


「はい!」


 ミリアさんが受付へ走る。


 しばらくして戻ってきた。


「二組です! 一組はまだギルドにいます!」


「止めろ。もう一組は?」


「今朝出発しています」


「くそっ」


 ギルドマスターが舌打ちした。


「どこまで行ったか分からんな」


 そこで俺は気づいた。


「その人たちには……」


「ああ」


 ギルドマスターが俺を見る。


「ステータス画面がない」


 メールもない。


 だから伝えられない。


 たった今届いた情報なのに。


 危険があると分かったのに。


 伝える方法がない。


「……なるほど」


 ギルドマスターが呟いた。


 その声はさっきまでとはまるで違った。


「こういうことか」


「え?」


「昨日、話しただろう」


 ギルドマスターが俺を見る。


「街道が崩れた。予定より魔物が多かった。見たことのない魔物がいた。仲間が怪我をした」


「あ……」


「これまではな」


 ギルドマスターが続ける。


「冒険者が戻ってきて、初めて分かることが多かった」


 森で何かを見つける。


 街へ戻る。


 受付へ報告する。


 ギルドが確認する。


 それから次の冒険者へ伝える。


 それが普通だった。


「だが、これは違う」


 ギルドマスターが自分のステータス画面を見る。


「見つけたその場で知らせられる」


 俺も画面を見る。


 ロイドから届いた、たった数行の文章。


『森の東側でゴブリンの足跡を見つけた』


 それだけ。


 たったそれだけなのに。


 その情報はもう街に届いている。


 ◇


 昼を少し過ぎた頃。


 三人が帰ってきた。


「いやー、参った!」


 ロイドがギルドへ入ってくるなり言った。


「結局ゴブリンそのものは見なかったけどな」


「足跡は?」


「間違いない。三……いや、四体以上はいると思う」


「分かった。調査依頼を出す」


 ギルドマスターが即答する。


 その横でエナが俺を見つけた。


「ユウト!」


「はい?」


 いきなり両手を掴まれた。


「これ便利!」


「え?」


「すっごく便利!」


「お、おお……」


「だって戻らなくても知らせられるんだよ!?」


 そりゃメールだからな。


 俺にとっては当たり前だった。


 でも、この世界では違う。


 離れた場所へ情報を送る。


 それだけのことが、とんでもなく大きいらしい。


「なあユウト」


 ロイドもやってくる。


「これ、俺たちだけなのか?」


「今のところは」


「他の奴らにも使わせられないのか?」


「付与すればできます」


「じゃあやってくれよ」


「え?」


「今日みたいなこと、またあるだろ」


 ロイドはそう言ってから、少しだけ真面目な顔になった。


「俺たちは何度もあるんだ。街に戻ってから言われるんだよ」


『昨日、あの辺りでオーガが出たらしい』


『南の橋が壊れていたらしい』


『あの森に盗賊が入ったらしい』


「だったら出る前に教えてくれよって、何度思ったか」


「…………」


「まあ、ギルドだって知らなかったんだから仕方ねえんだけどな」


 その言葉を聞いていたギルドマスターが腕を組む。


「ユウト」


「はい」


「少し話がある」


 ……なんとなく嫌な予感がした。


 ◇


 またギルドマスターの部屋。


 今日だけで何回来たんだろう。


「結論から言う」


 ギルドマスターが言った。


「この試験は成功だ」


「ですよね」


「だから、もう少し人数を増やしたい」


「……何人くらいですか?」


「まず二十人」


「増えたな!?」


「少ないくらいだ」


 ギルドマスターは真顔だった。


「近場の依頼を中心に受ける連中へ付与する。しばらく運用して問題がなければ、さらに増やす」


「なるほど……」


「もちろん本人が望んだ場合だけだ」


 《付与承認》がある。


 嫌なら断れる。


 そこは問題ない。


「分かりました」


 俺は頷いた。


「やってみます」


「助かる」


 そこで話が終わる――と思った。


 ギルドマスターが一枚の紙を取り出した。


「それとな」


「まだあるんですか?」


「ああ」


 嫌な予感が強くなる。


「今回の結果は、上へ報告する」


「上?」


「この街だけで使って終わらせるようなものじゃない」


 ギルドマスターが紙へ何かを書き始める。


「他の街のギルドでも使えるかもしれん。いや――おそらく使いたがる」


「…………」


「まずはこちらで人数を増やして試す。その結果をまとめて送る」


 俺は自分のステータス画面を開いた。


 そこにはまだ大したものはない。


 俺自身の情報。


 そして《メール》。


 たったそれだけだ。


 昨日まで存在しなかったもの。


 俺が、


『離れた相手と文字を送り合えたら便利だ』


 そう考えて《付与》しただけの機能。


 それが今日。


 森で見つかった危険を、冒険者がその場から街へ知らせた。


 ギルドマスターが言う。


「もしかするとこれは――冒険者の仕事のやり方そのものを変えるぞ」


 大げさだ。


 そう言おうとした。


 でも。


 俺のステータス画面に残っているメールを見る。


『森の東側でゴブリンの足跡を見つけた』


 これがなければ、今もギルドは何も知らなかった。


 そう考えると。


「…………」


 大げさとも言い切れなかった。


「とりあえず」


 俺はステータス画面を閉じた。


「二十人ですよね?」


「ああ」


「分かりました」


 明日は二十人へステータス画面を付与する。


 その次は――。


 まだ分からない。


 ただ一つ。


 俺の思い描いていた異世界冒険者生活から、少しずつ何かがズレ始めている気がする。


 剣を握って。


 魔物を倒して。


 ランクを上げる。


 そんな生活になるはずだった。


 俺は冒険者カードを取り出した。


【冒険者ランク:F】


 そして、その横に浮かぶステータス画面。


 俺は思った。


「……俺、ちゃんと冒険者できるのかな」


 その答えを知るのは――。


 まだ、ずっと先のことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。