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氷姫の来訪と、聖杯の抱擁

野盗団との初陣から数日。要塞ナリアの城壁に立つアヴァンの頬を、季節外れの鋭い冷気が撫でた。

 街道の先から現れたのは、公爵家の軍勢ではない。白銀の髪をなびかせ、一歩歩くたびに地面を凍らせる一人の女性――アヴァンの異母姉、セレスティア・アグニールだった。


「……アヴァン。やはり、生きていたのね。いえ……その眼、見違えたわ」


彼女の声は、周囲の空気を物理的に凍らせるほど鋭く、冷たい。だが、アヴァンはその瞳の奥に、かつて自分が公爵家で泥を舐めさせられていた時、周囲の目を盗んでそっとパンを置いていってくれた「姉」の面影を見た。


「セレスティア姉様。……公爵家は、ボクを消すために姉様を差し向けたんだね」


「……閣下の命令は絶対よ。カイルを葬り、この地に不遜な城を築いた逆賊として、あなたの首を持ち帰らなければならない。……抜きなさい、アヴァン。今のあなたなら、死ぬ間際に少しは『牙』を見せられるでしょう?」


彼女が細身のレイピアを抜くと、大気が凍結し、周囲に無数の氷の長剣が顕現した。

 バルトが静かに前に出ようとするが、アヴァンはそれを手制した。


「バルト、下がっていて。……これは、ボクが向き合わなきゃいけない『過去』なんだ」


【姉弟対決:氷の世界 vs 蒼銀の聖騎士】

セレスティアの攻撃は苛烈を極めた。

 彼女の氷魔法は、公爵家の血筋の中でも突出している。地面は一瞬で滑る氷床と化し、アヴァンの足元からは鋭い氷柱が次々と突き上げる。


「どうしたの、アヴァン! 逃げるだけ? 昔のまま、泣いて許しを乞うつもり!? ……戦いなさい! 戦って、私を殺さなければ、あなたも、この村の連中も全員氷像にしてやるわ!」


叫びながら放たれる氷の乱舞。だが、アヴァンは「蒼銀の聖騎士」の力を使い、最小限の動きですべてを弾き飛ばしていく。

 戦いの中で、アヴァンは気づいた。彼女の魔力は、あまりに悲しく、震えている。それは怒りではなく、誰にも頼れず一人で凍えてきた孤独の叫びだ。


「……姉様も、あんな家にいたくなかったんだね。……その氷、冷たすぎるよ。自分まで凍りつかせようとしているみたいだ」


「黙りなさい! 私には、あそこで生き抜く道しかなかった! 感情を捨て、人形になるしかなかったのよ!」


セレスティアのレイピアが、アヴァンの喉元に突きつけられる。

 だが、アヴァンは剣を抜かなかった。それどころか、無防備にその刃を受け止めるように、一歩前へと踏み出した。


「――もう、一人で凍えてなくていいんだよ。姉様」


【聖杯奥義:氷解の抱擁ソウル・リべレイション

アヴァンは右手の聖杯を掲げ、温かな、陽だまりのような白銀の光を放った。ナリア母様から受け継いだ「結ぶ」力が、セレスティアの冷徹な魔力を包み込んでいく。


「母様が言ってたんだ。ボクの聖杯は、行き場を失った魂に居場所を与える器だって。……姉様の孤独も、その氷のような悲しみも、全部ボクが引き受けるよ。……ボクの中に、おいでよ」


白銀の光がセレスティアを包み込む。

 彼女が必死に築き上げてきた「拒絶の氷壁」が、アヴァンの圧倒的な慈愛の前に、春の陽光を浴びた雪のように溶け出していく。

 彼女の脳裏に、幼いアヴァンと交わした唯一の温かな記憶――隠れて分け合った一切れのパンの味が蘇る。


「……あ、あぁ……。アヴァン……私、私は……」


レイピアがカランと手から零れ落ちた。

 セレスティアは崩れ落ち、アヴァンの胸に顔を埋めて、子供のように声を上げて泣きじゃくった。公爵家で「人形」として生きることを強要され、心を殺し続けてきた氷姫が、初めて一人の「姉」に戻った瞬間だった。


「……お帰り、姉様。ここは、もうあんな地獄じゃないよ。……ボクたちの家だ」


【リザルト:セレスティアの帰順】

新規加入: セレスティア・アグニール(公爵家最強の魔導騎士・氷属性)。


聖杯の進化: 彼女の魔力を受け入れたことで、アヴァンの武装に「極低温の氷結効果」が追加。


SP最大値: 12000 → 18000(高位血族との魂の共鳴による爆発的成長)


落ち着きを取り戻したセレスティアは、アヴァンの要塞の設備と、そこに住む獣人たちの笑顔を見て、信じられないという表情を浮かべていた。


「……アヴァン。あなたがこれほどまでの場所を作ったなんて。……でも、気をつけて。私が戻らなければ、父様は本気で『漆黒騎士団』を動かすわ。あれは……人間であることを捨てた狂人たちの集団よ」


「分かっているよ、姉様。……でも、今のボクには、姉様も、バルトも、ハンスさんもリリも……みんながいる。……もう、負ける気がしないんだ」


アヴァンの隣には、新たな「守護者」としてセレスティアが並び立つ。

 要塞ナリアは、今、公爵家を打ち倒すための最強の布陣を整えつつあった。

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