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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第27話 十階層と、帰ってきてからの要望

第27話 十階層と、帰ってきてからの要望


 四階。


 階段を下りたところで、ロイドが止まった。


「いるな」


「どこ?」


「上」


 言われて見上げる。


「…………」


 暗い。


 何も見えない。


「どこ?」


「だから上だ」


「上は分かってる」


 目を凝らす。


 天井。


 岩。


 岩。


 岩――。


「あ」


 一つ動いた。


 羽が開く。


 思っていたより大きい。


「でかっ」


「大コウモリだ」


「大って付いてるだけあるな……」


「来るぞ」


 ロイドが剣を抜く。


 天井から次々と影が落ちた。


 一体。


 二体。


 三体。


 まだいる。


「五!」


 エナが矢を放つ。


 一体に刺さる。


 でも落ちない。


「結構硬い?」


「硬いというより当てにくい!」


 二本目。


 今度は羽。


 大コウモリが体勢を崩す。


 そこへロイドが剣を振った。


「ギィッ!」


 落ちる。


 残りが一斉に飛び回った。


「うわっ」


 速い。


 景色記録で姿は見ていた。


 でも。


 動いてるところは全然違う。


「ユウト!」


「はい!」


「エナに頼む!」


「何を!?」


「矢だ!」


 矢。


 何を付与する?


 攻撃力?


 切れ味?


 違う。


 あれだけ動き回ってるなら。


「エナ!」


「何!?」


「矢を速くする!」


「お願い!」


 俺は《付与》を開く。


 《矢の飛翔速度強化》


 確認。


 付与。


「いける!」


 エナが矢を放った。


 ヒュッ――。


「速っ」


 さっきまでと違う。


 大コウモリが方向を変える前に、矢が届いた。


 一体。


 次。


「いい!」


 エナが続けて放つ。


 二体目。


 三体目。


 残った一体がこっちへ向かってきた。


「ユウト!」


「え?」


 目の前。


「うわっ!」


 盾が割り込んだ。


 ドンッ!


 バルクだ。


 大コウモリが弾かれる。


 ロイドの剣。


 終わった。


「…………」


「大丈夫か?」


「大丈夫」


「ぼーっとするな」


「してないって」


「してた」


「……はい」


 バルクが盾を戻す。


「初めてなんだから、無理するな」


「分かった」


 エナが自分の矢を見る。


「これ、いいわね」


「飛翔速度?」


「うん。しばらくこのままでお願い」


「了解」


 ロイドが俺を見る。


「ちゃんと付与術師してるじゃないか」


「元から付与術師だよ!」


「普段は何屋か分からん」


「俺も最近ちょっと分からなくなってきた」


 メール。


 掲示板。


 市場。


 金庫。


 確かに。


 剣や矢に付与している方が、よっぽど付与術師らしい。


     ◇


 五階。


 六階。


 六階から、岩トカゲが出てきた。


 名前の通り。


 岩みたいな皮膚をしている。


「剣、通る?」


「通るが面倒だ」


 ロイドが答える。


「じゃあ切れ味強化?」


「頼む」


 今度は簡単だった。


 《切れ味強化》


 ロイドの剣へ付与。


 ついでに。


「バルクは?」


「俺はいい」


「いいの?」


「殴る」


「盾で?」


「ああ」


「……分かった」


 本当に盾で殴り倒した。


 七階。


 景色記録で見た、崩れた石柱。


「あった!」


「何が?」


「石柱」


「あるな」


「これ見たんだよ」


 ステータス画面を開く。


 保存しておいた景色記録。


 目の前を見る。


 画面を見る。


 同じだ。


「おお……」


「そんなに嬉しいか?」


「嬉しい」


 ロイドには分からないらしい。


 俺が作った機能で。


 誰かが残した記録を見て。


 実際にその場所まで来た。


 なんか。


 変な感じがする。


「行くぞ」


「待って」


 俺も一枚。


 景色記録を残した。


「何してるの?」


 エナが覗く。


「俺も記録しておこうと思って」


「同じ場所の記録、いっぱいあるわよ?」


「いいの」


 初ダンジョンなんだから。


     ◇


 八階。


「ここから石殻虫が増える」


 ロイドが言った。


「火属性がいいんだよね」


「調べてたな」


「ちゃんと覚えてる」


 少し進むと。


 いた。


「……虫?」


「石殻虫」


 でかい。


 普通の虫を想像していたけど。


 犬くらいある。


「これ虫って呼んでいいの?」


「虫だろ」


「大きさがおかしい」


 硬そうな殻。


 剣で斬っても弾かれるという話だった。


「エナは?」


「矢も通りにくいわね」


「じゃあ」


 ロイドの剣を見る。


「炎属性?」


「頼む」


 付与。


 《炎属性付与》


 ロイドの剣に赤い光が走った。


「……やっぱりこれ、かっこいいな」


「何が?」


「なんでもない」


 ロイドが踏み込む。


 剣が石殻虫へ。


 硬い殻。


 そこへ炎が走る。


「ギギッ!」


「おお!」


「ユウト、見てないで次!」


「はい!」


 二体目。


 三体目。


 バルクが押さえる。


 ロイドが斬る。


 エナは柔らかい部分を狙う。


 俺は――。


「ユウト! 右!」


「え?」


 石殻虫。


 近い。


 剣を抜く。


 でも。


 普通の剣じゃ。


「自分に付与しろ!」


 ロイドの声。


「あ」


 そうだった。


 俺も付与術師だ。


 自分の剣へ。


 《炎属性付与》


 赤い光。


「うおっ」


 ちょっと熱い。


 いや。


 熱くはない。


 でも熱く見える。


 石殻虫が来る。


「っ!」


 振る。


 殻に当たる。


 炎。


 一撃では倒れない。


「もう一回!」


「分かってる!」


 二撃目。


 石殻虫がひっくり返った。


 腹。


「そこだ!」


「はい!」


 突く。


 動かなくなった。


「…………」


 自分の剣を見る。


 炎が揺れている。


「倒した」


「倒したな」


「俺、ダンジョンでちゃんと戦えてない?」


「だから冒険者だろ」


「Fランクだけど」


「それは知らん」


「いや知ってるだろ」


     ◇


 九階。


 ここまで来ると。


 さすがに疲れてきた。


「あと一階?」


「ああ」


「ダンジョンって帰りも歩くんだよね?」


「当たり前だ」


「聞かなきゃよかった」


 エナが笑う。


「今さら?」


「帰りは転移とか」


「ないわよ」


「ですよね」


 休憩。


 水を飲む。


 パンを食べる。


 壁に背中をつけて座った。


「どうだ?」


 ロイドが聞く。


「何が?」


「初ダンジョン」


「楽しい」


「疲れてるじゃないか」


「疲れるのと楽しいのは別」


「そうか」


 少し休んで。


 立つ。


「行けるか?」


「行ける」


「じゃあ十階だ」


 階段を下りる。


     ◇


「……広い」


 十階。


 今までとは少し違った。


 天井が高い。


 ところどころ。


 壁が淡く光っている。


「魔力晶?」


「違う」


「違うんだ」


「ただの発光苔だ」


「…………」


 ちょっと恥ずかしい。


「魔力晶は奥だ」


 進む。


 何度か魔物と遭遇した。


 でも。


 三人がいる。


 俺も付与する。


 ここまで来る頃には、少し分かってきた。


 何でも強化すればいいわけじゃない。


 相手を見て。


 ロイドたちが何をしたいか聞いて。


 必要なものを付与する。


 俺が決めるんじゃない。


 戦い慣れてるのは三人だ。


「止まれ」


 ロイドが言った。


「着いたぞ」


「え?」


 壁。


 最初は分からなかった。


 でも。


 近づくと。


「……光ってる」


 岩の隙間。


 小さな青白い結晶がいくつもある。


「これが魔力晶?」


「そう」


「おお……」


 触ろうとする。


「待て」


「何?」


「採り方知らないだろ」


「知らない」


「割るなよ」


「危なかった」


 専用の小さな工具を出す。


 バルクが周囲を見る。


 エナも警戒。


 ロイドが採取。


 俺も教えてもらう。


「根元から?」


「そう。無理に引っ張るな」


「はい」


 ゆっくり。


 岩との境目へ工具を入れる。


 少しずつ。


 少しずつ。


 ポロッ。


「あ」


 手のひらに落ちた。


 青白い小さな結晶。


「採れた」


「一個な」


「魔力晶」


「そうだ」


 光にかざす。


 中で。


 何かが揺れているように見える。


「これが魔道具に使われるんだ」


「ああ」


 俺はしばらく見ていた。


「ユウト」


「何?」


「あと九個以上だ」


「はい」


 採取を続けた。


     ◇


 ダンジョンを出た頃には。


 もう夕方だった。


「…………」


 空。


「明るい」


「外だからな」


「知ってる」


 でも。


 何時間も地下にいたから。


 夕方の空なのに、ものすごく明るく感じる。


「帰るぞ」


「ちょっと休もうよ」


「さっき休んだだろ」


「ロイド元気すぎない?」


「慣れてる」


 バルクも普通。


 エナも普通。


 俺だけ疲れてる。


「……冒険者って大変だな」


「今さら何言ってる」


「俺も冒険者なんだけどね」


「Fランクな」


「それ便利に使うのやめて」


     ◇


 王都へ戻った時には。


 すっかり暗くなっていた。


「ただいま……」


 冒険者ギルドへ入る。


「お帰りなさい」


 ミリアだ。


「疲れた」


「楽しめました?」


「楽しかった」


 それは間違いない。


「魔力晶も採れた」


「依頼達成ですね」


「俺も一個採った」


「よかったですね」


「もっと褒めてくれてもいいよ」


「すごいですね」


「適当じゃない?」


 ロイドたちが笑う。


 依頼の処理をする。


 魔力晶を確認してもらう。


 報酬。


 終わり。


「じゃあ俺、帰る」


「ユウトさん」


「ん?」


「その前に」


「…………」


 嫌な予感。


「何?」


「要望が来ています」


「…………」


 ロイドが吹き出した。


「来たな」


「笑うな」


「朝、言ってたもんな」


 エナも笑ってる。


「帰ったら要望が溜まってそうって」


「本当に来るとは思わないじゃん!」


「一件だけですよ」


 ミリアが言う。


「一件……」


 それなら。


「話だけ聞く」


「こちらです」


 受付の端。


 一人の冒険者が座っていた。


 男。


 足にはまだ包帯が巻かれている。


「怪我?」


「はい」


 男が軽く頭を下げた。


「先日、ダンジョンでやられまして」


「ダンジョン?」


 さっきまでいた場所が頭に浮かぶ。


「仲間とはぐれてしまって。足をやられて、動けなくなりました」


「大丈夫だったんですか?」


「なんとか。メールで助けを呼べましたから」


「よかった……」


「ただ」


 男が自分の足を見る。


「その時、思ったことがありまして」


「何です?」


「景色記録です」


「あれ?」


「使いました。自分がいる場所も送りました」


「なら場所は――」


「場所は伝わりました。でも」


 男が包帯を指す。


「自分の怪我を、うまく見せられなかったんです」


「……あ」


 景色は記録できる。


 でも。


 自分自身を記録するとなると。


「それと、魔物がいたんです」


「どんな?」


「三体。俺の周りをずっと徘徊してました」


「それも景色記録で?」


「残しました」


「なら――」


「一枚じゃ、伝わらなかったんです」


「…………」


 男が手で動きを示す。


「こっちから来て、ここを通って、また戻る。しばらくすると別の一体が来る」


「ああ……」


「助けに来てくれる仲間に、それを伝えたかったんです」


 俺は黙った。


 今日。


 大コウモリを見た。


 景色記録で姿は知っていた。


 でも。


 実際に飛んでいるところは全然違った。


 速さ。


 動く方向。


 どんなふうに襲ってくるのか。


 一枚の景色では分からない。


「それで……」


 男が少し言いにくそうにする。


「もし、できるならなんですけど」


「はい」


「ステータス画面を、自分から離れたところに置いておけませんか?」


「置く?」


「固定する、というか」


 俺は自分のステータス画面を見る。


「そうすれば、自分の怪我も記録できると思うんです」


「なるほど……」


「あと」


 男は続けた。


「景色を一瞬だけじゃなくて」


「…………」


「動いてる状態のまま、記録できたらよかったんです」


 俺は男を見る。


 それから。


 自分のステータス画面を見る。


 固定。


 そして。


 動いている景色を。


 そのまま記録する。


「…………」


「ユウトさん?」


 ミリアが呼ぶ。


「聞いてる」


「できますか?」


「たぶん」


 俺は椅子にもたれた。


「でも」


「でも?」


「今日はやらない」


「え?」


「十階層まで行って帰ってきたばっかりなんです」


「は、はい」


「仕様変更すると、結構体力使うんですよ」


「そうなんですか?」


「そうなんです」


 俺は立ち上がった。


「話は分かりました。必要だと思います」


 男が頭を下げる。


「お願いします」


「はい」


 明日。


 考えよう。


 画面をその場に固定する方法。


 そして。


 動いている景色を、そのまま残す方法を。

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