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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第24話 銀貨一枚とパン一つ

第24話 銀貨一枚とパン一つ


 中央貨幣取引所。


 獣人連盟本部へ向かう途中にも見た、大きな建物だ。


 その前には、今も商人たちの列ができている。


 革袋を抱えた人間。


 小さな木箱を持ったドワーフ。


 荷馬車ごと順番を待っている商人までいた。


「すごいな……」


「各国から商人が集まりますからニャ」


 先頭を歩くミーニャが答える。


「そんなに交換するものなの?」


「王国金貨は国ごとに違いますニャ。遠くまで商売に行く方ほど、こちらを利用しますニャ」


「なるほど」


 建物の中へ入る。


 広い。


 いくつもの窓口が横一列に並んでいる。


 その向こうでは、エルフたちが商人から貨幣を受け取っていた。


「○○王国金貨、十二枚です」


「確認いたします」


 受け取った金貨を一枚ずつ確かめている。


 別の窓口では、大きな天秤まで使われていた。


 さらに奥には、大きな扉。


 その左右にもエルフが立っている。


「奥が保管場所ですか?」


「そうです」


 エルシアが答えた。


「大量の貨幣を扱いますので、防護魔法も施されています」


「やっぱり」


「無理に侵入しようとすれば、すぐに分かります」


「……絶対やりません」


「ユウト殿がするとは言っていませんが」


「ですよね」


 なんで自分から言ったんだ、俺。


 案内されたのは、普段は使われていない窓口だった。


 さっき《金庫取引権限》を付与したエルフの一人が、その向こうに座る。


「準備できました」


「では」


 エルシアが俺を見る。


「ユウト殿。お願いします」


「…………」


 やっぱり。


「また俺が試すんですか?」


「あなたが作ったのでしょう?」


「そうですけど」


「仕組みを最も理解しているのもあなたです」


「そうですけど……」


「お願いします」


「……分かりましたよ!」


 セドリックが笑いを堪えている。


 レイヴァンは普通に見ている。


 絶対助けてくれないな、この二人。


「まず《金庫》を作ります」


 俺はステータス画面を開いた。


 市場。


 依頼。


 掲示板。


 メール。


 これまで追加してきた機能が並んでいる。


 そこへ――。


「《付与》」


 ピコン♪


 新しい項目が増えた。


 【金庫】


「できた」


 押してみる。


 表示されたのは、とても簡単な画面だった。


 【金庫】


 残高:0


「今は何も預けてないから当然か」


 俺は腰の袋を開く。


 取り出したのは銀貨一枚。


「じゃあ、これを」


 窓口のエルフへ渡す。


「銀貨一枚、お預かりします」


 エルフが銀貨を確認する。


 そして自分のステータス画面を開いた。


「《金庫取引権限》を使用します」


「はい」


 少し待つ。


 ピコン♪


「あ」


 俺のステータス画面にメールが届いた。


 開く。


 【中央貨幣取引所】


 預入申請


 銀貨一枚をお預かりします。


 【承認する】


 【拒否する】


「ちゃんと来た」


 エルシアが俺の画面を見る。


「内容に間違いは?」


「ありません」


「では承認を」


「はい」


 【承認する】。


 ピコン♪


 もう一度【金庫】を開く。


 【金庫】


 残高:銅貨十枚相当


「おお……」


 銀貨はもう俺の手元にはない。


 でも、その価値だけが画面の中に残っている。


 エルシアが受付を見る。


「そちらは?」


「銀貨一枚、確かに受領しております」


「記録にも?」


「反映されています」


 エルシアが頷いた。


「まず預入は問題ありませんね」


 ボルグが腕を組んで画面を見る。


「だが、金を預けられただけでは意味がないぞ」


「分かってます」


「使えるかどうかだ」


「ですよね」


 俺は【市場】を開いた。


「じゃあ何か買ってみます」


「何を?」


「安いのでいいんですけど……」


 獣人国の店を見ていく。


 食料。


 日用品。


 衣類。


 魔道具。


「魔道具は?」


 ボルグが言う。


「高いです」


「試験だろう」


「俺のお金ですよ!?」


「がははは!」


 絶対楽しんでる。


「あ」


 一つの商品が目に入った。


 【麦風亭】


 焼きたて丸パン 一個


 価格:銅貨三枚


「これにします」


「パンですか?」


「失敗しても被害が少ないので」


「堅実だな」


 レイヴァンが言った。


「Fランクですから」


「そこは関係ないだろ」


 商品を選ぶ。


 購入。


 すると今までとは違う表示が出た。


 【支払い方法】


 金庫から支払う


 銅貨三枚相当


 【承認する】


「出た」


 押す。


 ピコン♪


 【購入が完了しました】


 すぐに【金庫】を確認する。


 残高:銅貨七枚相当


「…………」


「どうしました?」


 セドリックが尋ねる。


「七枚残ってる」


「当然では?」


「そうなんだけど」


 俺は画面を見る。


 銀貨一枚を預けた。


 俺は今、銅貨を一枚も持っていない。


 その状態で銅貨三枚のパンを買った。


 そして残りは――銅貨七枚分。


「……おつり、いらないじゃん」


 セドリックが笑った。


「そのためにここまで来たのですよ」


「……そうだった」


 釣り銭で困った。


 ただ、それだけだった。


 銀貨しか持っていない。


 店側にも細かい貨幣がない。


 そんな小さな問題だった。


 それが。


 国境を越えて。


 獣人連盟まで来て。


 金庫なんてものを作ることになった。


「成功ですか?」


 俺が聞く。


 エルシアは少し考えてから答えた。


「まだです」


「まだ?」


「商品を受け取っていません」


「あ」


 そうだった。


     ◇


 俺は【依頼】を開いた。


 市場で注文された商品は、冒険者ギルドの配達依頼として登録される。


 獣人国にも冒険者ギルドはある。


 探してみる。


 すると。


 【獣人国中央支部】


 商品配達


 依頼元:麦風亭


 配達先:中央貨幣取引所


 商品:焼きたて丸パン 一個


 推奨ランク:F


「…………」


「どうした?」


 レイヴァンが覗き込む。


「あった」


「何が?」


「俺のパン」


「そうか」


「Fランクだ」


「そうだな」


「俺、受けられる」


「やめておけ」


「なんで!?」


「他の冒険者に任せればいいだろう」


「試験ですよ!」


「支払いの試験は終わった」


「配達まで確認しないと!」


「お前、やりたいだけじゃないのか?」


「…………」


「図星か」


「行ってきます!」


「おい」


 依頼を受注した。


 ピコン♪


 【依頼を受注しました】


「行ってきます!」


「待ちなさい」


 エルシアだった。


「はい?」


「一人では場所が分からないでしょう」


「……確かに」


「ミーニャ」


「はいですニャ!」


「案内をお願いします」


「お任せくださいニャ!」


 こうして俺は。


 自分で注文したパンを、自分で取りに行くことになった。


     ◇


「こちらですニャ」


 麦風亭は中央貨幣取引所から、それほど離れていなかった。


 小さな店だ。


 中へ入ると、パンの焼ける匂いがする。


「いらっしゃい!」


「冒険者ギルドの依頼で来ました」


 言ってから。


 なんか変な気分になる。


「おお! 市場の配達だな!」


「はい」


「ちょっと待ってくれ!」


 店主が奥へ行く。


 すぐに紙袋を持って戻ってきた。


「丸パン一個!」


「ありがとうございます」


 受け取る。


「代金は?」


 店主が聞いた。


「あ」


 そうか。


 店側からすれば、そこも気になる。


 俺はステータス画面を見る。


「もう支払い済みになってます」


「本当か?」


 店主も自分の画面を確認する。


「……おお!」


 目を丸くした。


「入ってる!」


「ですよね」


「客から金を受け取ってないぞ?」


「俺が客です」


「ん?」


「いや、なんでもないです」


 説明するとややこしくなる。


「じゃあ、これで?」


「はい。配達に行きます」


「どこへ?」


「中央貨幣取引所」


「近いな!」


「ですよね!」


 店を出る。


 ミーニャが俺を見る。


「ユウト様」


「何?」


「楽しそうですニャ」


「……ちょっとだけ」


 初めて来た国で。


 初めて使う仕組みで。


 自分でパンを注文して。


 自分で配達する。


 何やってるんだろう、俺。


     ◇


「戻りました」


「早かったな」


 レイヴァンが言う。


「近かったので」


 依頼を完了する。


 ピコン♪


 【依頼達成】


 手元にはパン。


 支払いはすでに終わっている。


 釣り銭の受け渡しもない。


 俺は【金庫】を開く。


 残高:銅貨七枚相当


「……ちゃんと七枚だ」


 エルシアが受付のエルフを見る。


「問題は?」


「ありません。預かった銀貨一枚も保管されています」


「店側への支払いも?」


「正常です」


 ガルザが大きく頷いた。


「ならば、仕組みとしては成立しているな」


 ボルグはまだ少し難しい顔をしている。


「各国で動かすとなれば、確認することはいくらでもあるがな」


「もちろんです」


 エルシアも頷いた。


「預かり所の設置には時間がかかります。各国との協議も必要です」


「はい」


「しかし、準備は始めましょう」


「……お願いします」


 俺は頭を下げた。


 銀貨一枚。


 パン一個。


 たったそれだけの試験だった。


 でも。


 これが各国で使えるようになったら。


 市場で買い物をするたびに、釣り銭を心配する必要はなくなる。


 大量の貨幣を持ち歩く必要も減る。


 商人なら、もっと便利になるだろう。


「ユウト」


「はい?」


 レイヴァンが俺の手を見る。


「そのパン、どうするんだ」


「あ」


 忘れてた。


「食べます」


「そうか」


 俺は紙袋から丸パンを取り出した。


 一口。


「……うん」


「どうですかニャ?」


「普通にうまい」


「よかったですニャ!」


 世界で最初に《金庫》を使って買ったものは。


 銅貨三枚のパンだった。


     ◇


「では、戻りましょうか」


 取引所での確認も終わった。


 外へ出る。


 相変わらず商人たちが行き交っている。


 俺はもう一度、巨大な中央貨幣取引所を振り返った。


 何百年も。


 いや、もっと長い間。


 ここで世界中の貨幣を扱ってきたんだろう。


「ユウト様」


 ミーニャが呼ぶ。


「ん?」


「お時間はありますかニャ?」


「あるけど」


「でしたら――」


 ミーニャが中央貨幣取引所の隣を指さした。


 少し古い石造りの建物。


 入口には、小さな看板がある。


 《貨幣資料館》


「貨幣資料館?」


「昔、この大陸で使われていた貨幣が保存されていますニャ」


「昔のお金?」


「はいですニャ」


 俺はセドリックを見る。


「時間、大丈夫?」


「今日の予定はもうありませんよ」


 レイヴァンを見る。


「好きにしろ」


 なら。


「見たいです」


「では、こちらですニャ!」


 ミーニャが尻尾を揺らしながら歩き出す。


 俺もその後を追った。


 扉を開ける。


「…………え?」


 最初に目に入ったのは。


 四角い銅板だった。


 その隣には、真ん中に穴の開いた銀貨。


 さらにその隣。


 細長い金属の棒。


 大きな石。


 貝殻。


 見たこともない紋章が刻まれた巨大な金貨。


「…………これ」


 俺は思わずミーニャを見る。


「全部、お金だったの?」


「そうですニャ」


 どうやら。


 金庫を作ったばかりの俺は――


 今度は、お金の昔話を見ることになったらしい。

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