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アイゼン砦の影――捨てられた魂の声

ナリア要塞を出立し、公爵領の境界へと軍を進めるアヴァンたち。その行く手に、巨大な断崖を削り取って造られた漆黒の要塞が姿を現した。


「……あれが、アイゼン砦。公爵領の喉元を守る、最古にして最強の防衛拠点よ」


馬を並べるセレスティアが、苦々しくその名を口にした。

 アイゼン砦。かつてはアヴァンの母、ナリアが領民を守るための「盾」として慈しんだ場所だった。しかしナリアが追放された後、公爵の手によって改築され、今は立ち入る者を「虚無」に呑み込む処刑場へと変貌している。そこを突破しなければ、公爵の住む本城へと至る道は開かれない。


「母様が守ろうとした場所を、父様は……。……行こう、バルト。まずはあの砦を目指すんだ」


「かしこまりました、坊ちゃま。ですが、その前に……少し気になる気配がございます」


先頭を行くバルトが、ふと手綱を引いた。街道から外れた、霧の深い谷底。そこには、地図にも載っていない名もなき廃村が沈んでいた。


【廃村の守護者:マモルとの遭遇】

かつて炭焼きで生計を立てていたであろうその村は、今や公爵の放った「虚無」の余波に晒され、家々は腐食し、草木は黒く立ち枯れている。


「……酷い。ここには、もう誰もいないの?」


馬を止めたアヴァンが、悲しげに村を見渡す。

 セレスティアが鋭い視線で周囲を警戒しながら、静かに首を振った。


「生存者の気配はないわ。でも……妙ね。村の中央だけ、不自然なほど『虚無』の侵食が食い止められている形跡がある」


「左様でございますな。……何か、強力な『残留思念』がこの場所を繋ぎ止めているようです」


バルトが馬を降り、燕尾服の裾を汚さぬよう軽やかに荒れ地を進む。アヴァンたちもそれに続き、村の広場へと向かった。そこで一行が目にしたのは、一体の**「壊れかけた魔導人形オートマタ」**だった。


全身を錆びた真鍮の装甲で覆い、左腕は脱落し、右脚も膝から下が失われている。その人形は、村の唯一の井戸を守るように座り込み、今にも消え入りそうな淡い燐光を放っていた。


「……オートマタ? それも、かなり古い型ね。公爵家が数十年前に試作して、出力不足で破棄したはずの『ガーディアン・シリーズ』だわ」


セレスティアが驚きを露わにする。その人形の胸部には、公爵家の紋章が刻印されていたが、その上から誰かが彫ったような拙い文字で「マモル」と刻まれていた。


「マモル……。この子の名前かな?」


アヴァンが歩み寄ろうとしたその時、周囲の空間が激しく歪んだ。

 黒い霧の中から、実体を持たない魔物「虚無のシェイド・ハウンド」が数体、音もなく這い出してくる。獲物を求めて彷徨う公爵の呪いの残滓だ。


「……アヴァン、下がって!」


セレスティアが剣を抜こうとした瞬間。

 ガガギィィ……! と不快な金属音を立てて、壊れかけの人形が動き出した。


『……シュ……守ル……。……村ノ……ミンナ……守ル……!』


人形の目に宿る赤い光が、最期の力を振り絞るように明滅する。

 右腕一本で地面を這い、アヴァンたちの前に立ちはだかる人形。その背後にある井戸の中には、かつてこの村の子供たちが隠したであろう、古びた手作りのおもちゃが大切に仕舞われていた。


「この子は……村の人がいなくなった後も、ずっと約束を守り続けてたんだ」


アヴァンの胸に、熱い感情が込み上げる。

 ハンスやリリも、その人形の「意志」に呼応するように実体化した。


『……根性のある鉄屑じゃねぇか。おいリリ、あいつを援護するぞ!』


『分かってるわよ、ハンス! アヴァン、聖杯の力、貸して!』


「うん! ……みんな、力を合わせよう!」


【戦闘:廃村の防衛戦】

アヴァンが聖杯を掲げ、白銀の光を広場全体に放射する。

 ハンスの盾が人形の前に展開され、リリの風が虚無の獣たちを切り裂く。そしてバルトが影から音もなく現れ、獣たちの核を正確に暗器で撃ち抜いていく。


だが、人形の限界は近かった。胸部の魔力炉が過負荷で火花を散らし、装甲が崩れていく。

 アヴァンは咄嗟に駆け寄り、その壊れかけの鉄の手に、自らの手を重ねた。


「もういいよ、マモル。君は十分頑張った。……これからは、ボクと一緒に来て。君の『守りたい』という気持ち、ボクの聖杯に預けてくれないかな?」


アヴァンの「繋ぐ力」が、人形の核へと流れ込む。

 それは魔力の供給ではない。孤独に耐え続けた人形の魂を、聖杯という「新しい家」へ招き入れる契約の儀式だった。人形の体から溢れ出した眩い光が、アヴァンの聖杯に吸い込まれていく。


それと同時に、人形の物理的な体は静かに崩れ、一振りの「小さな槌」へと姿を変えてアヴァンの手の中に収まった。


【新たな守護霊:マモル】

『……マスター……。……私ハ……。……貴方ヲ……守リマス……』


アヴァンの脳裏に、幼い少年のように純粋で、どこか無機質な声が響いた。


「……三人目の守護霊、だね」


ハンス(剛腕の盾)、リリ(疾風の翼)に続き、新たに加わったマモル(魔導の知恵と修復)。

 彼は生前(稼働時)の知識を活かし、アヴァンの武具や要塞の設備を瞬時に最適化・修復する能力を持っていた。


「……ふふ、賑やかになっていくわね。バルト、紅茶の準備はもう一人分必要かしら?」


「ええ、セレスティア様。たとえ鉄の体を持たぬ魂であっても、坊ちゃまの家族であることに変わりはございませんので」


バルトは満足げに頷き、再び馬の準備を整える。

 人助けの寄り道で得たのは、ただの戦力ではない。公爵家が「ゴミ」として捨てたものの中にも、尊い魂があるという確信だった。


「行こう。……次はアイゼン砦だ。……マモル、君の力、貸してね」


『……了解……マスター。……アイゼン砦、構造解析開始……』


白銀の聖杯に、また一つ新しい色が加わった。

 アヴァンたちは、より強い絆を胸に、母ナリアの面影を残す黒き要塞へと再び足を踏み入れる。


【新ユニット:守護霊(第三)マモル】

能力:【事象修復リペア・オーダー


戦闘中に破損した武具を瞬時に修復し、敵の構造的弱点を解析する。


特性: アヴァンの聖杯の「知恵」を担当。物静かだが分析は冷徹。

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