第19話 Fランク、配達します
第19話 Fランク、配達します
自分で作った《市場》でパンを注文した。
すると。
冒険者ギルドに依頼が出た。
【新規依頼】
《麦穂のパン屋から冒険者ギルドまで》
商品配達
推奨ランク:F
俺は自分の冒険者カードを見る。
【Fランク】
「…………」
「ユウトさん」
ミリアが笑っている。
「はい」
「受けます?」
「俺が注文したパンなんだけど」
「依頼は依頼です」
「自分のパンを自分で取りに行くの?」
「はい」
「それ、普通に買いに行ってるだけじゃない?」
「最初の試験にはちょうどいいかと」
「…………」
確かに。
「受けます」
「では受注処理しますね」
ピコン♪
【配達依頼を受注しました】
俺は立ち上がった。
「行ってきます」
「いってらっしゃいませ」
「パン買いに行くだけだけどね」
◇
「いらっしゃ――ああ、ユウト君!」
麦穂のパン屋へ入ると、店主がすぐに気づいた。
「配達依頼で来ました」
「おお!」
店主が嬉しそうに奥へ向かう。
「ちょっと待ってくれ!」
店内には焼きたてのパンが並んでいた。
俺はステータス画面を開く。
《市場》。
《麦穂のパン屋》。
蜂蜜パン。
銅貨三枚。
在庫――二十三。
「減ってる」
「そりゃ一個売れたからな!」
奥から声が返ってきた。
俺の分だ。
本当に在庫まで減っている。
「ほら」
店主が小さな紙袋を渡してくる。
「蜂蜜パン一個」
「これを届ければいいんですよね」
「そうだ」
「俺に」
「そうだ」
「…………」
「なんだ?」
「いや」
やっぱり変な気分だ。
店主が笑った。
「だが、こいつは面白いぞ」
「市場?」
「ああ」
店主が自分のステータス画面を開く。
「朝から何人も商品を見てる」
「分かるの?」
「注文はまだお前だけだ」
「俺だけか」
「始まったばかりだからな」
店主は気にしていない。
むしろ楽しそうだった。
「そのうち増えるさ」
「そうかな」
「掲示板だって最初はそうだったろ?」
「……確かに」
俺はパンを受け取った。
「じゃあ届けてきます」
「頼んだ!」
「俺にだけどね」
◇
冒険者ギルドへ戻った。
「配達です」
ミリアの前に紙袋を置く。
「受取人は?」
「俺」
「では、ユウトさん」
「はい」
「商品を確認してください」
紙袋を開く。
蜂蜜の甘い匂い。
「間違いないです」
「では代金を」
「あ」
そうだった。
俺は財布から銅貨三枚を出す。
「これ誰に渡すの?」
「配達人です」
「俺だけど」
「受取人でもありますね」
「…………」
俺は右手から左手へ銅貨三枚を渡した。
「…………」
「…………」
「ミリアさん」
「はい」
「これ意味ある?」
「試験ですから」
「そうだった」
ミリアが笑いをこらえながら、依頼を完了させる。
ピコン♪
【配達完了】
「動きましたね」
「動いた」
ちゃんと。
市場で注文。
店へ依頼が届く。
冒険者が商品を受け取る。
客へ届ける。
代金を受け取る。
仕組みとしては動いている。
「じゃあ」
俺は蜂蜜パンを持ち上げた。
「食べます」
「どうぞ」
「昼飯なので」
「知ってます」
◇
翌日。
「増えてる……」
《市場》を開いた俺は、思わず声を漏らした。
昨日は一軒。
麦穂のパン屋だけだった。
今日は違う。
薬屋。
雑貨屋。
肉屋。
八百屋。
鍛冶屋。
それぞれに、
《商人ギルド認定》
の表示が付いている。
「セドリックさん、仕事早すぎない?」
「商人ギルドでは、かなり注目されているそうですよ」
ミリアが教えてくれた。
商品を見る。
薬屋。
傷薬。
解毒薬。
虫除け。
雑貨屋。
紙。
インク。
ロープ。
水袋。
「紙ある」
ちょうど少なくなっていた。
注文しようかと思ったけど。
「いや、今日は自分で行こう」
「なぜです?」
「配達してもらうほど遠くないし」
市場ができたからって、全部配達してもらう必要はない。
商品があるか確認して。
店へ買いに行く。
それだけでも十分便利だ。
次。
鍛冶屋。
短剣。
剣。
槍。
盾。
「武器まで売ってる」
「鍛冶屋も商人ですから」
「そりゃそうか」
さらに。
「お?」
一軒増えた。
《魔道具店・月灯り》
「魔道具屋!」
開く。
魔力灯。
保温箱。
着火具。
小型送風器。
交換用魔力晶。
「へえ……」
俺は交換用魔力晶を開く。
景色記録が付いていた。
薄青く光る、小さな結晶。
【小型魔力晶】
生活用魔道具などに使用。
消耗後は交換が必要。
「これが魔力晶か」
「見たことありませんでした?」
「たぶんあるけど、ちゃんと見たことはない」
「冒険者ギルドでも採取依頼がありますよ」
「へえ」
「浅いダンジョンでも採れるものがあります」
「ダンジョン……」
俺。
まだ一度も行ったことないんだよな。
「ユウトさん?」
「いや、なんでもない」
また今度ロイドに聞いてみよう。
◇
三日後。
《市場》はさらに増えた。
そして。
「依頼も増えましたねえ」
ミリアが依頼一覧を眺めていた。
【商品配達】
【商品配達】
【商品配達】
【商品配達】
「多っ」
「市場からですね」
「全部?」
「ほとんど街中です」
「ランクは?」
「Fです」
「おお」
これは結構大きいかもしれない。
Fランク冒険者の仕事といえば。
掃除。
荷運び。
採取。
簡単な手伝い。
そこへ新しく、
配達
が加わった。
「人気ある?」
「今のところは」
「なんで?」
「危険が少ないですから」
「ああ」
「それに街に詳しくなれます。新人冒険者には悪くない仕事ですよ」
「なるほど」
俺も一覧を見る。
パン。
薬。
紙。
野菜。
本当に普通のものばかりだ。
「一個やろうかな」
「配達ですか?」
「うん。ちゃんと他の人に届けてみたい」
「では……」
ミリアが一覧を見る。
「こちらは?」
【商品配達】
依頼元――雑貨屋《小鳥の棚》。
届け先――西地区。
商品――紙、インク。
推奨ランク――F。
「それにする」
「では受注しますね」
ピコン♪
◇
雑貨屋で商品を受け取る。
「紙とインクね」
「はい」
「代金は銅貨七枚」
「銅貨七枚」
「ちゃんと受け取ってきてくれよ」
「分かりました」
商品を持って西地区へ。
届け先は、小さな仕立て屋だった。
「配達です」
「あら、もう来たの?」
「雑貨屋からです」
「便利になったわねえ」
女性が商品を確認する。
「紙とインク。間違いないわ」
「では、銅貨七枚です」
「はいはい」
女性が財布を開く。
俺は手を出す。
女性が置いた。
銀貨一枚。
「…………」
俺は銀貨を見る。
女性を見る。
「どうしたの?」
「えっと」
「銅貨七枚でしょ?」
「はい」
もう一度。
銀貨を見る。
銀貨一枚。
代金。
銅貨七枚。
「…………」
俺は自分の財布を開いた。
銅貨。
一枚。
「…………」
足りない。
「おつりは?」
「…………」
考えてなかった。
「細かいの……ありません?」
「ないわよ」
「ですよね」
市場。
作った。
配達。
作った。
商品も届いた。
代金も受け取れる。
でも。
「おつり……どうしよう」
また一個。
問題が増えた。




