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要塞防衛の総力戦――結ばれた魂の咆哮

地平線を埋め尽くす「黒」が、音を立てて押し寄せてきた。

 アグニール公爵家が誇る最精鋭、漆黒騎士団。彼らは生きた人間に禁忌の呪印を刻み、痛覚を抹消し、ただ主の命に従って殺戮を繰り返す「歩く鎧」の軍勢だ。その数、およそ三千。対する要塞ナリアの防衛戦力は、後方支援を含めても三百に満たない。


「……来たわね。あの不吉な魔力の波動……空気が腐っていくのがわかるわ」


城壁の最上段、白銀の甲冑を纏ったセレスティアが、細身のレイピアを構えながら低く呟いた。彼女の周囲には、極低温の魔力が渦巻き、触れる空気さえも結晶化させていく。


「姉様、怖がらなくていい。……ボクたちはもう、一人じゃないんだから」


アヴァンは右手の聖杯を高く掲げた。

 その瞬間、要塞全体に張り巡らされた古代の魔導回路が、地下遺跡の深層炉から供給される莫大なエネルギーによって、黄金色の脈動を開始する。


「全ユニット、リンク開始! ……みんな、ボクの『声』を聞いて!」


【聖杯奥義:広域意志共有レギオン・リンク発動】

アヴァンの意識が、戦場に立つ全住民の脳裏へと直接流れ込む。

 ガラム率いる灰狼族の鋭い嗅覚、ロルフ率いる歩兵隊の堅実な判断、そして森の精霊たちの微細な魔力感知。それら全てがアヴァンの「聖杯」を介して統合され、一つの巨大な「生命体」としての防衛網が完成した。


「……第一防衛線、起動! 精霊たち、お願い!」


アヴァンの合図と共に、城門前の荒野が激しく波打った。

 地面に潜んでいた「森の小人ドライアド」たちが、アヴァンから分け与えられた魔力を一気に解放する。

 ズズズッ! と地を割って現れたのは、鋼鉄のように硬質化した巨大な茨の触手だ。先陣を切っていた漆黒騎士団の馬たちが脚を絡め取られ、次々と転倒していく。


「今だ! ゴーレム・タレット、照準固定。放てッ!」


城壁に据え付けられた十二門の古代砲が、一斉に火を噴いた。

 放たれたのは物理的な弾丸ではない。地下遺跡の純粋な魔力を凝縮した「蒼白の熱線」だ。

 ドォォォォン! という轟音と共に、漆黒の軍勢の中央に巨大な光の柱が立ち昇る。一撃で数十人の騎士が消滅したが、それでも後続の「黒」は、倒れた仲間の骸を踏み越えて、無感情に進撃を続けた。


「……化け物め。痛みを感じないというのは、これほどまでに厄介か」


ハンスが実体化し、城門の直前に仁王立ちした。

 彼の背後には、ロルフ率いる元兵士たちの重装守備隊が、古代の霊力盾を隙間なく並べて「亀の陣」を敷いている。


『小僧、城門は一歩も通さねぇ。……野郎ども! アヴァン様に拾ってもらったこの命、使い所は今だぞ! 踏ん張れッ!』


「応ッ!」


ロルフたちの怒号が響く。

 激突――。

 漆黒騎士団の重装騎兵が、凄まじい衝撃と共に盾の壁に激突した。

 本来なら一瞬で粉砕されるはずの衝撃。だが、彼らの盾にはアヴァンの聖杯から絶え間なく「再生」の魔力が流れ込んでいた。盾が割れても即座に修復され、兵士たちの疲労は聖杯の光が癒やしていく。


「左翼が薄い! ガラム、リリ、お願い!」


「任せろアヴァン様! 灰狼族の意地、見せてやるぜ!」


城壁の影から、風の塊が飛び出した。

 リリが巻き起こす局地的な竜巻に乗り、ガラムたちが空中を舞う。彼らは魔導装甲のブーストを全開にし、漆黒騎士団の頭上から、雷光を纏った一撃を叩き込んでいく。

 一対一なら漆黒騎士の方が強いかもしれない。だが、アヴァンの「眼」によって敵の死角を完全に把握している獣人たちは、まるで未来を予知しているかのような正確さで、敵の関節や防具の繋ぎ目を切り裂いていった。


だが、戦況は次第に、物量の暴力によって押し切られようとしていた。

 漆黒騎士団の後方から、あの巨大な多脚兵器『神を喰らうデウス・エクス』が、その醜悪な巨体を震わせて前進してきたのだ。


ガガガ……ギギギ……と、金属が擦れる不快な音を立て、兵器の先端にある「大口」が開く。

 そこには、周囲の魔力を強引に吸い込み、黒い渦を作る「負の特異点」が形成されていた。


「……マズい! 全員、伏せて! 障壁を最大展開だ!」


セレスティアが叫ぶのと同時、漆黒の閃光が放たれた。

 要塞を覆っていた銀色の結界が、ガラスのように砕け散る。爆風に飛ばされ、城壁の一部が崩落した。


「……あ、あう……」


避難していた住民たちの叫び声が、アヴァンの耳に届く。

 土煙の中から立ち上がったアヴァンが見たのは、傷つきながらも、互いを庇い合う住民たちの姿だった。

 獣人の母親が、人間の子供を抱きしめている。

 怪我をした兵士を、精霊たちが懸命に癒やそうとしている。


その光景を見た瞬間、アヴァンの心の中で、何かが完全に弾けた。

 憎しみではない。母ナリアが遺した、この「結ぶ力」を蹂躙しようとする者への、静かな、けれど絶対的な「拒絶」の意志だ。


「……もう、十分だよ。みんなの想いは、全部ボクに届いた」


アヴァンの身体から、これまでとは比較にならないほどの銀色のオーラが噴き出した。

 それは城壁を越え、空を覆い尽くし、戦場全体を「白銀の夜」へと変えていく。


「バルト、ハンスさん、リリ、姉様。……ボクを、ボクに貸して。……この『器』を、全部みんなに捧げる」


【最終覚醒:聖杯王・アヴァン(グラール・レガリア)】

ハンスの盾が、アヴァンの鎧をさらに重厚な白銀へと変える。

 リリの風が、アヴァンの背に巨大な光の翼を形成する。

 セレスティアの氷が、愛剣に絶対零度の輝きを与える。

 そして、バルトの「万物を繋ぐ知恵」が、それら全ての力を一つに束ね上げた。


「……下がっていて。……ここからは、ボクたちの喧嘩だ」


アヴァンが翼を羽ばたかせ、空へと舞い上がる。

 その背後には、何百、何千という「救われた魂」たちの幻影が、光の軍勢となって立ち並んでいた。


「行くよ、アグニール公爵家。……これが、君たちが捨てた『無能』の、本当の答えだ!」


【現在の戦況:決戦の極点】

要塞ダメージ: 35%(一部城壁崩落、住民は安全圏へ避難完了)


敵軍損害: 漆黒騎士団、約40%無力化。


アヴァンの状態: 【聖杯王】形態。SP 限界突破(計測不能)。


住民の士気: MAX(アヴァンの光を見て、絶望が希望へと塗り替えられる)

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