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『異世界付与術師 ~ステータス画面に新機能を付与していたら、世界がどんどん便利になっていく~』  作者: ネコロビン


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第10話  見た景色を伝えたい

「ユウトさん」


「はい」


「ちょっと来てもらえます?」


「……はい」


 昼飯を食べ終わった直後だった。


 最近、この呼ばれ方には慣れた。


 だいたい何かある。


 ユウトは椅子から立ち上がった。


 ミリアについて受付の方へ向かう。


 一人の冒険者が待っていた。


 革鎧。


 腰に短剣。


 背中には弓。


 泥だらけだった。


 靴なんて、元の色が分からない。


「この人です」


「どうも」


「ああ」


 男が軽く手を上げた。


「迷いの森から戻ったところだ」


「迷いの森?」


 聞いたことはある。


 街から北東。


 名前の通り、道に迷いやすい森だ。


 薬草や魔物の素材が採れるので冒険者は入るが、奥へ行く者は少ない。


「そこで新しいダンジョンを見つけたそうです」


「新しい?」


「ああ」


 男が頷いた。


「少なくともギルドには登録されてない」


 ミリアが紙を見た。


「確認しました。現在登録されているダンジョンとは一致しません」


「すごいじゃないですか」


「まあな」


 男が少し笑った。


 でも、すぐ困った顔になる。


「問題は場所なんだよ」


「場所?」


「説明できねえ」


「…………」


「迷いの森だからな」


「ああ」


 それはそうか。


 男は受付台にあった紙を一枚借りた。


「北側から入った」


「はい」


「しばらく真っ直ぐ行く」


 指で紙の上をなぞる。


「で、でかい木がある」


「どんな木です?」


「でかい木」


「…………」


「本当にでかいんだよ」


「他には?」


「枝が……こう」


 男が両腕を広げた。


「こう?」


「いや、もっとこうだ」


 少し角度を変える。


「…………」


「分からんよな」


「はい」


「俺も説明してて無理だと思った」


 ミリアが小さく息を吐いた。


「その木から西へ進むそうです」


「西って分かるんですか?」


「だいたい」


「だいたい」


「森の中だからな」


「ですよね」


「そのあと黒い岩がある」


「それは分かりやすそうですね」


「黒い岩なんて何個もある」


「…………」


「それを越えて、少し下る。小川があるから渡って、その先に――」


 男が止まった。


「いや」


「はい」


「無理だ」


 紙を置いた。


「俺が案内する」


「それが確実ですね」


 ミリアも頷いた。


「調査隊を編成して――」


「ただな」


 男が頭を掻いた。


「俺が毎回案内するのか?」


「最初の調査だけなら」


「そのあと他の奴が行く時は?」


「…………」


 ミリアも止まった。


「ギルドで詳しい道順を記録します」


「今の説明を?」


「…………」


「無理だろ」


「難しいですね」


「だろ?」


 男がユウトを見る。


「何とかならないのか?」


「俺ですか?」


「ステータス画面作った奴なんだろ?」


「作ったというか……」


「メールもあるし」


「ありますけど」


「俺が見たものを、そのまま見せたりできねえの?」


 ユウトが止まった。


「見たもの?」


「ああ」


 男がまた両腕を広げる。


「でかい木も、黒い岩も、ダンジョンの入口も」


 自分の目を指差した。


「俺が見た景色を、そのまま他の奴に見せられれば早いだろ」


「…………」


 ユウトは男を見る。


 それから何もない空中を見る。


「写真……」


「しゃしん?」


「あ、いや」


 ユウトはステータス画面を開いた。


 今はまだ、周りには見えていない。


「できるかな」


 指を動かす。


「何をしてるんです?」


 男が聞く。


「ちょっと考えてます」


「また何か増やすんですか?」


 ミリアが聞いた。


「まだ分かりません」


「またですか」


 ユウトは少し考えた。


 写真。


 と言っても、この世界には写真なんてない。


 画像。


 それも違う。


 見たもの。


 景色。


「《景色記録》……とか?」


「何です、それ」


「そのままです。見てる景色を残す」


 男が身を乗り出した。


「できるのか?」


「だから、まだ分かりませんって」


 ユウトは入力する。


『ステータス画面を向けた先の景色を、その時の状態のまま記録して、あとからステータス画面に表示できる機能を追加する』


 少し待つ。


 表示が変わった。


【新機能景色記録を追加します】


【ステータス画面を向けた先の景色を記録し、保存します】


【記録した景色はステータス画面上で確認できます】


【承認しますか?】


「……できそう」


「本当か?」


「たぶん」


 承認はまだ押さなかった。


 ユウトは手を止めた。


「どうしました?」


 ミリアが聞く。


「これ作っても」


「はい」


「どうやって他の人に見せるんだ?」


「…………」


 三人とも黙った。


「メールで送れないのか?」


 男が言った。


「できるようにすれば送れると思いますけど」


「じゃあ、それでいいんじゃないか?」


「調査する人全員に?」


「…………」


 男も止まった。


「ギルドから必要な冒険者に送ります」


 ミリアが言った。


「それでもいいですけど」


 ユウトは画面を見た。


 新しいダンジョン。


 こういう情報を欲しい冒険者は多いはずだ。


 全員へ一人ずつメールする。


 違う。


「一か所に置いとけばいいんじゃないかな」


「置く?」


「情報を」


 ユウトは少し考えた。


「誰でも見られる場所を作るんですよ」


「誰でも?」


「ステータス画面を持ってる人なら」


 男が腕を組んだ。


「そこにダンジョンのことを書く?」


「そうです」


「で、俺が記録した景色も?」


「一緒に載せる」


「それはいいな」


 早かった。


 ミリアは少し考えている。


「ギルドの掲示板みたいなものですか?」


 ユウトがミリアを見る。


「あ」


 それでいい。


「掲示板」


「はい」


「その名前でいいですね」


「名前?」


「《掲示板》」


「そのままですね」


「分かりやすいでしょ」


 ユウトは新しく入力を始めた。


『ステータス画面所有者が共通して閲覧できる《掲示板》を追加する』


 続ける。


『ステータス画面所有者は掲示板へ題名と文章を投稿できる』


 少し考える。


『《景色記録》で記録した景色を投稿に添えることができる』


 そこで止めた。


 ミリアが聞く。


「それだけですか?」


「とりあえず」


「何か決まりは?」


「決まり?」


「誰が書けるとか」


「ステータス画面持ってる人なら誰でも」


「書いたものを探したりは?」


「……まだいいんじゃないですか?」


「種類ごとに分けたり」


「必要になったら」


「書いた人に返事をしたり」


「必要になったら!」


「分かりました」


 ユウトは画面を見る。


 文字が出た。


【新機能掲示板を追加します】


【ステータス画面所有者は《掲示板》を閲覧できます】


【ステータス画面所有者は題名と文章を投稿できます】


【投稿には《景色記録》を添付できます】


 その下。


【新機能景色記録を追加します】


【ステータス画面を向けた先の景色を記録できます】


【記録した景色は保存・確認できます】


【《掲示板》への投稿に使用できます】


【承認しますか?】


 ユウトは読んだ。


「たぶん大丈夫」


「その“たぶん”怖いな」


 男が言った。


「俺だって初めてなんですよ」


「俺もだよ」


「じゃあ押します」


「おう」


 ユウトは承認に触れた。


 ――ピコン♪


 ギルドの中で音が鳴った。


 一つじゃない。


 ――ピコン♪


 ――ピコン♪


 ――ピコン♪


「うお」


「何だ?」


「なんか来たぞ」


 冒険者たちが一斉に空中を見る。


 受付の職員も。


 ミリアも。


 目の前の男も。


 そして。


 ギルドの外からも聞こえた。


 ――ピコン♪


 ――ピコン♪


 道の向こうから。


 店の中から。


 誰かの声。


「なんか増えたぞ!」


「掲示板?」


「景色記録って何だ?」


 ユウトはギルドの入口を見る。


「……一般にも普及したんだった」


「そうですね」


 ミリアが自分の画面を操作している。


「全員に追加されたみたいです」


「うわあ」


「何ですか?」


「いや」


 思ったより多いな。


 もう冒険者だけじゃない。


 街中にいる人たちのステータス画面へ、今の二つが追加された。


「で」


 男が言った。


「どうやって使うんだ?」


「試します?」


「何撮る?」


「撮る?」


「あ」


 ユウトが口を閉じる。


「景色を記録するんですよね?」


 ミリアが言った。


「そう。記録」


 男がギルドの入口を見る。


「外の方がいいな」


 三人で外へ出た。


 昼の通り。


 荷馬車が走っている。


 獣人の子供が母親と歩いている。


 向かいのパン屋から焼いたパンの匂いがした。


「どうする?」


「ステータス画面を記録したい方へ向けて」


「見えねえぞ」


「本人には見えてます」


「ああ、そうだった」


 男が何もない空中へ手を伸ばす。


 少し動かした。


「これでパン屋が入ってるのか?」


「たぶん」


「たぶんばっかりだな」


「初めてなんだからしょうがないでしょ」


 男が笑った。


「《景色記録》」


 ――ピコン♪


「お」


 操作する。


「……すげえ」


「見せてください」


「どうやって?」


「…………」


 ユウトと男が止まった。


 ミリアが横でため息をついた。


「掲示板に載せれば見られるんじゃないですか?」


「あ」


「そうだった」


「何のために作ったんですか」


 男が掲示板を開いた。


「何て書く?」


「試しだから何でも」


 男が入力する。


【景色記録の試し】


『ギルド前から向かいのパン屋を記録してみた』


 景色記録を付ける。


「投稿するぞ」


「どうぞ」


 押した。


 ――ピコン♪


 ユウトが自分の《掲示板》を開く。


 何もなかった場所に、一つだけ投稿があった。


【景色記録の試し】


『ギルド前から向かいのパン屋を記録してみた』


 その下。


 見慣れたパン屋。


 店先。


 看板。


 通りを歩いていた獣人。


 ちょうど店から出てきたパン屋の主人まで残っている。


「おお……」


 ユウトは少し見た。


「ちゃんと残ってる」


「俺にも見せろ」


「自分の掲示板にありますよ」


「あ、そうか」


 男も開いた。


「すげえな」


 パン屋の主人がこちらへ歩いてきた。


「なあ」


「はい?」


「今なんか新しいの来たんだけど」


「《掲示板》と《景色記録》です」


「掲示板?」


「みんなが文章を書けるところです」


「へえ」


 主人が空中へ指を動かす。


「あ」


 止まった。


「うちの店じゃねえか」


「試しに」


「俺もいるぞ」


「ちょうど出てきたので」


「なんだこれ」


 店主は笑っていた。


「面白いな」


 また指を動かす。


「俺も何か載せていいのか?」


「いいですよ」


「パンでも?」


「……まあ」


 ユウトは少し考えた。


「いいんじゃないですか?」


「じゃああとでやってみる」


 店へ戻っていった。


 ユウトはその背中を見送った。


「さて」


 ミリアが言う。


「本題をお願いします」


「あ」


 泥だらけの冒険者を見る。


「そうだった」


「忘れてたのかよ」


「忘れてないですよ」


「今忘れてただろ」


 男が笑った。


「じゃあ、もう一回迷いの森に行ってくる」


「今日?」


「いや。明日だ。さすがに疲れた」


「ですよね」


「今度は途中の目印を全部、景色記録に残してくる」


「お願いします」


「ダンジョンもな」


「それが一番重要です」


「分かってるよ」


 男は手を振ってギルドへ戻っていった。


 ◇


 翌日の夕方。


 ユウトはギルドの奥で書類を見ていた。


 最近、書類を見る時間が増えた。


「俺、何の仕事してるんだろ」


 誰も答えない。


 ――ピコン♪


「あ」


 ステータス画面を開く。


【掲示板・新規投稿】


 題名を見た。


【迷いの森で新ダンジョン発見】


 ユウトは手を止めた。


 投稿を開く。


『昨日報告したダンジョン。もう一度行ってきた』


『北側から迷いの森へ入る』


『途中に大きく三つに枝分かれした木がある』


 《景色記録》


 本当に大きな木だった。


 昨日、男が両腕を広げて説明していたものとは全然違う。


「これは言葉じゃ無理だわ」


 次。


『この黒い岩場を越える』


 《景色記録》


 黒い岩がいくつも並んでいる。


 さらに。


『小川を渡ってしばらく進む』


 《景色記録》


 そして最後。


『ここだ』


 《景色記録》


 薄暗い森。


 苔に覆われた巨大な岩壁。


 その中央に、ぽっかりと黒い穴が開いていた。


 人工物なのか自然にできたものなのか。


 入口の両側には、崩れかけた石柱のようなものも見える。


 奥は暗い。


 何も見えない。


 ユウトは少しだけ画面へ顔を近づけた。


「……ちゃんとダンジョンだ」


 後ろから足音がした。


「ユウトさん?」


 ミリアだった。


「来ましたよ」


「何がです?」


「昨日の」


 ユウトは反射的にステータス画面をミリアの方へ向けた。


「これ」


「…………」


 ミリアは何もない空中を見る。


「何です?」


「あ」


 まだ見えないんだった。


「掲示板開いてください」


「はい?」


「新しいダンジョン」


「ああ」


 ミリアが自分のステータス画面を開く。


 投稿を見つけた。


 少し黙る。


「これが……」


「昨日、あの人が見た景色です」


「ずいぶん大きいですね」


「ですね」


 ミリアは一枚前へ戻った。


「この木なら、見つければ分かりそうです」


「説明よりは全然」


「調査隊にも知らせます」


「お願いします」


 ミリアはそのまま受付へ戻ろうとした。


 途中で止まる。


「ユウトさん」


「はい」


「掲示板、もう他にも投稿がありますよ」


「え?」


 ユウトは画面を見る。


 さっきは新ダンジョンしか見ていなかった。


 戻る。


【迷いの森で新ダンジョン発見】


 その下。


【今日倒したオーガ】


 その下。


【王都から来た冒険者と知り合いになった】


 その下。


【今日の夕飯】


 その下。


【うちの犬】


「…………」


 ユウトは画面を眺めた。


「早くない?」


 ミリアも自分の画面を見ている。


「もう使い方を覚えたみたいですね」


「ダンジョン情報のために作ったんだけどな」


「誰でも投稿できるようにしたの、ユウトさんですよ」


「そうですけど」


 ――ピコン♪


 また一つ増えた。


【酒場で珍しい酒を見つけた】


 《景色記録》付き。


 ユウトはしばらく見ていた。


「…………まあ、いいか」


 今のところは。


 ミリアは受付へ戻っていった。


 ユウトも書類へ戻る。


 ――ピコン♪


「…………」


 顔を上げる。


 ――ピコン♪


「…………」


 もう一度、掲示板を見る。


 新しい投稿が増えていた。

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