神を喰らう者の終焉、そして父(虚無)との対峙
白銀の翼を羽ばたかせ、アヴァンは戦場の上空へと舞い上がった。
ハンスの重厚な鎧、リリの疾風の翼、そしてバルトの万物を繋ぐ知恵。三つの強大な守護霊と完全に融合した【聖杯王】の姿は、戦場を照らす新たな月のように神々しかった。
だが、そのアヴァンのすぐ隣には、翼を持たずとも自らの氷の足場を空中に形成し、凛々しく立つ一人の女性がいた。アヴァンの姉、セレスティア・アグニールである。
「……アヴァン。一人で行かせはしないわ。私たちがアグニールに終止符を打つのよ」
「ありがとう、姉様。……行こう、ボクたちの戦いへ!」
アヴァンの声は、戦場全体を包み込む「意志」となって響き渡った。
地上で傷つき、倒れていた獣人や兵士たちが、その二人の光を見て、絶望の淵から這い上がる。彼らの瞳には、恐怖ではなく、自らの領主と、その頼もしい姉への絶対的な信頼が宿っていた。
「……生意気な。……私の、最高傑作を……ッ!」
漆黒騎士団の後方、巨大な多脚兵器『神を喰らう者』の最上部に鎮座していた、変わり果てた次兄カイルが咆哮した。
彼は兵器の中枢と半ば融合し、全身を黒い魔力の触手に蝕まれながら、かろうじて人間の形を保っている。その瞳は濁り、ただアヴァンへの憎悪だけが燃え盛っていた。
【決戦:聖杯王と氷姫 vs 神を喰らう者】
カイルの意志に応じ、兵器の巨大な砲口がアヴァンへと向けられた。
ドォォォォン! と、周囲の空間を歪ませるほどの重力波が放たれる。直撃すれば、山さえも消し飛ぶ破壊力。
だが、アヴァンは避けなかった。
「……ハンスさん! ボクの『護りたい』という意志を、盾にして!」
『応よ! 小僧の意志、このハンスが、命に代えても形にしてやるッ!』
アヴァンの前方に、白銀の光で形成された巨大な盾――**【絶対聖域】**が展開された。
重力波が盾に激突し、凄まじい衝撃波が周囲の漆黒騎士団を吹き飛ばす。だが、盾は微動だにしない。アヴァンの「奪わせない」という意志が、物理法則さえも凌駕したのだ。
「……次は、ボクたちの番だ!」
アヴァンが光の翼を羽ばたかせ、リリの風で加速する。それと同時に、セレスティアが指先を空へ向けた。
「凍てつきなさい! 【氷界・千重の剣】!」
空中に無数の氷の剣が顕現し、雨あられと『神を喰らう者』の多脚へと降り注ぐ。多脚の関節部が氷結し、巨体の動きが目に見えて鈍る。その隙を見逃さず、アヴァンは兵器の胴体部へと肉薄した。
「……姉様! 力を貸して!」
「ええ、アヴァン! 私の魔力を、あなたの聖杯に捧げるわ!」
セレスティアがアヴァンの背中に手を添え、自らの膨大な氷の魔力を直接アヴァンの「聖杯」へと流し込む。
霊体たちの力と、生身の姉の魔力がアヴァンの中で一つに溶け合う。
アヴァンの愛剣に、絶対零度の蒼い炎が宿る。【氷解の一閃】。
アヴァンが一閃させると、兵器の外殻を覆っていた強力な対魔障壁が、ガラスのように砕け散った。
「……な、なんだと……ッ!? 私のバリアが……一撃で……!?」
カイルが驚愕する間もなく、アヴァンとセレスティアは、障壁の砕けた穴から兵器の内部、迷宮のような機関部へと突入していった。
【兵器内部の死闘:霊体と人間の連携】
兵器の内部は、禍々しい黒い魔力の触手が蠢く異界だった。
壁面からは呪われた自動防衛ゴーレムが次々と這い出し、侵入者を排除しようと襲いかかる。
「……ここはボクたちが引き受けるわ。アヴァン、あんたは姉さんと一緒に奥へ!」
リリの声と共に、アヴァンの体から三つの霊体が分離し、実体化した。
ハンス、リリ、バルト。彼らはアヴァンとセレスティアが心臓部へ辿り着けるよう、殿を買って出たのだ。
『……ふん、公爵家の薄汚い魔術の匂いだ。小僧、ここは俺たちが食い止める。……バルト、リリ。……俺たちの『未練』、ここで晴らすぞ!』
「……左様でございますな。公爵家の腐った歴史、ここで一つ清算いたしましょう」
「ボクの風を邪魔する奴は、全部切り刻んであげるわ!」
三人の守護霊たちが、機関部を守るゴーレムや、呪われた漆黒騎士の生き残りと激突する。
ハンスの盾が通路を封鎖し、リリの風が敵を翻弄し、バルトの魔術が敵のシステムを次々とハッキングしていく。
その隙に、アヴァンとセレスティアはさらに奥、兵器の心臓部である「核」へと向かって走り抜けた。
「……姉様、大丈夫? 顔色が悪いよ」
「……平気よ。少し魔力を使いすぎただけ。……それより、見て。あそこが……この惨劇の源ね」
辿り着いた最深部。そこには、巨大な水晶の中で、全身を機械と魔導回路に繋がれたカイルが、虚ろな瞳で宙を見つめていた。
「……アヴァン……。……セレスティア……。……お前たち、二人……揃って……裏切り者……め……」
カイルの言葉は、もう人間のものとは思えなかった。彼は兵器の「生体部品」として、最後の魔力を絞り出そうとしている。
「……カイル。もうやめなさい。そんな体で、何を勝ち取ろうというの?」
セレスティアの声が、悲しげに響く。
だが、その問いに答えたのはカイルではなかった。
【父(虚無)との対峙:ホログラムの審判】
「……やめる必要などない。……むしろ、ここからが本番だ」
心臓部の壁面に、巨大なホログラムが浮かび上がった。
そこに映し出されたのは、アヴァンの実父であり、セレスティアの父でもある、アグニール公爵だった。
彼は公爵家の玉座に悠然と座り、まるで退屈な演劇を眺めるかのような冷徹な瞳で、自分の子供たちを見下ろしていた。
「……父上。……まだ、こんな残酷なことを続けるつもりなの?」
セレスティアが怒りに震えながら叫ぶ。
だが、公爵は眉一つ動かさず、淡々と答えた。
「……残酷? 私はただ、適材適所に配置しただけだ。……無能なお前たちを捨て、有能なカイルを最強の兵器の核とした。……結果として、お前たちは私の予想を超えて成長した。……皮肉なものだな。……私の『絶望』こそが、お前たちの『力』を育てたのだから」
「……そんなの、教育じゃない! ただの略奪だ!」
アヴァンが聖杯を握りしめ、父を睨みつける。
「……父上の『計画』って、何なの? ……家族をバラバラにして、世界を壊して……何が楽しいの?」
「……楽しい、だと? ……下らぬな。……私はただ、この停滞した世界を……『無』に還したいだけだ。……アグニール家の呪い……それは『略奪』の果てにある『虚無』。……全てを奪い尽くせば、後には何も残らない。……その究極の静寂こそが、私の提唱する『真の救済』だ」
公爵の瞳が、ホログラム越しに、アヴァンの聖杯の光を吸い込むかのように陰った。
「……さぁ、アヴァン。セレスティア。……最後の『試練』だ。……お前たちの抱えるその『絆』という不確かな光が、私の『虚無』の前に、どれほど通用するか……。……その身をもって、証明してみせろ」
公爵の通信が一方的に途切れる。
それと同時に、カイルを繋ぐ水晶が、禍々しい黒い光を放ち始めた。兵器の核が一気に暴走を始め、周囲の空間そのものを飲み込もうとする「負の重力」が発生した。
「……きゃあああッ!」
セレスティアの体が、黒い渦に吸い込まれそうになる。
アヴァンは咄嗟に姉の腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。
「……姉様、ボクを信じて! ……ボクの光は、父上の虚無になんて負けない!」
【最終奥義:聖杯王・魂の共鳴】
アヴァンはセレスティアを抱き寄せたまま、右手の聖杯をカイルの水晶へと突き立てた。
バルト、ハンス、リリの力が、そして隣にいるセレスティアの「生きた魔力」が、アヴァンの聖杯を介して一つの巨大な光の渦となる。
「……カイル兄様! ……ボクたちが、君を呪いから救い出す! ……母様が待っている場所に、連れて行ってあげる!」
蒼銀の光が、兵器の内部を満たしていた黒い魔力と真っ向から激突する。
それは物理的な破壊ではなく、カイルを縛り付けていた「アグニール家の呪い」を、慈愛の光で溶かし去る儀式だった。
「……あ、あぁ……。……アヴァン……。……セレスティア……。……あったかい、な……」
カイルの魂を蝕んでいた略奪の衝動が、光に包まれて消えていく。
兵器の心臓部である巨大な水晶が、内側から弾けるように粉砕された。
ドォォォォォンッ!
巨大な爆発と共に、『神を喰らう者』の胴体部が吹き飛んだ。
多脚の足が砕け、山のような巨体が、ゆっくりと、しかし確実に崩壊していく。
周囲にいた漆黒騎士団も、制御を失い、ただの鉄の抜け殻となって地面に転がった。
戦場を覆っていた黒煙が、風に流されて消えていく。
倒れ伏した兵器の残骸の上。そこには、意識を失ったセレスティアを抱きかかえ、朝日の中で白銀の翼を休める、一人の少年の姿があった。
「……お見事でした。坊ちゃま。……セレスティア様も、お疲れのご様子。……ですが、命に別状はございません」
バルトが実体化し、優雅に一礼する。ハンスとリリも、戦い抜いた満足感を顔に浮かべ、アヴァンの周りに集まった。
「……終わったんだね、バルト」
「いいえ。……これは、アグニール公爵家との本当の戦いの、始まりにございます」
アヴァンは、空の向こうにある父の居城を見据えた。
隣で眠る姉、そして自分を支えてくれる守護霊たち。
もう、アヴァンは「ゴミ捨て場の少年」ではない。
呪いを打ち砕き、絆で世界を繋ぐ、真の**【聖杯王】**として、彼は立ち上がった。
【第一部リザルト:聖杯王の誕生】
主要戦果: 神を喰らう者破壊、漆黒騎士団壊滅。
主要メンバー: アヴァン、セレスティア(生還)、バルト、ハンス、リリ。
要塞ステータス: 被害は大きいが、住民の結束は揺るぎないものに。
アヴァンの状態: SP 限界突破。【聖杯王】の力を完全に定着。
セレスティアの状態: 魔力を使い果たし昏睡中だが、心の呪縛からは解放された。
第一部、完結。




