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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第22話 初旅

王都を出て、三日目。


馬車は広い平原を走っていた。


「まだ七日くらいか……」


俺は馬車の窓から外を見る。


見渡す限りの草原。


遠くには、小さな村が見える。


王都からこんなに離れたのは初めてだった。


「退屈ですか?」


向かいに座るセドリックが聞いてきた。


「いや。むしろ結構楽しいです」


「景色しかありませんよ?」


「その景色が初めてなんですよ」


俺は一応、冒険者だ。


Fランクだけど。


それなのに活動範囲は、ほとんど王都とその周辺。


こうして何日もかけて別の国へ向かうなんて、もちろん初めてだった。


「旅行じゃないぞ」


隣に座るレイヴァンが言った。


「分かってますよ」


「本当か?」


「金庫の話をしに行くんですよね」


「ならいい」


相変わらず真面目な人だ。


今回、レイヴァンが同行することになったのは、ガルドの一言がきっかけだった。


――よし、ついでだ。お前も同行しろ。


――なぜ俺が?


――その方が警戒心の強いエルフも話を聞きやすい。それに護衛にもなる。


半ば強引に決まった同行だった。


でも。


俺としては、ちょっと気になっていることがある。


《黒閃のレイヴァン》。


元Sランク冒険者。


ミリアから聞くまで知らなかった。


本当にそんなに強いんだろうか。


「ユウト」


「はい?」


「さっきから何を見ている」


「なんでもないです」


「……そうか」


俺は窓の外へ視線を戻した。


五日目。


景色は草原から森へ変わった。


背の高い木々の間を、馬車がゆっくりと進む。


道も王都周辺ほど整備されていない。


ガタン。


「うおっ」


馬車が大きく揺れた。


「舌を噛むぞ」


「先に言ってくださいよ」


「今言っただろ」


遅い。


セドリックが小さく笑っている。


さらに森の奥へ進んでいると。


「止めろ」


突然、レイヴァンが言った。


御者が馬車を止める。


「どうしました?」


セドリックが尋ねる。


「いる」


「何が?」


「魔物だ」


俺も窓から森を見る。


何も見えない。


「どこに?」


レイヴァンは答えず、馬車を降りた。


俺も続こうとする。


「お前はそこにいろ」


「はい」


素直に座り直した。


しばらく何も起きない。


風で木々が揺れているだけだ。


本当に何かいるのか?


そう思った瞬間。


茂みが大きく揺れた。


「グオオオオッ!」


大きな獣型の魔物が飛び出してきた。


一体。


二体。


三体――


「え?」


黒い何かが走った。


いや。


レイヴァンだ。


一瞬だった。


三体の魔物が地面に倒れる。


レイヴァンは、もう剣を鞘に戻していた。


「…………」


何が起きた?


「終わったぞ」


「今、何したんです?」


「斬った」


「それは分かります」


「ならいいだろ」


よくない。


俺はセドリックを見る。


「今の見えました?」


「……いいえ」


「ですよね」


レイヴァンが馬車へ戻ってくる。


俺は改めてその顔を見る。


《黒閃のレイヴァン》。


「……本当にSランクだったんですね」


「お前、疑ってたのか?」


「ちょっとだけ」


「降りろ」


「なんで!?」


セドリックが吹き出した。


「冗談だ。行くぞ」


馬車が再び動き始める。


……元Sランクって、本当に強いんだな。


七日目。


今度は山道に入った。


遠くには雪をかぶった山も見える。


途中の宿場町で一泊。


翌日は大きな川を渡った。


さらに山を越える。


十日という旅は長い。


でも、不思議と退屈ではなかった。


見える景色が毎日変わったからだ。


そして――十日目。


「そろそろ見えてきますよ」


セドリックの声で、俺は窓の外を見る。


「……あれ?」


思わず身を乗り出した。


巨大な門が見える。


その向こう。


建物が並んでいた。


しかも――


「高くない?」


王都で見慣れた建物より明らかに高い。


石造りの建物が何階にも積み上がっている。


「ドワーフの建築技術ですよ」


セドリックが答えた。


「獣人の国ですよね?」


「エルフもドワーフも獣人連盟に加盟していますからね」


「そうだった」


馬車が門へ近づいていく。


そして俺は、建物以上のものに気づいた。


「……すごい人だな」


門の前に長い列ができている。


商人たちだ。


荷物を満載した馬車。


大きな木箱。


樽。


布。


見たことのない果物。


何が入っているのか分からない巨大な袋。


それらを積んだ商人たちが、次々と門を出入りしていた。


人間もいる。


ドワーフもいる。


エルフもいる。


犬の耳を持った獣人。


兎の耳を持った獣人。


俺より頭二つ分くらい大きな熊の獣人までいる。


そして、門を抜けた。


「うわ……」


中はもっとすごかった。


広い大通り。


その両側に並ぶ店。


何台もの大型馬車が行き交っている。


あちこちから声が聞こえる。


「北方産の毛皮だ!」


「香辛料が入ったぞ!」


「荷下ろし、こっちを手伝ってくれ!」


王都より人が多い――というのとは、少し違う。


物が動いている。


そんな感じがした。


「世界中から商人が集まる場所ですからね」


セドリックが言った。


「……獣人の国って、もっと違うの想像してました」


「どんな場所を?」


「もっとこう……獣人がいっぱいいて」


「いますよ?」


「そうじゃなくて……」


自分でもうまく説明できない。


馬車を降りる。


すると――


「ユウト様御一行ですかニャ?」


「え?」


声の方を見る。


猫の耳。


腰の後ろでは、細い尻尾がゆらゆらと揺れている。


若い女性が立っていた。


「はい。ユウトです」


「お待ちしておりましたニャ。商人ギルドからのお話は伺っておりますニャ」


「…………」


「どうされましたニャ?」


「いや……なんでもないです」


本当にニャって言うんだ。


「私はミーニャと申しますニャ。獣人連盟本部までご案内いたしますニャ」


「お願いします」


ミーニャについて、大通りを歩く。


歩いているだけでも目移りする。


「……あの列は?」


商人らしい人たちが、大きな建物の前に長い列を作っていた。


「各国から来た商人の方々ですニャ」


「何してるの?」


「主に王国金貨の交換ですニャ。あちらは《中央貨幣取引所》ですニャ」


「中央貨幣取引所……」


俺は建物を見る。


かなり大きい。


入口には護衛らしい獣人とエルフが立っている。


何人もの商人が、小箱や革袋を持って中へ入っていく。


「今日は少ない方ですニャ」


「これで?」


「はいニャ」


すごい場所だ。


さらに歩く。


途中、巨大な虎の獣人とすれ違った。


でかい。


たぶん二メートルを軽く超えてる。


「…………」


思わず振り返る。


「虎族ですニャ」


「強そう」


「強いですニャ」


「ミーニャさんも?」


「私は走るのが少し速いくらいですニャ」


「そうなんだ」


獣人だからって、全員が戦うわけじゃないらしい。


当たり前か。


やがて、大通りの先に巨大な建物が見えてきた。


石造りの柱。


その奥には大きな木が伸びている。


石と木が一緒になったような、不思議な建物だった。


「こちらが獣人連盟本部ですニャ」


中へ入る。


広い。


王都の冒険者ギルド本部よりずっと大きい。


獣人、エルフ、ドワーフ。


様々な種族が行き交っている。


ミーニャは迷うことなく奥へ進んでいった。


大きな扉の前で止まる。


「こちらですニャ」


扉が開いた。


大広間。


その奥に、三人が待っていた。


中央にいるのはエルフの女性。


長い耳。


淡い金色の髪。


見た目だけなら三十歳くらいにしか見えない。


その隣には、立派な髭を蓄えたドワーフ。


もう一人は――


でかい。


さっき見た虎の獣人にも負けないくらい大きな、ライオンの獣人だった。


俺たちが近づくと、エルフの女性が立ち上がった。


「遠路、ようこそお越しくださいました」


静かな声だった。


「獣人連盟、エルフ代表――エルシア・アルヴェインです」


ドワーフが続く。


「ドワーフ代表、ボルグ・ガンデルだ」


最後にライオンの獣人。


「獣人代表、ガルザ・レオンハルト。遠路ご苦労だった」


三人の視線が俺たちへ向く。


そして。


エルシアが俺を見た。


「あなたが、ステータス画面を作った付与術師――ユウトですね」


「……はい」


「商人ギルドから、概要は伺っています」


エルシアは静かに微笑んだ。


「では――詳しいお話を伺いましょう」


配達のおつりから始まった話は。


とうとう、世界の貨幣を守ってきた者たちの前まで来てしまった。

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