食卓の騎士道――肉とパンの宴
その日の夜、要塞ナリアの広場では、ここまでの苦労を労い、そしてセレスティアの歓迎を兼ねた大晩餐会が開かれた。
メニューは、アヴァンが丹精込めて育てた黄金の麦で作った焼きたてのパンと、ハンスが森の奥で仕留めてきた大猪の丸焼き、そしてセレスティアの魔法でキンキンに冷やされた極上の果実水だ。
「……おいしい。公爵家の、あの息が詰まるような沈黙の中で食べる食事とは……全く別の食べ物のようだわ」
セレスティアが、隣に座るガラムから手渡されたばかりの串焼きを、上品に、けれど勢いよく頬張る。
「だろ、セレスティア様! 俺たちが命がけで獲ってきた獲物を、バルトさんが魔法みたいに美味しく味付けしたんだ。不味いわけがないって! ほら、こっちの希少なベリーのソースも試してくれよ!」
「ふん、肉の焼き加減が少々甘い。私ならば魔力で分子レベルから均一に加熱するのだがな。……まぁ、この『炭の香り』という不合理な隠し味も、悪くはない」
ハンスが霊体のまま、自分の分がないことを悔しそうにしながらも、住民たちの笑顔を見て満足げに鼻を鳴らす。
アヴァンはその光景を、中央の席から静かに見守っていた。
かつて自分をゴミのように虐げた元兵士たち。
人間を恨み、追いつめられていた獣人たち。
そして、心を殺して戦う人形だった姉。
本来なら決して交わることのなかったバラバラの魂が、今、一つの焚き火を囲み、同じパンを分け合っている。
「……みんな。ボクは、この場所が大好きだ。だから、何が来ても、命に代えても守り抜くよ。この温かな食卓を、誰にも壊させない」
アヴァンの真っ直ぐな言葉に、広場を包んでいた喧騒が、潮が引くように静まり返った。
それは恐怖による沈黙ではない。確固たる忠誠と、この小さな「居場所」への深い愛着が生んだ、祈りにも似た静寂だった。
「……坊ちゃま。良い演説です。……ですが、その『命に代えて』という言葉だけは、今日限りでお取り下げください。あなたが生き、皆と笑い、明日もまたパンを食べる。それこそが、亡きナリア様の、そして我ら守護霊、並びにここに集う全住民の唯一の悲願なのですから」
バルトが優雅に一礼し、アヴァンの杯に最高品質の葡萄水を注ぐ。
絆の糸は、今この瞬間、鋼よりも硬く、氷よりも鋭く編み上げられた。
【現在の要塞ステータス:至福】
住民: 灰狼族、元アグニール兵、森の小人(庭師)、セレスティア。
内政: 自給自足体制が完全に確立。魔力による「全自動温室」が稼働中。
アヴァンの状態: 精神的支柱としてのカリスマが急上昇。SP 18000。




