灰狼族の魂(アニマ)
祠の地下、幾千年も時が止まったような静寂に包まれた遺跡を、アヴァンたちは進んでいた。壁面には、かつての超古代文明が刻んだ魔導回路が淡く青い光を放ち、アヴァンの「聖杯」と共鳴して脈動している。
「……なんだか、懐かしい匂いがするわ。でも、すごく悲しくて、冷たい匂い」
実体化したリリの表情が、いつになく強張っていた。彼女の指先が微かに震えているのを、アヴァンは見逃さなかった。
やがて、一行は巨大な円形広場へと辿り着く。そこには、無数の透明なクリスタルが林立し、その内部には「何か」が封印されていた。
「これ、全部……獣人なの……?」
アヴァンが息を呑む。クリスタルの中に閉じ込められていたのは、リリと同じ灰狼族の戦士たちだった。彼らは死んでいるのではない。魂だけを抽出され、遺跡を動かす「生体電池」として、永遠に終わらない悪夢の中で固定されていたのだ。
『……あぁ、そうよ。ようやく思い出したわ。ボクがどうして、あんな森の中で独りぼっちで死にかけていたのか』
リリがフラフラと中央の巨大なクリスタルへと歩み寄る。そこには、彼女によく似た、気品ある壮年の狼獣人が封じられていた。
『公爵家の連中じゃない。もっとずっと昔……「人間」たちが、ボクたちの種族の強靭な霊力を欲しがって、ここへ追い詰めたのよ。ボクの父様も、母様も、みんなここに……ボクだけが、囮になって外へ逃がされたんだ』
リリの瞳から、一筋の光が零れ落ちる。彼女がいつも「鈍臭い」と獣人たちを突き放していたのは、二度と同族を失いたくないという、臆病な愛の裏返しだったのだ。
【遺跡の防衛機能:魂の収穫者起動】
リリの悲しみに反応したのか、遺跡の守護者である巨大な浮遊機械が作動した。それは、クリスタルに封じられた同族たちの霊力を強制的に吸い上げ、禍々しい術式を編み始める。
「リリ、危ないッ!」
アヴァンは咄嗟にリリを突き飛ばし、ハンスの盾で光線を防ぐ。だが、盾が悲鳴を上げ、アヴァンの腕が焼けるような熱に包まれた。
『小僧! このままじゃクリスタルの中の魂ごと、この広場が消し飛ぶぞ!』
「……そんなの、絶対に嫌だ! リリ、もう一人で泣かなくていいよ。ボクの聖杯を使って。みんなを、ボクの『家族』として迎え入れるんだ!」
アヴァンは傷ついた腕を掲げ、ナリアから受け継いだ「聖杯」を最大出力で解放した。
「母様が言ってた……この力は『奪う』ためじゃなく、『結ぶ』ためのものだって。……みんな、ボクの中に来て! ここが、君たちの新しい居場所だ!」
【固有秘儀:聖杯の広域救済発動】
白銀の光が広場全体を包み込む。
クリスタルが次々と砕け散り、閉じ込められていた灰狼族の魂たちが、光の粒子となってアヴァンの右手の紋章へと吸い込まれていく。それは「捕食」ではない。彼らの苦痛をアヴァンが肩代わりし、一時的に「聖杯の中」で眠らせるという、究極の慈悲だった。
『……アヴァン。あんた、本当に馬鹿ね。こんなにたくさんの魂を引き受けるなんて……。でも、ありがとう。ボクの家族を……救ってくれて』
リリの体が、かつてないほどの青い光を放ち始める。同族たちの魂がアヴァンを経由し、彼女へと「力」を貸し与えたのだ。
【リリの真の覚醒:月下の神狼】
少女の姿だったリリが、一瞬にして巨大な、それでいて美しい蒼い狼へと変貌した。
彼女が一吠えすれば、遺跡を支配していた防衛機械は紙屑のように粉砕され、地下深くの冷気は一瞬で吹き飛んだ。
「……終わったよ、リリ」
元の姿に戻ったリリは、アヴァンの胸に顔を埋めて、子供のように声を上げて泣いた。
アヴァンはその小さな肩を、ただ静かに抱きしめ続けた。
【リザルト:灰狼族の守護】
獲得アイテム: 灰狼族の魂(アヴァンの中で眠りにつき、村の防衛霊となる)
リリのステータス: 【信頼】から【共生】へ。 常時、神狼の力を一部行使可能。
遺跡の機能: アヴァンを「正当なる後継者」として認識。自動修復が開始される。
SP最大値: 6000 → 8500(同族の魂との契約により大幅増)




