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母の遺言と、盾騎士の追憶収

穫祭の篝火が遠くで揺れ、獣人たちの歌声と元兵士たちの笑い声が風に乗って聞こえてくる。村が初めて手にした本物の安らぎの中、アヴァンはバルトに導かれ、森の深奥へと足を踏み入れていた。

 辿り着いたのは、苔むした巨岩に抱かれるようにひっそりと佇む、小さな石造りの祠だった。そこだけが、森の喧騒から切り離されたように清浄な空気に満ちている。


「……バルト、ここは?」


「ナリア様が、あなたが追放される数年前から、病の身をおして密かに通い詰めていた場所でございます。……ハンス、そろそろ坊ちゃまにお話しなさい。あなたがなぜ、ナリア様の名を知り、この地に留まっていたのかを」


バルトの促しに応じ、アヴァンの影から重厚な鎧を纏ったハンスが実体化した。彼は祠の前に膝を突き、兜の奥にある瞳で、かつての主を追憶するように静かに語り始めた。


『……小僧。いや、アヴァン様。俺がこの地で「亡霊」として彷徨っていたのは、単なる偶然じゃねぇ。……俺をここに縛り付け、この地を守るよう命じたのは、あんたの母親……ナリア様だ』


アヴァンは息を呑んだ。ハンスは十五年前、公爵家で反逆の罪を着せられ処刑されたはずの騎士だ。


『公爵家で「ある真実」を知りすぎた俺は、消される運命だった。だが処刑の夜、牢獄に現れたナリア様は、俺の魂に特殊な術式を刻んだんだ。肉体が滅んでも魂だけはこの地へ飛び、いつか来る「その時」を待てとな。……彼女は予見していたんだ。自分が長く生きられないことも、公爵家がアヴァン様をこの「ゴミ捨て場」へ放り出すことも』


「母様が……そんな前から、ボクのために……」


『「いつか私の息子がすべてを奪われ、絶望してここへ来る。その時、彼の盾になってほしい」。……それが、俺がナリア様と交わした最期の誓いだ。この廃村はゴミ捨て場じゃねぇ。あんたを公爵家の毒から隠し、真の王として育てるための「揺りかご」だったのさ』


ハンスが巨大な拳を祠の石扉に当てると、アヴァンの右手の紋章が共鳴するように白銀の光を放った。重い音を立てて扉が開き、その奥には一通の手紙と、不思議な輝きを放つ青い結晶が供えられていた。


アヴァンは震える手で、懐かしい母の筆跡をなぞる。


『愛するアヴァンへ。

ごめんなさい。あなたに「無能」の烙印が押されるよう、あなたの魔力回路に細工をしたのは私です。公爵家の「血の呪い」に呑み込まれ、戦いの道具にされることからあなたを守るには、それしか方法がなかった。


でも、あなたの本当の力は「奪う」ことではなく「結ぶ」こと。

右手の聖杯は、行き場を失った魂たちに居場所を与え、共に歩むための器。

復讐のために力を使わないで。あなたが愛する人たちのために、その器を満たしなさい。』


「……母様。ボクを守るために、わざとボクを……っ」


アヴァンの目から涙が溢れ、手紙を濡らす。カイルを喰らった時に感じたあのどす黒い衝動は、母の封印を突き破って溢れ出したアグニール家特有の「略奪の呪い」だったのだ。


「坊ちゃま。ナリア様は、あなたがその呪いを乗り越え、霊体たちと『共生』する道を選べるよう、ハンスやリリをここに配置されたのです」


『……ふん、湿っぽいのは柄じゃないけどさ。ボクたち霊体にとっても、彼女は恩人なの。……さぁ、その結晶を受け取りなさい。それが彼女の遺した、最後の鍵よ』


リリに促され、アヴァンが青い結晶――**【ナリアの涙:深淵の核】**に触れる。

 その瞬間、眩い光がアヴァンの身体を包み込み、聖杯の紋章が完成へと近づく。


【システム・メッセージ:聖杯の真価解放】

固有秘儀: 【魂の共鳴ユニゾン


効果: 霊体との合体時、アグニール家の「呪い(負の感情)」を完全に無効化。


SP最大値: 3500 → 6000


「……ボク、やるよ。母様が守りたかったこの村を、公爵家の誰にも汚させない。復讐のためじゃなく……ボクを家族だと言ってくれるみんなのために」


アヴァンの瞳から迷いが消え、領主としての真の覚悟が宿った。

 その時、祠の奥の床が沈み込み、さらなる地下へと続く巨大な階段が姿を現した。

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