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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第12話 出発前に掲示板を見る

第12話 出発前に掲示板を見る


 今日は冒険に行く。


 絶対に行く。


 俺はそう決めて、いつもより少し早く冒険者ギルドへ向かった。


 腰には短剣。


 小さな荷物袋。


 水筒も持った。


 準備は完璧だ。


 ギルドの扉を開ける。


「おはようございます」


「あ、ユウトさん。おはようございます」


 受付にいたミリアが顔を上げた。


 俺は警戒した。


「……今日は何もないですよね?」


「何がです?」


「会議とか」


「ありませんよ」


「上の人が来たりとか」


「聞いてません」


「急ぎの相談とか」


「今のところは」


 よし。


 行ける。


 今日は俺も冒険者だ。


「おーい、ユウト」


 奥のテーブルからロイドが手を上げた。


 エナとバルクもいる。


 俺はそちらへ向かった。


「待った?」


「いや。今から出るところだ」


 ロイドの前には依頼書が置かれている。


 西側にある森。


 最近、植物系の魔物が増えているらしい。


 街道そのものにはまだ被害はないが、森へ薬草を採りに入る人間が襲われているという。


「討伐?」


「調査が半分だな。見つけたら数を減らす」


「分かった」


 エナは何も言わず、目の前にステータス画面を開いていた。


 少し前なら、空中に向かって指を動かしているようにしか見えなかった。


 今は違う。


 半透明の画面。


 そこに文字が並んでいる。


 エナの指が《掲示板》を動かしていた。


「何かあった?」


「ちょっと待って」


 エナが画面を止めた。


「あ」


「どうした?」


「これ」


 ロイドとバルクも覗き込む。


 俺も横から見た。


 表示されていたのは一つの投稿だった。


【西街道の石橋、通行できません】


『昨日の大雨で橋の中央が崩れています。荷馬車はもちろん、人も渡れません』


 その下には《景色記録》。


 石造りの橋の真ん中が、見事に崩れていた。


 川の水もかなり増えている。


「……あ」


 ロイドが依頼書を見る。


 もう一度、掲示板を見る。


「この橋使う予定だったぞ」


「そうね」


 エナが言った。


「じゃあ南から回りましょう」


「ちょっと遠くなるな」


 バルクが地図を広げた。


「でも、この橋まで行ってから戻るよりいい」


「だな」


 ロイドが立ち上がる。


「今ここで分かってよかった。あそこまで行ってから引き返してたら、半日は潰れてたぞ」


 普通に話が進んでいく。


 俺は三人を見た。


「……みんな、出発前に掲示板見るようになったんだ?」


 三人がこっちを見た。


「そりゃ見るだろ」


 ロイドが言った。


「昨日の街道が今日も通れるとは限らないからな」


「森の魔物の情報も出るし」


 エナが続ける。


「他の冒険者が見つけた危険な場所も分かる」


「便利だぞ」


 バルクも言った。


「……そう」


 俺が作ったんだけど。


 とは言わなかった。


 なんとなく。


 もう、そういう感じじゃなかった。


 ロイドが依頼書を丸める。


「行くぞ」


「うん」


 俺たちはギルドを出た。


 南門から街の外へ出る。


 本来なら西門から街道を進む予定だった。


 少し遠回りになるが、南の街道から途中で西へ抜ける道があるらしい。


 街道には朝から人が多かった。


 荷馬車。


 旅人。


 冒険者。


 大きな籠を背負った獣人。


 杖を持った老人。


 遠くでは、二頭の大きな鳥に荷物を載せている商人もいる。


 エナが歩きながらステータス画面を開いた。


「エナ」


「何?」


「歩きステータス」


「あ」


 エナが画面を閉じた。


 ロイドが笑った。


「作った本人が言うと説得力あるな」


「昨日、馬車に轢かれかけたからね」


「知ってる」


「なんで?」


「掲示板に書いてあった」


「誰が書いたの!?」


 誰だ。


 俺は投稿してないぞ。


 あとで探そう。


 いや、歩きながらはやめておこう。


 昼前には森へ着いた。


 街の近くとはいえ、木々はかなり深い。


 森に入ると、空気が少し冷たくなった。


 ロイドが先頭。


 その少し後ろをバルク。


 エナは周囲を見ながら歩いている。


 俺は真ん中。


「この辺から注意な」


 ロイドが声を落とした。


 俺も短剣の柄に手を置く。


 今日はちゃんと冒険者をやっている。


 まだ何もしてないけど。


 少し進んだところで、エナが止まった。


「いる」


「どこ?」


「右。奥」


 見ても分からない。


 木。


 草。


 木。


 葉っぱ。


 俺にはそれくらいしか見えない。


 エナが弓を構える。


 ロイドも剣を抜いた。


 バルクが盾を前へ出す。


 少し遅れて。


 がさっ。


 茂みが動いた。


 緑色の蔓が伸びてくる。


「うわっ」


 バルクの盾に絡みついた。


 さらに二本。


 三本。


「こいつか!」


 ロイドが蔓を斬る。


 切れた蔓が地面で跳ねた。


 奥から、ゆっくり何かが出てくる。


 太い茎。


 大きな葉。


 中央には赤黒い花。


 花の真ん中が割れた。


 歯みたいなものが並んでいる。


「……植物?」


「魔物だ」


 ロイドが答える。


 分かってる。


 見た目の話だ。


 また蔓が飛んだ。


 バルクが盾で受ける。


 一本。


 二本。


 さらに足へ。


「ちょっと多いな!」


 バルクが踏ん張る。


 ロイドが叫んだ。


「ユウト! バルクに腕力、頼む!」


「分かった!」


 俺はバルクへ手を向ける。


「《腕力強化》!」


 ピコン♪


 バルクの身体が淡く光った。


「おっ」


 盾に絡みついた蔓を、そのまま腕力で引く。


 ぶちっ。


 何本かまとめて千切れた。


「いいな、これ!」


「まだ来る!」


 エナの矢が飛ぶ。


 花の横へ刺さった。


 だが止まらない。


「植物なら……」


 俺が言うと、ロイドが振り返った。


「火、いけるか?」


「やってみる!」


 俺はロイドの剣を見る。


「《炎属性付与》!」


 ピコン♪


 剣身に赤い光が走った。


 次の瞬間、炎がまとわりつく。


「熱っ」


「大丈夫!?」


「剣は持てる!」


 ロイドが踏み込んだ。


 横薙ぎ。


 燃える剣が蔓をまとめて断ち切った。


 火が葉へ移る。


 魔物が大きく身体を揺らした。


「効いてる!」


 エナの矢。


 バルクが盾で押す。


 ロイドがもう一度、剣を振る。


 赤黒い花が斜めに裂けた。


 しばらく蔓が地面を這っていた。


 やがて止まった。


「……終わった?」


「ああ」


 ロイドが剣を振る。


 炎が消えていく。


「やっぱ便利だな、お前の《付与》」


「俺も戦った方がいい?」


「いや」


 即答だった。


「今のでいい」


「……そう」


 短剣。


 一回も抜かなかった。


 まあいい。


 冒険には来た。


 その後、同じ魔物を二体見つけた。


 一体はエナが早めに見つけたので、遠くから仕留めた。


 もう一体はロイドとバルクが倒した。


 俺は途中でエナに《脚力強化》を付与した。


 それくらい。


 森を出る前に、ロイドがステータス画面を開く。


「一応、載せとくか」


「掲示板?」


「ああ」


【西の森で植物系の魔物を確認】


『街道までは出ていない。森に入る奴は注意』


 エナが《景色記録》を添える。


 倒した魔物。


 特徴的な赤黒い花がよく見える。


 投稿。


 ピコン♪


「これでいいだろ」


「うん」


 俺はその投稿を眺めた。


 朝、俺たちは誰かの投稿に助けられた。


 今度は俺たちの投稿を、別の誰かが見る。


 それだけだった。


 夕方。


 ギルドへ戻った。


「お帰りなさい」


 ミリアが受付から声をかける。


「今日はちゃんと冒険できましたね」


「ちゃんとって何」


「そのままの意味です」


 依頼の報告を済ませる。


 植物系の魔物三体。


 目撃場所。


 数。


 街道までは出ていないこと。


 報酬を受け取った。


 俺は冒険者カードを見る。


【冒険者ランク:F】


 変わってない。


 知ってた。


「じゃあ飯でも食って帰るか」


 ロイドが言った。


「行く」


「私も」


「俺もだ」


 四人でギルドを出ようとした。


「あ、そうだ」


 ロイドが足を止めた。


「ユウト」


「何?」


「朝の橋の投稿なんだけどさ」


「橋?」


「崩れてたやつ」


「ああ」


 ロイドがステータス画面を開く。


 朝の投稿を探す。


【西街道の石橋、通行できません】


 あった。


「これ載せてくれた奴に、礼を言う方法ってないのか?」


「礼?」


「ああ」


 ロイドが投稿を見る。


「こいつのおかげで半日無駄にしないで済んだだろ」


「うん」


「助かったって言いたいんだけど」


 ロイドが《知り合い》を開いた。


「誰が書いたのかは分かる。でも、俺は会ったことないから《知り合い》にはいない」


「ああ……」


 メールは送れない。


 掲示板にも、今のところ投稿へ返事をする機能はない。


 できるのは。


 読む。


 投稿する。


 《景色記録》を付ける。


 それだけ。


 ロイドが俺を見る。


「掲示板のところで直接、『助かった』って言えないのか?」


「…………」


 俺は橋の投稿を見る。


 その下には何もない。


「できないね」


「そうか」


「今は」


 ロイドがこっちを見る。


 俺もステータス画面を見る。


 何かを思いつくと。


 また仕事が増える。


「…………」


「ユウト?」


「いや」


 画面を閉じた。


「今日は飯食べよう」


「おう」


 明日考える。


 今日はちゃんと冒険者だったんだから。

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