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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第14話 掲示板の使い方は人それぞれ

第14話 掲示板の使い方は人それぞれ


 商人ギルドの男は、パン屋を出ると次の店へ向かった。


 俺もついていくことになった。


 別についていくつもりはなかった。


「次はどこへ?」


 と聞いただけだ。


「薬屋です」


「薬屋」


「ご興味がありますか?」


「まあ」


「では、ご一緒に」


 そうなった。


 手にはまだパンがある。


 歩きながら食べる。


 男はセドリックと名乗った。


 商人ギルドで、街の店や商品の流れを調べる仕事をしているらしい。


 詳しい役職は聞かなかった。


「掲示板ができてから、ずっと調べてるんですか?」


「ずっと、というほどではありません」


「でも何日か前からって」


「ええ」


 セドリックは歩きながら紙を確認する。


「店の名前や商品を載せる者が出始めましたので」


「ああ」


「客の動きも少し変わりました」


「もう?」


「少しです」


 セドリックはそこで立ち止まった。


 俺も止まる。


 通りの向こう。


 小さな薬屋がある。


 軒先には乾燥させた薬草が束になって吊るされていた。


 扉の横には、青い液体の入った瓶。


 中ではローブ姿の女性が棚を整理している。


「たとえば、あの店です」


「何かあったんです?」


「昨日、解毒薬が入荷したと掲示板へ載せました」


 セドリックが自分のステータス画面を開いた。


【解毒薬入荷しました】


『森蜘蛛、赤牙蛇などの毒に対応しています。在庫十二本』


 《景色記録》


 小さな瓶が十二本並んでいる。


 ♥ 31


「昨日の夕方までに八本売れました」


「売れたなあ」


「普段なら三日ほどかかるそうです」


「へえ……」


 薬屋へ入る。


 薬草の匂いがした。


 少し苦い。


「あら。また来たの?」


 店の女性がセドリックを見る。


「昨日の続きを少し」


「好きねえ」


「仕事ですので」


 セドリックが紙を出した。


「昨日の八本ですが、掲示板を見たと言った客は?」


「五人」


「残り三人は?」


「いつもの客」


「ありがとうございます」


 書く。


「《景色記録》を載せた理由は?」


「瓶を見せた方が分かりやすいと思っただけよ」


「なるほど」


 また書く。


 俺は横で薬草を見ていた。


 赤い葉。


 青い葉。


 なんか棘が生えてるやつ。


 触らないでおこう。


「ユウトさん」


「はい」


「何かお気づきになりましたか?」


「え?」


 セドリックが俺を見ている。


「掲示板を作った方ですので」


「いや……」


 俺は解毒薬の投稿を見る。


「売れたんだなって」


「そうですか」


 セドリックは普通に頷いた。


 それ以上は聞かなかった。


 助かる。


 商売のことは商人の方が分かる。


 次は鍛冶屋だった。


 入った瞬間、暑い。


 奥で火が燃えている。


 大柄なドワーフが槌を振り下ろしていた。


 ガン。


 ガン。


 ガン。


 火花が飛ぶ。


 壁には剣。


 斧。


 短剣。


 盾。


 俺はこういう店の方が好きだ。


 一応、冒険者なので。


「昨日の短剣ですが」


 セドリックが声をかける。


「ああ?」


 ドワーフが槌を置いた。


「売れたぞ」


「何本です?」


「二本」


「掲示板を見て?」


「一人はそう言ってたな」


「もう一人は?」


「知らん。入ってきて、持って、振って、買った」


 セドリックが書く。


「景色記録を載せた短剣ですね」


「そうだ」


 俺も掲示板で探してみる。


【新しい短剣が仕上がった】


『鉄鉱山の北側で採れた鉄を使っている。三本』


 《景色記録》


 黒っぽい短剣が三本。


 飾りはほとんどない。


 ♥ 54


「一本残ってるんです?」


 俺が聞く。


「ああ」


「見てもいい?」


「勝手にしろ」


 手に取る。


 少し重い。


 でも、今使ってる短剣より握りやすい。


「いいなあ」


「買うか?」


「いくら?」


 値段を聞いた。


 戻した。


「また今度」


「Fランクには高かったか」


「なんで分かったの?」


「ギルドのユウトだろ」


「そこまで知られてるの?」


「ステータス画面作ったFランク」


 そこまでセットなのか。


 セドリックが少し笑った。


「有名ですよ」


「Fランクまで広めなくていいのに……」


 鍛冶屋を出る。


 次は宿屋。


 その次は雑貨屋。


 セドリックは同じようなことを聞いた。


 いつ投稿したか。


 何を載せたか。


 《景色記録》は付けたか。


 客は増えたか。


 掲示板を見たと言った客は何人か。


 値段を書いた場合と書かなかった場合。


 俺は途中から、ほとんど聞いているだけだった。


 雑貨屋を出たところで聞く。


「これ、全部調べるんです?」


「全部は無理です」


「ですよね」


「まず二十店ほど」


「けっこう多いな」


「パン、薬、武器、防具、宿、食堂、衣類、雑貨。種類も分けます」


「本格的だ……」


 セドリックが紙の束を揃える。


「まだ何が起きているのか分かりませんから」


「客が増えてるんじゃ?」


「増えた店もあります」


「じゃあ」


「掲示板に載せたから増えたのか、珍しい商品だったから増えたのか、《景色記録》が良かったのか。まだ分かりません」


「ああ……」


「ですので調べます」


 普通だった。


 俺が口を出すところじゃないな。


 その時。


 ピコン♪


 俺のステータス画面が鳴った。


「ん?」


 メールではない。


 掲示板。


 誰かが新しい投稿をしている。


 別に全部通知されるわけじゃない。


 俺は画面を開く。


 なんとなく掲示板を見た。


【かわいい子あげよう!】


「…………」


 何だこれ。


 開く。


『東広場の花屋の子』


 《景色記録》


 花を抱えて笑っている女の子。


 ♥ 67


 返信。


『知ってる。かわいい』


『俺もここで花買ったことある』


『花より本人見てるだろ』


『うるさい』


「…………」


「どうしました?」


「いや」


 閉じようとした。


 新しい返信が増えた。


『俺は南通りの食堂』


 《景色記録》


 料理を運んでいる女性。


 ♥ 89


『分かる』


『ここの煮込みうまいぞ』


『今それ関係ないだろ』


 さらに。


『西門の果物屋』


 《景色記録》


 獣人の女の子。


 頭の上に丸い耳。


 果物を並べている。


 ♥ 124


 返信がどんどん増える。


「……何やってんだ」


 セドリックが俺の画面を見る。


「ああ」


「ああ、なんですか?」


「昨日あたりから、こういう投稿も増えていますね」


「知ってたんですか?」


「掲示板も見ていますので」


「商人ギルドってそこまで見るんだ……」


「人が何に興味を持つかも商売には関係します」


 強い。


 商人強い。


 俺は午後、冒険者ギルドへ戻った。


「ただいま」


「お帰りなさい」


 ミリアが受付にいた。


 いつもの場所。


 いつもの眼鏡。


 書類を読んでいる。


 俺はそのまま通り過ぎようとした。


「あ、ユウト」


 ロイドがいた。


 エナとバルクもいる。


「今日、商人ギルドと一緒だったんだって?」


「なんで知ってるの?」


「パン屋のおっさんが掲示板に書いてた」


「何でも掲示板に書くなあ……」


 ロイドが笑う。


「それより見たか?」


「何を?」


「掲示板」


「見たよ」


「じゃなくて、あれ」


 嫌な予感がした。


「かわいい子?」


「それ」


「見た」


「下の方」


「下?」


 開く。


【かわいい子あげよう!】


 返信が百を超えている。


「増えすぎだろ」


「いいから下」


 指で送る。


 花屋。


 食堂。


 果物屋。


 宿屋。


 魔道具店。


 冒険者。


 エルフ。


 獣人。


 また食堂。


 そして。


『冒険者ギルドならこの人だろ』


 《景色記録》


「…………」


 眼鏡。


 栗色の髪。


 受付で書類を読んでいる。


 顔を上げた瞬間らしい。


 ミリアだった。


 いつ撮ったんだ。


 というか。


「……ミリアさん、こんな感じなんだ」


「毎日見てるだろ」


 ロイドに言われた。


「いや、見てるけど」


 改めて記録されたものを見ると。


 普通にかなりかわいい。


 眼鏡も似合っている。


 受付嬢だから服装もきちんとしている。


 返信。


『分かる』


『この人優しい』


『怒ると怖いぞ』


『それがいい』


『東支部にも噂来てる』


『俺この人に依頼受付してもらったことある』


『羨ましい』


 そして。


 ♥ 1,043


「…………千?」


「すげえだろ」


 ロイドが笑っている。


「他と桁違わない?」


「前から人気あったからな」


「前から?」


「知らなかったのか?」


「知らないよ」


 エナも横から言う。


「ミリアさん目当てで受付に並ぶ人、いるわよ」


「いるの!?」


「いる」


 バルクまで頷いた。


 俺は受付を見る。


 ミリア。


 いつものミリア。


 書類を読んでいる。


 眼鏡を少し上げた。


 確かに。


 いや。


 そういう目で見たことなかった。


「……千かあ」


 もう一度画面を見る。


 ♥ 1,051


「増えてる」


「早いな」


「何の話ですか?」


「うわっ」


 いつの間にかミリアがいた。


「何を見てるんです?」


「いや」


「ユウトさん」


「何でもないです」


 ミリアが俺の画面を見る。


 今は開いている画面なら周囲から見える。


「あ」


「…………」


 ミリアが止まった。


 眼鏡の奥の目が細くなる。


「これ」


「俺じゃないですよ」


「まだ何も言ってません」


「先に言っとこうと思って」


 ミリアが画面を見る。


 自分の《景色記録》。


 ♥ 1,067。


「…………」


「人気者ですね」


「誰が投稿したんですか?」


「そこ?」


「誰です?」


「知らないよ」


 ロイドが後ろを向いた。


 笑ってる。


 エナも口元を押さえている。


 バルクは普通に掲示板を見ていた。


「お、千七十」


「実況しなくていいです!」


 ミリアが眼鏡を押し上げた。


 少し耳が赤い。


 俺は画面を閉じた。


 今は触れない方がいい。


 夕方。


 商人ギルド。


 セドリックは集めた紙を机に並べていた。


 向かいには二人。


 一人は年配の男。


 もう一人は若い女性。


「パン屋は?」


「増加しています」


「薬屋」


「解毒薬は通常より早く売れています。ただし入荷自体が需要の高い品ですので、掲示板だけの影響とはまだ言えません」


「鍛冶屋は?」


「短剣三本のうち二本。一人は掲示板を見て来店」


 年配の男が腕を組む。


「景色を載せた方が反応は多い?」


「今のところは」


「値段は?」


「書いた店の方が、問い合わせは少ないようです」


「なるほど」


 女性が別の紙を見る。


「宿屋も一件、掲示板を見た旅人が来ています」


「まだ少ないな」


「はい」


 セドリックは頷いた。


「もう少し見た方がいいでしょう」


「そうだな」


 年配の男が掲示板を開いた。


 商品。


 冒険情報。


 夕焼け。


 犬。


 猫。


 料理。


 折れた剣。


 かわいい子。


 いろいろ流れている。


「しかし」


 男の指が止まった。


「商売の投稿を探すのが面倒になってきたな」


「はい」


「今はまだいい」


 男は画面を閉じた。


「店側がどう使うか、もう少し調べよう」


「分かりました」


 セドリックが紙をまとめる。


 その横。


 若い女性が自分のステータス画面を見ていた。


「何を見ている?」


「いえ」


 慌てて閉じる。


「仕事中だぞ」


「すみません」


 閉じる直前。


【かわいい子あげよう!】


 ♥ 1,214


 ミリアの数字は、また増えていた。

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