↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/35

第20話 おつりがない

第20話 おつりがない


「おつり……どうしよう」


 俺の手には銀貨一枚。


 代金は銅貨七枚。


 財布の中には銅貨一枚。


 どう考えても足りない。


「本当にないの?」


 仕立て屋の女性が聞いてくる。


「ないです」


「困ったわねえ」


「困りました」


 二人で銀貨を見る。


「じゃあ、これでいいわよ」


「ダメですよ」


「銅貨三枚くらい」


「ダメです」


 俺が怒られる。


 たぶん。


「雑貨屋さんに戻って崩してきます」


「あら、悪いわね」


「いえ……」


 商品は置いて。


 銀貨を握って。


 俺は来た道を戻った。


     ◇


「おつり?」


「はい」


 雑貨屋《小鳥の棚》。


 店主が俺の手の銀貨を見る。


「銅貨七枚の商品に銀貨一枚を出されました」


「ああ」


「俺、銅貨一枚しか持ってなくて」


「配達する奴がおつり持ってないのか?」


「持ってないですよ!」


「なんでだ?」


「そんな決まりなかったから!」


「…………」


「…………」


「そういやそうだな」


「そうですよ!」


 店主が銀貨を受け取った。


 代わりに銅貨十枚を出す。


「ほら」


「ありがとうございます」


 そこから銅貨三枚を持って、また仕立て屋へ。


「お待たせしました」


「ごめんなさいねえ」


「いえ」


 銅貨三枚を渡す。


 今度こそ配達完了。


 ……なんだけど。


「これ、ダメだな」


 俺は冒険者ギルドへ戻りながら呟いた。


 近かったからいい。


 でも。


 配達先がもっと遠かったら?


 毎回こんなことをするのか?


「絶対ダメだ」


     ◇


「ということがありました」


「なるほど」


 ミリアが頷いた。


 ギルドマスターもいる。


 そして。


「やはり出ましたか」


 セドリックもいた。


「やはり?」


「いずれ問題になるとは思っていました」


「言ってよ!」


「始めてみなければ分からない部分もあります」


「俺が困ったんだけど」


「貴重な実例です」


「実例にされた」


 セドリックが紙を広げる。


「実は他にも一件」


「もうあったの?」


「こちらは逆です。配達人が銀貨しか持っておらず、客が銅貨で支払った」


「それは問題ないんじゃ?」


「依頼元の店へ銀貨で渡そうとして、店側がおつりを用意することになりました」


「ああ……」


 結局どこかで細かい硬貨が必要になる。


「なら、配達人にあらかじめおつりを持たせればいい」


 ギルドマスターが言った。


「店がおつり用の銅貨を渡す?」


「そうだ」


「それなら……」


 俺は考える。


 できる。


 できるけど。


 セドリックが首を振った。


「注文が一件なら」


「え?」


「十件なら?」


「……たくさん渡す」


「配達人が複数なら?」


「もっと……」


「高額商品なら?」


「…………」


「一日何十件、何百件となれば、店は商品代金とは別に大量の硬貨を用意しなければなりません」


「めんどくさい」


「はい」


「じゃあ、お客さんにぴったり用意してもらう」


 ミリアが言った。


「注文時に『銅貨七枚を用意してください』と表示するのはどうでしょう?」


「それなら簡単」


 俺は頷いた。


 セドリックは少し考える。


「今よりは良いでしょう」


「じゃあ――」


「ただ」


「まだあるの?」


「銅貨七枚を持っていない客は?」


「…………」


 さっきの人だ。


「両替しに行く?」


「商品を届けてもらうために、先に店へ両替へ行くのですか?」


「意味ないね」


「はい」


 難しい。


「そもそも」


 俺は椅子にもたれた。


「なんで配達する人がお金まで運ぶんだろ」


 全員が俺を見る。


「商品だけ運べば楽なのに」


「それでは店が代金を受け取れません」


「それは分かってるけど」


 俺は自分のステータス画面を見る。


 《市場》。


 商品を選ぶ。


 注文する。


 配達依頼が出る。


 届ける。


 そこで初めて支払う。


「注文した時に払えればいいのに」


 セドリックが俺を見る。


「どうやって?」


「…………」


 それが問題だ。


「ステータス画面にお金を入れる?」


 言ってから。


 自分でもよく分からなかった。


「お金を?」


 ミリアが聞く。


「うん」


「硬貨を画面の中に?」


「いや……」


 それは変だ。


 俺は銅貨を一枚取り出した。


 机に置く。


「例えば、この銅貨をどこかに預ける」


「預ける?」


「うん。で、ステータス画面には」


 指で空中に文字を書く。


 【預かり:銅貨一枚】


「みたいに出す」


 セドリックの表情が変わった。


「続けてください」


「え?」


「その先です」


「その先……」


 俺は考える。


 例えば。


 銅貨十枚を預ける。


 【銅貨 10】


 市場で銅貨三枚のパンを買う。


 【銅貨 7】


「注文した時に、代金分だけ預けてあるお金から引く」


「その銅貨三枚は?」


「店の……」


 そこで止まる。


 店側の預かり分へ移す?


 そうすれば。


 配達する冒険者は商品だけ持っていけばいい。


 客から金を受け取らない。


 おつりもいらない。


「それだ」


 ギルドマスターが言った。


 俺も少し興奮してきた。


「これなら銅貨七枚の商品に銀貨一枚しかなくても――」


「先に必要な額を預けておけばいい」


 ミリアが続ける。


「うん!」


「市場以外でも使えるのでは?」


「え?」


「預けてある金額を確認できますよね」


「ああ……できるね」


 セドリックは黙っていた。


 ずっと考えている。


「名前はどうします?」


 ミリアが聞いた。


「名前?」


「その機能です」


「ああ」


 お金を預ける。


 保管する。


「《金庫》?」


「分かりやすいですね」


「じゃあ《金庫》」


 決まった。


「よし」


 俺はステータス画面を開く。


「じゃあ――」


「待ってください」


 セドリックだった。


「え?」


「それは、今ここで作ってはいけません」


「なんで?」


 俺の指が止まる。


「《市場》とは話が違います」


「どう違うの?」


「扱うものが貨幣だからです」


「でも表示するだけですよ?」


「その表示を、人々が貨幣と同じ価値だと信じることになる」


「…………」


 俺は黙った。


「例えばユウトさんの《金庫》に、金貨十枚と表示されている」


「はい」


「その十枚が本当にどこかへ預けられていると、誰が保証します?」


「あ」


「そして店側に金貨十枚分が移った時、本当にその店の金になったと誰が保証するのです?」


「…………」


 そこまで考えてなかった。


 ギルドマスターがセドリックを見る。


「商人ギルドでは無理か」


「我々が勝手に決められる話ではありません」


「王国?」


 俺が聞く。


 セドリックは首を振った。


「獣人連盟です」


「…………獣人?」


「正確には《獣人連盟》です」


「なんで獣人が出てくるの?」


 俺は銅貨を見る。


「これ、人間の国のお金じゃないの?」


「違います」


「え」


 知らなかった。


 セドリックが俺の銅貨を指差す。


「あなたが普段使っている銅貨、銀貨、金貨」


「はい」


「それらを管理しているのは、王国ではありません」


「…………」


「獣人連盟です」


 俺は手の中の銅貨を見る。


 今まで。


 パンを買ったり。


 宿代を払ったり。


 依頼の報酬でもらったり。


 何度も使ってきた。


 そんなこと、一度も考えたことがなかった。


「《金庫》を作るのであれば」


 セドリックが言う。


「まず、彼らに話を通す必要があります」


 おつりがなかっただけなのに。


 なんだか。


 ものすごく大きな話になってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。