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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第28話 動く景色を記録する

第28話 動く景色を記録する


 翌朝。


 俺は冒険者ギルドへ向かっていた。


 足が痛い。


 昨日、十階層まで行って帰ってきたせいだ。


「……筋肉痛か」


 久しぶりに冒険者らしいことをした結果がこれである。


 ロイドたちは平気そうだったのに。


 まあ、慣れの問題だろう。


 たぶん。


 ギルドに入ると、ミリアがこちらに気づいた。


「おはようございます、ユウトさん」


「おはよう」


「昨日はよく眠れました?」


「ぐっすり」


「それはよかったです」


「でも足が痛い」


「十階層まで行ったんですから」


「ロイドたちは普通だったよ?」


「あの方たちと比べないでください」


 ごもっとも。


「それで、昨日の要望なんだけど」


「はい」


「ちょっと試してみたい」


「分かりました。マスターにも伝えますね」


「いや、そんな大げさなことじゃ……」


「新しい機能を追加するんですよね?」


「まあ、そうだけど」


「でしたら必要です」


 そう言ってミリアは奥へ向かった。


 俺は近くの椅子に座る。


 昨日の冒険者の話を思い出した。


 怪我をして動けない。


 自分の怪我を記録したい。


 周囲を歩き回る魔物の動きも伝えたい。


 今の《景色記録》では、少し難しい。


「……まず固定か」


 ステータス画面を開いた。


 いつもの半透明の画面。


 これを自分から離して、その場に留める。


 できるだろうか。


 いや。


 できるかどうかは試せばいい。


 俺は《付与》を開いた。


【付与内容を入力してください】


 文章を入力する。


『ステータス画面を、所有者が指定した空間の位置に固定できるようにする。固定した画面は所有者が移動しても追従しない。画面は一つだけとし、固定中に別の画面は出現しない』


【付与内容を確認しました】


【《画面固定》を追加しますか?】


「追加」


 画面が一瞬光った。


【《画面固定》を追加しました】


「よし」


 早速試す。


 画面の端に新しい項目が増えていた。


【画面固定】


 押す。


 すると。


「お?」


 ステータス画面がその場に留まった。


 俺は椅子から立ち上がる。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


「おお!」


 動かない。


 いつもなら俺についてくる画面が、椅子の前に浮かんだままだ。


「ユウトさん?」


 戻ってきたミリアが首を傾げる。


「何してるんですか?」


「見て。固定できた」


「固定?」


「そう。ここに置いたまま離れられる」


「本当ですね」


 ミリアが画面の周りを歩く。


「触ってもいいですか?」


「いいよ」


 ミリアが指を伸ばす。


 何も起きない。


「操作はできないんですね」


「持ち主だけだからね」


「なるほど」


 俺は少し離れたところから画面を眺めた。


「…………」


「ユウトさん?」


「…………」


「どうしました?」


「……これ」


「はい?」


「どうやって操作するんだ?」


 ミリアが画面を見る。


 俺を見る。


「……近づいて操作するのでは?」


「そうなんだけど」


 俺は昨日の冒険者を思い出した。


 怪我をして動けない。


 自分を記録したい。


 そのために画面を固定する。


 でも。


 固定した画面まで手が届かなかったら?


「……意味ないじゃん」


「え?」


「いや、固定するだけじゃ駄目だ」


 俺は画面へ戻った。


 固定解除。


 いつもの位置に戻る。


「もう一つ必要だな」


     ◇


「なるほどな」


 ガルドが腕を組んだ。


「持ち主が離れた場所から操作できなければ、負傷者には使いにくいというわけか」


「そういうこと」


「だったら声で命令すればいいんじゃないか?」


「うん。俺もそう思った」


 声。


 つまり音声で操作する。


 ステータス画面には、今までなかった機能だ。


「全部の操作を声で?」


 ミリアが聞く。


「いや、そこまではいらないと思う」


「そうですか?」


「市場で買い物するたびに声で注文してたら、うるさいでしょ」


「確かに……」


「今回は記録だけ」


 画面を固定する。


 離れる。


 自分の声で記録を開始する。


 終わったら、また声で止める。


「ただし本人の声だけね」


「他人が勝手に操作できたら困るからな」


 ガルドが頷いた。


「それで、もう一つの要望は?」


「動いている景色を記録すること」


 俺は《景色記録》を開いた。


 窓の外へ向ける。


 通りを歩く人。


 荷馬車。


 荷物を運ぶ獣人。


 記録する。


 画面に残ったのは、その瞬間の景色だった。


「これだと、馬車がどう動いたのか分からない」


「そうですね」


「昨日の冒険者も同じだったんだと思う。魔物が何体いて、どこを歩いて、どのくらいの速さで近づいてきたのか」


「一枚の景色では伝わらないな」


「だから、動いている間をそのまま残す」


 ガルドが眉を上げた。


「そんなことができるのか?」


「やってみないと分からない」


「お前ならできそうだがな」


「その期待が最近重いんだけど」


 ガルドは笑った。


 俺は《付与》を開く。


【付与内容を入力してください】


『ステータス画面を通して見える景色と音を、時間の経過とともに連続して記録する機能を追加する。記録した景色は、後から動きと音を伴って再生できるようにする』


【付与内容を確認しました】


【《動景記録》を追加しますか?】


「追加」


 画面が光った。


 新しい項目。


【動景記録】


「……できた」


「もうできたのか?」


「機能自体はね」


 少し疲れた。


 椅子に座り直す。


「大丈夫ですか?」


 ミリアが聞く。


「大丈夫。ちょっと休めば」


 俺は水を飲んだ。


 それから、もう一度《付与》を開く。


『画面固定中に限り、所有者本人の声による記録操作を受け付ける。「記録開始」で動景記録を開始し、「記録終了」で終了する。「景色記録」で静止した景色を記録する。また「画面固定」「固定解除」の音声指示を受け付ける』


【付与内容を確認しました】


【《記録音声操作》を追加しますか?】


「追加」


【《記録音声操作》を追加しました】


「……よし」


 俺は背もたれに体を預けた。


「今度こそ試そう」


「休んでからにしろ」


 ガルドに言われた。


「ちょっとだけ」


「お前のちょっとは信用できん」


「そんなことないって」


「昨日も十階層まで行ったんだろ」


「行った」


「だったら休め」


「……はい」


     ◇


 少し休んでから、俺たちはギルドの裏庭へ移動した。


 人が少なく、試すにはちょうどいい。


「まず画面固定」


 ステータス画面がその場に留まる。


 俺は少し離れた。


 ミリアとガルドは横で見ている。


「じゃあ始めるよ」


「はい」


 俺は固定した画面へ向かって言った。


「記録開始」


 ピコン♪


【動景記録を開始しました】


「おお!」


 画面の端に小さな印が出ている。


 記録中ということらしい。


 俺は手を振った。


「見えてる?」


「見えていますよ」


「いや、記録されてるかどうかはまだ分からないけど」


「あ、そうですね」


 俺は数歩歩く。


 手を振る。


 しゃがむ。


 立つ。


「何してるんだ?」


 ガルドが聞く。


「動いてるところを記録してる」


「それは分かるが」


「動かなかったら試せないでしょ」


「そうだな……」


 俺は画面へ向き直った。


「記録終了」


 ピコン♪


【動景記録を終了しました】


「よし」


 固定解除。


 画面が俺の前へ戻ってきた。


 《動景記録》を開く。


【記録一覧】


 新しい記録が一つ。


「再生するよ」


 押した。


 画面の中に。


 俺がいた。


「…………」


 手を振っている。


 歩いている。


 しゃがむ。


 立つ。


『何してるんだ?』


 ガルドの声。


『動いてるところを記録してる』


 俺の声。


「…………」


「…………」


「…………」


 三人とも黙った。


 画面の中の俺は、まだ動いている。


『動かなかったら試せないでしょ』


『そうだな……』


 記録が終わった。


「……すごい」


 最初に口を開いたのはミリアだった。


「ユウトさんが、動いてました」


「うん」


「さっきのユウトさんですよね?」


「そうだよ」


「声も」


「残ってるね」


 ガルドが画面を覗き込む。


「もう一度見せろ」


「いいよ」


 再生。


 また俺が手を振る。


「……ほう」


 ガルドが顎を撫でた。


「これは面白いな」


「でしょ」


「戦闘の記録にも使える」


「ああ、それは確かに」


「魔物がどんな攻撃をするか、後から確認できるわけだ」


「そうなるね」


「剣の動きも?」


「記録できてれば」


「なるほどな……」


 ガルドが何か考えている。


 俺はミリアを見る。


「どう?」


「すごいです」


「ほかには?」


「え?」


「何か気づいたこと」


 ミリアはもう一度、画面を見た。


「……あ」


「何?」


「これ、ユウトさんがいなくても見られるんですよね?」


「うん」


「だったら」


 少し考えてから。


「遠くにいる人が、どんな様子だったのかも分かりますね」


「そうだね」


「家族とか」


「家族?」


「遠くの街で暮らしている家族です。元気にしているところを記録して送れたら……」


「…………」


 なるほど。


 魔物の記録だけじゃないのか。


 俺は画面の中の自分を見る。


 なんだか間抜けな動きをしている。


 これを家族に送りたいかと言われると微妙だけど。


「……そういう使い方もあるね」


 ミリアが笑った。


「ありますよ」


     ◇


「それで、例の冒険者には?」


 ガルドが聞いた。


「使ってもらいたい」


「もう怪我は治りかけているそうだが」


「同じようなことが起きた時に役立つと思う」


「そうだな」


 俺は《画面固定》と《動景記録》の内容を確認する。


 記録は所有者のステータス画面に保存される。


 《景色記録》と同じように、本人が選んでメールや掲示板へ添付できる。


 勝手に公開されるわけじゃない。


 固定中は、別の場所でステータス画面を操作できない。


 音声操作も記録に関するものだけ。


 うん。


 とりあえずこれでいい。


「じゃあ、みんなにも使えるようにする」


「お願いします」


 ミリアが言った。


 俺は《付与》を開いた。


『《画面固定》《動景記録》《記録音声操作》を、ステータス画面所有者が利用できる基本機能として追加する』


【付与内容を確認しました】


【対象となるステータス画面に機能を追加しますか?】


「追加」


 ピコン♪


 俺の画面にも通知が出た。


【新しい機能が追加されました】


【画面固定】


【動景記録】


【記録音声操作】


「……終わった」


 俺は椅子に座った。


 今度は少し長く休みたい。


「お疲れさまです」


 ミリアが水を持ってきてくれた。


「ありがとう」


「でも、これ……」


「ん?」


「皆さん、驚くでしょうね」


「だろうね」


 俺は水を飲んだ。


 昨日の冒険者は。


 ただ、自分の怪我と魔物の動きを伝えたかっただけだ。


 それができるようになった。


 まずはそれでいい。


「そういえばユウト」


 ガルドが言った。


「何?」


「昨日のダンジョンはどうだった?」


「楽しかったよ」


「そうか」


「また行きたい」


「なら次の休みにでも行けばいい」


「……休みがあればね」


 ガルドが笑う。


 ミリアも笑った。


 俺はステータス画面を閉じた。


 今日の仕事は終わり。


 そう思ったところで。


 ピコン♪


「…………」


 メールだ。


 差出人はロイド。


『ユウト、昨日のダンジョンで見た大コウモリの動き、今度記録できるんじゃないか?』


「…………」


 俺は返信した。


『できると思う』


 すぐに返事が来た。


『じゃあ次は記録しながら行くか』


「…………」


 次の冒険が決まったらしい。


 俺は少し笑って、画面を閉じた。

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