第18話 市場を作ろう
第18話 市場を作ろう
「店の商品を、店へ来なくても買えるようにしたいのです」
商人ギルドのセドリックが言った。
その隣には、年配の男。
商人ギルドの幹部らしい。
俺は冒険者ギルドの受付前で、二人を見る。
「買えるように……」
「はい」
「掲示板じゃダメなんですか?」
「商品を知らせるだけなら十分です」
セドリックが自分のステータス画面を開いた。
【お店の情報】
パン屋。
薬屋。
雑貨屋。
鍛冶屋。
宿屋。
ずいぶん増えた。
「今では、これを見て店へ向かう者も珍しくありません」
「俺も見てます」
「存じています」
「なんで?」
「パン屋から聞きました」
「…………」
俺が掲示板を見てパンを買いに行ったことまで知られていた。
「ですが、調査して分かったことがあります」
「何です?」
「店へ行けない客が多い」
セドリックがいくつかの投稿を見せてくる。
『東門から遠い』
『仕事が終わる頃には売り切れている』
『取り置きしてほしい』
『誰か届けてくれない?』
「なるほど」
「逆に店側からも、届けられるなら売りたいという声が出ています」
「だったら届ければいいんじゃ?」
「誰が?」
「…………」
確かに。
「少し場所を移しましょう」
ミリアに案内され、ギルドの奥の部屋へ入った。
中にはギルドマスターもいた。
「来たか」
「なんでギルドマスターまで?」
「冒険者に関係する話になるかもしれんからだ」
「冒険者?」
俺は座る。
ミリアも資料を持って隣に座った。
商人ギルドの二人も向かい側。
なんか。
思ったより大きな話になっている。
「まず我々の希望から説明しましょう」
セドリックが紙を置いた。
「掲示板とは別に、商品を探すための場所が欲しい」
「【お店の情報】がありますよ?」
「そこには宣伝もあります。新商品の話も、店主の日記のようなものも」
「日記?」
「『今日は暇です』と」
「…………」
誰だ。
「それから、『店の猫が寝ています』」
「ハート多そう」
「八百を超えています」
「商品より人気じゃん」
年配の男が咳払いした。
「自由なのは構いません。掲示板とはそういう場所なのでしょう」
「俺もそう思います」
「だからこそ、商売をする場所は分けたい」
「分ける?」
「店と商品だけを見ることができ、そのまま注文できる場所です」
「注文……」
俺は自分の画面を見る。
掲示板。
通知。
景色記録。
いろんなものが増えた。
そこにもう一つ。
店が並ぶ場所。
「市場……」
「はい?」
「《市場》でどうです?」
セドリックが年配の男を見る。
男も頷いた。
「分かりやすい」
「じゃあ《市場》」
名前は決まった。
「問題は何を載せるかです」
「商品でしょ?」
「もちろんです」
セドリックが紙に書く。
店名。
商品名。
値段。
在庫。
「景色記録も付けられますか?」
「できます」
「それは欲しい」
即答だった。
「実物を見ずに買うのです。商品がどんなものか分かった方がいい」
「ああ」
パンならパンの景色記録。
剣なら剣。
服なら服。
魔道具なら魔道具。
「魔道具屋も使うんですか?」
「当然です」
「へえ」
「むしろ興味を示している店は多いですよ。珍しい商品ほど、見てもらう機会が少ないですから」
「なるほど」
俺。
魔道具屋ってあまり行ったことないな。
今度見てみよう。
セドリックが続ける。
「店主が自分で商品を登録できるようには?」
「できます」
「値段の変更は?」
「本人が変えられるようにすれば」
「在庫も?」
「できますね」
「売り切れたら?」
「在庫ゼロ」
「取り下げも?」
「できます」
年配の男が感心したように腕を組む。
「店主自身が管理できるのか」
「その方が俺も楽なんで」
「…………」
「俺が全部やるのは無理です」
「それはそうでしょうな」
ミリアが手を上げた。
「一ついいでしょうか」
「はい」
「誰でも店を出せるのでしょうか?」
「…………」
全員が止まった。
俺も止まった。
「ダメ?」
「ダメでしょう」
ミリアが即答した。
「例えば私が今から」
ミリアがステータス画面を操作する。
「【王都最高級武器店】」
「うん」
「【伝説の剣・金貨一枚】」
「安いの?」
「存在しません」
「ダメじゃん」
「そういうことです」
なるほど。
「では、商人ギルドへ登録している店だけにするのは?」
セドリックが言った。
「登録?」
「我々はもともと、商人や店舗について把握しています」
年配の男が頷く。
「店が実在するか。誰が店主なのか。商売をしている者なのか。それを確認するのは我々の仕事だ」
「じゃあ商人ギルドが確認すればいいんじゃない?」
「できますか?」
「何を?」
「商人ギルドが認めた者だけ、《市場》へ出店できるように」
「…………」
俺は考える。
できる。
前にも似たようなことをやった。
俺一人で全員にステータス画面を付与するなんて無理だった。
だから冒険者ギルドの職員へ、
《ステータス画面付与権限》
を付与した。
今回も同じだ。
「できます」
俺はセドリックを見る。
「商人ギルドの人に、《市場認定権限》を付与します」
「市場認定……」
「その人が認めた商人だけ、市場で商品を出せるようにする」
「なるほど」
「俺、誰が本物の商人か分からないんで」
「それは我々が判断します」
「お願いします」
決まった。
ギルドマスターが口を開く。
「それで商品を注文した後はどうする?」
「…………」
そうだった。
買っただけじゃ届かない。
「店の人が届ける?」
セドリックが首を振る。
「できる店もあります。しかし一人で営業している店も多い」
「家族とか?」
「いない者もいます」
「従業員」
「雇えない店も」
「…………」
年配の男がギルドマスターを見る。
「そこで冒険者ギルドへ相談したい」
「やはりそうなるか」
「商品を運ぶ仕事を、依頼として扱えませんか?」
ギルドマスターが腕を組む。
「配達か」
「はい」
「場所によるな」
「場所?」
俺が聞く。
「街の中なら問題ない」
「うん」
「だが、隣町まで運べと言われたら?」
「あ」
「街道に魔物が出る場所もある。山を越えることもある。護衛が必要な地域もある」
「なるほど」
「全部同じ依頼にはできん」
ギルドマスターが指を一本立てる。
「街中ならFランク」
「!」
俺は反応した。
「なんだ」
「俺、できる」
「できるな」
「配達」
「できる」
ちょっと嬉しい。
最近、ロイドたちについて行くことが多かったけど。
俺はFランクだ。
Fランクでも普通にできる仕事が増える。
「街の外なら、場所に応じて必要ランクを決める」
ギルドマスターが続ける。
「危険な場所なら護衛依頼として扱う場合もあるだろう」
「それで構いません」
セドリックが頷いた。
「では、注文が入ったら冒険者ギルドへ配達依頼を出す仕組みを」
俺は考える。
「できると思います」
「お願いします」
「簡単に言うなあ」
「作れるのでしょう?」
「たぶん」
「ならお願いします」
商人は強い。
ミリアが紙にまとめていく。
《市場》。
商人ギルドが認定した店だけ出店可能。
店主が商品を登録。
値段。
在庫。
景色記録。
客は商品を選んで注文。
注文された商品は、必要なら冒険者ギルドへ配達依頼。
街中ならFランクでも受けられる。
街の外は場所によってランクが変わる。
「だいぶ形になりましたね」
ミリアが言った。
「うん」
俺も紙を見る。
なんか。
普通に大きな仕組みになってる。
「では最後に」
セドリックが言った。
「支払いはどうします?」
「…………」
全員が止まった。
「今まで通りでいいんじゃない?」
俺が言う。
「今まで通り?」
「商品を届けた時に、お金を受け取る」
「配達する冒険者が?」
「うん」
ギルドマスターが考える。
「一時的に代金を預かることになるな」
「ダメ?」
「街中の安い商品なら、そこまで問題にはならんだろう」
「じゃあ、それで」
「高額商品は別に考える必要がある」
セドリックも頷く。
「まずは街中の少額商品から始めるべきでしょう」
「じゃあ決まり」
俺は立ち上がった。
「作ってみます」
「よろしくお願いします」
話し合いが終わった。
ギルドの受付へ戻る。
俺は自分のステータス画面を開いた。
頭の中で形を作る。
掲示板とは別。
商売のための場所。
認定された店。
商品。
値段。
在庫。
注文。
配達。
「よし」
《付与》。
ピコン♪
画面に新しい項目が増えた。
《市場》
「できた」
ミリアが覗き込む。
「もうですか?」
「形だけ」
まだ店は一軒もない。
当然だ。
商人を認定していないから。
「じゃあ次」
俺はセドリックを見る。
「誰に権限を付けます?」
「私で構いません」
「分かりました」
セドリックへ向ける。
「《市場認定権限》――付与」
ピコン♪
セドリックの画面に、新しい表示が出た。
しばらく黙って見ている。
「これで?」
「認定できます」
「試しても?」
「どうぞ」
「では……」
セドリックが操作する。
最初の店。
選んだのは――
あのパン屋だった。
ピコン♪
俺の《市場》に表示が出る。
【認定店舗】
《麦穂のパン屋》
「おお」
店名を押す。
まだ商品はない。
空っぽ。
「店主本人に商品を登録してもらう必要があります」
「では、今から行ってきます」
「今から?」
「早い方がいいでしょう」
商人だなあ。
セドリックは本当にそのまま出て行った。
しばらくして。
俺のステータス画面が鳴った。
ピコン♪
「ん?」
《市場》を開く。
《麦穂のパン屋》
【蜂蜜パン】
銅貨三枚。
在庫 二十四。
《景色記録》
焼きたてのパンが並んでいた。
「…………」
もう売ってる。
その横に。
【注文】
という文字。
押してみたい。
ものすごく押してみたい。
「ユウトさん」
ミリアが言った。
「はい」
「お昼、まだでしたよね?」
「…………」
俺は【注文】を押した。
ピコン♪
【蜂蜜パンを一つ注文しました】
その直後。
冒険者ギルドの依頼受付側で。
ピコン♪
音が鳴った。
ミリアがそちらを見る。
俺も見る。
【新規依頼】
《麦穂のパン屋から冒険者ギルドまで》
商品配達
推奨ランク:F
「…………」
俺は自分の冒険者カードを見る。
【Fランク】
ミリアも俺を見る。
「ユウトさん」
「はい」
「ちょうどいい依頼がありますよ」
「…………」
俺。
自分で作った市場でパンを買って。
自分で作った配達依頼を。
自分で受けることになるかもしれない。




