鋼の胎動――「亡霊の村」から「聖杯の要塞」へ
リリの同族の魂を救い出した地下遺跡は、アヴァンを「正当なる継承者」と認めたことで、数千年の眠りから真の機能を呼び覚ましていた。中央制御室に鎮座する巨大な青碧の水晶にアヴァンが触れると、心臓の鼓動に似た重低音が足下から響き渡り、村の各地で劇的な変貌が始まった。
「坊ちゃま、見ておいでですか。……地面から、見たこともない金属の塔がせり出してまいりましたぞ」
バルトの驚き混じりの報告を受け、地上に戻ったアヴァンの目に飛び込んできたのは、神話の一節が具現化したかのような光景だった。
かつて廃村を囲んでいたボロボロの石壁が、地下から這い出した未知の古代合金「ミスリル・スチール」のプレートによって飲み込まれ、内側から補強されていく。鈍い銀色に輝くその城壁は、厚さ数メートルに及び、魔導回路が血管のように淡く明滅していた。
【遺跡権限解放:拠点要塞化】
外壁: 自動防衛システム「イージス・ウォール」による全方位カバー。
エネルギー: 地下遺跡の魔力炉から、村全体へ無尽蔵の霊力を分配。
生産施設: 「古代兵装鋳造所」が再起動。
「……すごい。これなら、公爵家の正規軍が来ても守りきれるかもしれない」
『ふん、壁だけじゃ足りないわよ、アヴァン。……こいつらにも、「牙」が必要でしょ?』
覚醒し、より神々しい霊気を纏ったリリが、村の広場に集まった獣人たちと元兵士たちを見やる。アヴァンは力強く頷き、遺跡の転送陣から現れた「古代の武装」を、一人一人の目を見て手渡していった。
「ガラム、ロルフ。……君たちに、これを託したいんだ。ボクの腕になって、みんなを守ってほしい」
差し出したのは、獣人の俊敏さを損なわない超軽量の魔導装甲と、兵士たちの防御力を底上げする霊力盾。アヴァンの「聖杯」から無線で魔力を供給されることで、着用者の筋力を数倍に引き上げ、物理・魔法両面への高い抵抗力を付与する「生きた鎧」である。
「……アヴァン様。この武具、まるで自分の体の一部のように馴染みます……力が溢れてくるようだ!」
ガラムが装甲を纏い、一跳びで五メートル以上の高さを軽々と越える。元兵士のロルフも、かつては両手で持っていた重厚な大盾を片手で自在に操り、その強固な守りに感嘆の声を上げた。
要塞化が進む中、アヴァンは自らも最前線に立ち、泥にまみれて訓練に加わった。
バルトの指導は日を追うごとに苛烈さを増していく。ハンスの「絶対防御」とリリの「神速」を、一瞬の澱みもなく切り替えるための特訓だ。
「坊ちゃま、甘いですな。……盾を構えるのは『腕』ではありません。背後の民を想う『心』で構えるのです。その揺らぎが、霊力の壁に穴を開ける!」
バルトが影から投じる超高速の模擬弾を、アヴァンはハンスの力を借りて正面から弾き飛ばす。
「分かってる! ……ボクはもう、誰にも奪わせない! 母様が遺してくれたこの場所を、ボクを信じてくれるみんなを!」
その時、城壁の監視塔から鋭い鐘の音が鳴り響いた。
「アヴァン様! 北の街道、約三キロ先に大規模な軍影を確認! ……公爵家の紋章はありません。周辺の村々を食い潰してきた、ならず者の大集団……野盗団『赤錆の爪』です!」
人数は約二百。正規軍ではないが、略奪と殺戮で鍛えられた荒くれ者たちだ。彼らは、急激に銀色へと輝き出したこの「亡霊の村」を、絶好の獲物だと判断したらしい。
「……いい機会だ。みんなの新しい装備と、ボクたちの絆の『試運転』をしよう」
アヴァンは蒼銀の聖騎士としての装甲を纏い、城門の前に立った。
右手の聖杯が、戦いへの高揚ではなく、大切なものを守るための静かな熱を帯びていた。
「バルト、ハンスさん、リリ。……ボクが先陣を切る。みんな、ついてきてくれるね?」
「心得ました。……野盗風情に、我が主の聖域を汚させた報い、たっぷりと味わわせてやりましょう」
銀の城門が重々しく開き、アヴァン率いる新生「聖杯騎士団」が、夕闇を切り裂いて出撃した。
【現在の要塞ステータス】
名称: 聖杯要塞・ナリア(急激な軍事拠点化により周辺警戒度上昇)
戦力: * 灰狼族・魔導スカウト(15名):高速移動と不意打ちに特化。
元アグニール歩兵・重装守備隊(50名):古代盾による強固な陣形。
SP最大値: 8500(地下遺跡とのパスが確立)




