アイゼン砦の断罪官――執事(バルト)の本気
廃村での出会いを経て、アヴァンたちはついに公爵領の喉元、アイゼン砦の峻険な城壁の下へと到達した。
かつて母ナリアが領民のために築いたその砦は、今や赤黒い「虚無」の魔力に侵食され、巨大な墓標のように沈まり返っている。
「……バルト。あそこにいるのが、君の言っていた……」
「ええ。……私の、かつての同僚にございます」
バルトが視線を向けた先、砦の正門の上に一人の男が立っていた。
漆黒の法衣を纏い、巨大な法杖を手にした男――第一の断罪官、ヴィクトール。
彼の周囲には、公爵の呪いによって生気を持たない「漆黒の操り人形」たちが隙間なく並び、一斉にアヴァンたちへ弓を向けた。
「……バルトか。よもや生きていたとはな。……だが、かつて公爵家最強の『掃除屋』と謳われた男が、今や出来損ないの王子の守り役とは。……落ちぶれたものだ」
ヴィクトールの声が、魔力に乗って重々しく響く。
バルトは燕尾服の袖を整え、表情一つ変えずに歩み出た。
「落ちぶれたつもりはございませんよ、ヴィクトール。……私は今、人生で最も『やりがい』のある仕事に就いておりますので」
「ふん……。ならば、その『やりがい』ごと虚無に消えるがいい! 【断罪の牢獄】!」
ヴィクトールが法杖を振り下ろすと、砦全体から黒い鎖のような魔力が溢れ出し、アヴァンたちの周囲の空間を物理的に削り取り始めた。
【新旧連携:マモルの解析とバルトの技】
「……危険デス。マスター。……この術式、空間の構造そのものを崩落させていマス」
アヴァンの手の中で、槌の姿をしたマモルが警告を発した。
「マモル、弱点は分かる?」
『……了解。……アイゼン砦の魔力供給源は、城壁四隅のガーゴイル像。……そこを同時に破壊すれば、障壁の9割が消失シマス。……座標、転送。……バルト殿、行けますカ?』
「……ご丁寧に恐れ入ります。マモル殿」
バルトが動いた。
一瞬、その姿が霧のように消えたかと思うと、彼は「虚無の鎖」の間を、物理法則を無視したような軌道で駆け上がっていった。
「な……ッ!? 捉えきれんというのか!」
ヴィクトールが焦燥を露わにする。
バルトは空中で燕尾服を翻し、袖口から白銀の糸を解き放った。マモルが示した座標、四つのガーゴイル像の首に、寸狂いなくその糸が巻き付く。
「……私の掃除は、少々『手荒い』ですよ。【執事の矜持】!」
バルトが指先を弾くと、糸に込められた衝撃波が四つの石像を同時に粉砕した。
ドォォォォン! という爆発と共に、砦を覆っていた黒い霧が霧散する。
「……馬鹿な! アイゼンの絶対防御を、たった一人の人間が……!」
「……人間だからこそ、ですよ。……坊ちゃま、道は開けました!」
【聖氷の合体:アイゼン砦の解放】
「ありがとう、バルト! ……姉様、行こう!」
「ええ、アヴァン。私たちの故郷を、汚されたままにはしておけないわ!」
アヴァンが聖杯を掲げ、セレスティアがその隣で剣を構える。
ハンスの重厚な盾が前方を守り、リリの風が二人を加速させる。
「聖杯、出力最大! ……姉様、ボクの光に、氷を混ぜて!」
「……凍てつき、そして清まりなさい! 【聖氷・魂の浄化】!」
アヴァンの白銀の光と、セレスティアの蒼い氷が螺旋を描き、アイゼン砦の正門へと直撃した。
虚無に染まっていた砦が、一瞬にして眩い氷の結晶へと変わり、その直後に温かな光となって「呪い」だけを霧散させていく。
「……あ、あぁ……。……ナリア、様……」
断罪官ヴィクトールの体が光に包まれ、その瞳から濁った黒い影が消えていく。彼はかつての「同僚」であるバルトの姿を最後に見つめ、満足げにその場に膝を突いた。
戦いが終わり、砦を包んでいた禍々しい気配は消え去った。
そこには、かつて母ナリアが愛した、質実剛健で温かな「砦」の姿が戻っていた。
「……これで一つ目、だね。バルト」
「左様でございますな、坊ちゃま。……ですが、公爵領の奥深くには、まだ二人の『断罪官』が控えております」
アヴァンは砦の最上階から、遥か先にある父の城を見つめた。
そこには、より深い闇が渦巻いている。
【アイゼン砦奪還】
主要戦果: アイゼン砦を解放。公爵領への補給路を確保。
バルトの評価: 敵断罪官を圧倒。執事としての威厳を見せつける。
マモルの活躍: 初陣にして的確な構造解析を披露。
聖杯の進化: アヴァンとセレスティアの合体技が成功。




